↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/38

第14話 忘れられぬ香気

【前回までのあらすじ】自力で脱出した五十嵐を無事に確保した特殊部隊。しかし敵からの反撃は凄まじく、脱出は熾烈を極める状況にあった。

「ピン、そろそろ弾が尽きそうだ!目標はどうなってる!?」


上空で対地攻撃を振るう1番機のゲタから、苛立ちの混ざった無線が飛ぶ。


「無事に回収した。これより回収地点へ向かう」


地上の隊長が遮二無二走りながら応じる。


「了解、こっちも残りの弾で弾幕を張りつつ後退する」


ゲタが応答したその時、1番機のコックピットモニターに「警告(アラート)」の赤文字が激しく点滅した。副操縦士が絶叫する。


「RPG──ッ!!!」


RPG-7。120年近く前の旧世紀に生まれた携帯型対戦車ロケットランチャーだ。


現代では博物館クラスの骨董品だが、電子制御が一切ない「ただの鉄の筒と火薬」という超アナログ仕様ゆえに、最新鋭の電子機器を誇るステルスヘリのセンサー群は、発射直前まで脅威を検知できなかった。


発射されたら着弾まで1秒もない。その時、ステルスヘリに搭載された防衛AIがパイロットの操縦に強制介入し、即座に回避行動(オートパイロット)を取った。


機体は凄まじいGを伴って急旋回を敢行。同時にヘリの兵装から迫り出した機関砲が脅威の飛来方向へカウンターの弾幕を浴びせた。


ロケットランチャーは空中爆破され、コックピットのモニターが正常を示すグリーンへと戻り、「排除成功(SUCCESS)」の文字が明滅する。


一瞬の出来事だったが、1番機に乗っていたゲタとダリは、この作戦がすでに潮時であることを悟った。これ以上、戦域に留まることはリスクが跳ね上がる。


「やつら、やべー代物を持ってやがる。潮時だ! 1番機、残弾を叩き込んで戦域を離脱する!」


最後の力を振り絞るように1番機は回収地点の方角へと後退しつつ、機内の全弾薬を密林へ撃ち込んだ。直後、高音の駆動音を残し、急速上昇で戦域を離脱した。


隊長、リャン、そしてアドレナリンで無理やり身体を動かしている五十嵐は、2番機が待つ回収地点を目指して走っていた。


しかし、いくら倒しても敵の影が湧き出てくる。1番機の弾幕だけでは掃討数が絶対的に足りていなかった。


ただでさえ限られた携行弾数に加え、夜の密林は射撃精度を著しく低下させる。


仕留め損ねた敵兵が、1番機の離脱を確認するや否や、一斉に密林から躍り出てきた。数は十数名。


2名の戦術隊員で負傷した五十嵐を守りながら、退却戦で相手するには荷が重い数だった。気づけば、五十嵐の護衛ドローンのうち1機が姿を消している。


五十嵐の頭部を狙った弾道を検知し、盾となって大破したのだ。追手を食い止めなければ3人ともやられる。隊長は瞬時に決断した。


「リャン、殿(しんがり)は俺がやる。お前は目標と回収地点へ急げ! 脱出はスパイリグだ!」


リャンの顔が一瞬だけ引きつった。着陸するヘリに乗り込む余裕すら残されていないほど、状況が逼迫していることへの危機感。


だが、彼女は引き締まった声で「了解」とだけ短く返し、すぐさま2番機へ無線を入れた。


「2番機! こちらリャン。目標を確保。ピンと共に回収地点へ移動中。敵残存部隊の追撃を受けている。脱出はスパイリグに切り替える。オーバー!」


要請を受けた瞬間、着陸して待機していた2番機のローターが急回転し、機体が上昇を始める。


空中でホバリング待機し、ハッチから二本の極太のナイロン製ロープが地上へ向けて垂らされた。


スパイリグ──上空で待機するヘリが、隊員をロープ一本で宙吊りにしたまま強引に戦域を離脱する極限の荒技だ。


追手が迫る地上で、搭乗ハッチを開けて乗り込み、離陸する時間すら今の彼らには残されていない。


隊長は追撃してくる敵の方向へと反転し、片膝を突いて銃身を固定した。


迫り来る敵の先頭から、正確なタップ撃ちで確実に倒していく。数発撃っては回収地点へと後退し、再び膝を突いて撃つ。彼はそのルーティンを冷徹に繰り返していた。


リャンと五十嵐が上空にいる2番機の下へ到着した。頭上からは二本のロープが生き物のように揺れながら垂れ下がっている。


リャンは自身のタクティカル・ハーネスの胸元にある頑強な金属製Dリングへ、一本目のロープの先端を素早く連結した。


「こっちに来て!」


リャンは五十嵐の腕を掴み、自分の胸元へと引き寄せる。


間髪入れず、五十嵐の股下、腰、両脇の下へと、予備のナイロンベルトを手際よく巻き付け、2人の身体を完全に密着させた。その状態でベルトを限界まできつく締め上げ、大型のロック式カラビナで固定する。


リャンが顔を上げた瞬間、正面にある五十嵐の顔のすぐ後ろから、猛烈な勢いでこちらへ向かってくる隊長が見えた。


リャンはもう一本のロープのカラビナを左手に握り、右手でホルスターから拳銃を抜いて隊長の後ろから迫る追手に向けて構え、その瞬間を待つ。


滑り込んできた隊長が絶叫した。


「リャン、ロープを頼む!」


隊長は叫ぶと同時に敵の方へと身体を反転させ、マグチェンジしたばかりの最後の弾倉から残弾を吐き出し、敵の足を止める。


リャンは手際よく隊長の背部のDリングへ二本目のカラビナを連結した。


「ロープOK!!」


「よし! 離脱しろ! 離脱だーー!!りだつぅぅー!!」


隊長がインカム越しに2番機のパイロットへ怒鳴りつける。直後、ステルスヘリが強烈な出力で垂直上昇へと転じ、三人の身体が一気に宙へと吊り上げられた。


専用のハーネスを着用していない五十嵐は、自重によって脇や股ぐらに食い込むナイロンベルトの激痛に苦悶し、顔を歪めて耐えるしかなかった。


宙吊りになりながらも、隊長は眼下の敵へ向けてアサルトライフルを撃ち続け、リャンは左腕で五十嵐の身体をきつく抱きしめたまま、右手のハンドガンを下方の敵へ向けて連射していた。


高度が跳ね上がり、激しい風が吹き付ける上空に達した頃には、密林の敵影はすでに視界から消え去っていた。


東の地平線から、朝日が昇り始めている。上空の激しい風に翻弄される宙吊り状態の中、五十嵐の顔のすぐ真横には、彼を必死に支えるリャンの顔があった。


上空の風に煽られた彼女のショートボブの髪が、五十嵐の鼻先を幾度もかすめる。


微かに華やかで洗練された「女性の香り」と、それとは相反する銃弾の「火薬の匂い」。


その二つが混ざり合った複雑な香気は、五十嵐の脳裏に、決して消えることのない終生の刻印として深く刻みつけられた。まさに奇跡と呼ぶほかない救出劇だった。


ヘリのキャビンへと引き揚げられ、床に転がされた瞬間、五十嵐の肉体をかろうじて支えていた脱出時のエピネフリン(アドレナリン)が急速に枯渇していった。急激に熱を失い、遠のいていく意識。


リャンは五十嵐に致命的な外傷や動脈からの出血がないかを確認し、無線で本部へ短く告げる。


「目標を確保。外傷多数、意識レベル低下。命に別状なし」


撤退の殿(しんがり)を務め上げた隊長は、ハッチを閉めながら無線を入れた。


「作戦完了。これより帰投する」


ガクンと機体が加速し、その猛烈な反動が五十嵐のズタボロの身体にのしかかる。完全に意識を失う寸前で、最後に目に焼き付いたもの。それは隊員の漆黒のBDU(戦闘服)の肩に縫い付けられた、狂暴な「カラス」のワッペンだった。

【あとがき】今回のシーン、めちゃくちゃ好きなんですよね(笑)。五十嵐だけではなく僕にとってもこのシーンは「決して消えることのない刻印」として深く刻まれています(笑)次回もご期待ください!


★「おもしろい!」と思っていただけたら、ページ下部の【★で応援】や【作品フォロー/ブックマーク】をしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!


★本作品はフィクションです。物語に登場する人物、団体、組織、地名、イベント、ならびに一切の国家・政府機関・外交関係の描写はすべて架空のものであり、実在のいかなる対象とも関係ありません。また、作中で扱われるいかなる思想、主張、政治的立場、歴史的解釈についても、特定の立場を支持・肯定・非難する意図は一切ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。