↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/38

第22話 ヤマトマテリアル

【前回までのあらすじ】南シナ海のマレーヤ沖に超希少鉱物ヤマトマテリアルの鉱脈が存在するという情報を受け、内閣総理大臣の轟は国家情報局直轄の非公式部隊「カラス」を使い、情報の抹消を命じた。

2052年10月14日。この日は近代日本、あるいは人類のテクノロジー史において最も輝かしい大転換点となるだろう。


始まりは2026年、南鳥島沖の海底泥からレアアースを採掘すべく始動した国家プロジェクトだった。それから26年後のこの日、人類の文明を根底から覆す未知の物質が発見されたのである。


それまでの人類史において、最良の導電体は銀や銅とされてきた。電気抵抗が完全にゼロとなる「超伝導」の現象自体は知られていたものの、そのためには特定の物質を極低温まで冷却せねばならず、常温でのインフラ利用は不可能とされていた。


結果として、人類は実質的な通電物質として、銀や銅に依存し続けるほかなかった。しかしその常識は、南鳥島沖の海底から出た漆黒の物質によって覆された。


常温環境下において電気抵抗ゼロ、すなわち「常温超伝導」を可能にする、奇跡の新元素群が発見されたのである。


この奇跡の新物質は、発見国である日本にちなんで「ヤマトマテリアル」と総称された。


ヤマトマテリアルとは単一の鉱物名ではない。海底から採掘された3つの新物質を、日本のナノ精錬技術によって三位一体で結晶結合させることで、初めて常温超伝導の特性を発する人工化合物質である。


世界を揺るがしたこの3つの新物質には、日本の皇室に伝わる三種の神器を引用し、それぞれ「ヤタリウム」「マガタマイド」「クサナギウム」という名が与えられた。


ヤマトマテリアルの誕生は、世界の産業、経済、そして軍事技術のあり方を指数関数的に変貌させた。


同時にそれは、唯一の原産地と精錬技術を独占する日本の国力と国際的地位を、かつてない高みへと押し上げることになる。


最大の恩恵は、エネルギー資源に乏しかった日本が「完全なるエネルギー自給」を達成したことだった。


太陽光や洋上風力といった再生可能エネルギーで発電された電力は、ヤマトマテリアルによって「損失率ゼロ」で全国へ運ばれる。


送電過程で電気が熱となって消える悪夢から解放された日本は、石油、石炭といった化石燃料への依存を完全に脱却し、電力過剰国へと変貌を遂げたのである。


軍事のパラダイムシフトも劇的だった。2020年代から研究されながらも、超高圧電力の確保と装置の巨大化、そして過酷な発熱問題によって実用化の目処が立っていなかった「電磁砲レールガン」。


それが、ヤマトマテリアルによる電気ユニットの劇的な小型化にともない、護衛艦や潜水艦への搭載を可能にし、実戦配備されたのだ。


弾頭を極超音速(マッハ7)を超える領域で射出し、大気圏外から飛来する弾道ミサイルを火薬による爆発ではなく、衝突時の運動エネルギー(衝撃)のみで粉砕するこの兵器は、「核を持たざる国」であった日本の防衛構造を根本から塗り替えた。


そして、これら奇跡の恩恵は日常の暮らしにももたらされている。電気抵抗がゼロということは、電気を通しても一切熱が出ず、エネルギーの無駄が1%も発生しないということだ。


ヤマトマテリアルが組み込まれた都市部からは、巨大な送電線や変電所が姿を消し、都市を覆っていたエアコンの不快な室外機音や都市熱は劇的に抑えられた。


膨大な電力を消費するAIデータセンターは、従来の数十分の一というわずかな発電量で完璧に稼働し、熱対策に悩まされることもなく地下深くで静かに稼働し続けている。


街中には高効率なワイヤレス充電網が張り巡らされ、ノートPCやスマートフォンは「電源や充電器につなぐ」という概念を失った。


路上を往く車は圧倒的な走行距離を誇る次世代EVとなり、電車はすべて磁気で浮上するリニア方式となっている。


空港にはガソリンを使わない完全電動の大型旅客機が滑走路に並んでいる。


救急医療や宇宙産業、果ては農業に至るまで、ヤマトマテリアルは日本が抱える多くの致命的な問題を解決した。


だが、この恩恵を享受できているのは、世界でもまだ一握りの地域に過ぎない。


日本政府が厳重に供給量をコントロールするヤマトマテリアルは、輸出の大半が米国をはじめとする同盟国だったり、世界をAIで支配するメガテック企業に根こそぎ買い占められていた。


世界は日本がもたらすこの奇跡の素材を切望し、同時にその独占に対して激しい嫉妬と憤りの声を上げ始めていた。人類が電気抵抗における「熱」を克服した光の裏で、新たな地政学リスクという巨大な熱が発生していたのである。

【あとがき】今回もいかがでしたか?ちなみに銅はこの時代にもちゃんと存在してるので、電気抵抗がなくなったらドライヤーとかホットプレートとか電気ケトルなどが使えなくなるのは…という心配は不要です(笑)。


★「おもしろい!」と思っていただけたら、ページ下部の【★で応援】や【作品フォロー/ブックマーク】をしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!


★本作品はフィクションです。物語に登場する人物、団体、組織、地名、イベント、ならびに一切の国家・政府機関・外交関係の描写はすべて架空のものであり、実在のいかなる対象とも関係ありません。また、作中で扱われるいかなる思想、主張、政治的立場、歴史的解釈についても、特定の立場を支持・肯定・非難する意図は一切ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。