第12話 救出作戦-1
【前回までのあらすじ】監禁室から脱出した五十嵐は地上へ出ると夜の密林へ逃げ込んだ。しかし、身を隠す場所がなくなり絶体絶命に。突如、漆黒の大型ヘリコプター2機が姿を現した。その正体は一体…
五十嵐が地下施設で決死の脱出劇を繰り広げている頃、時を同じくして、2機の大型ヘリコプターが五十嵐の救出に向かっていた。
国家情報局が誇る最新鋭ステルス特殊作戦ヘリ、通称『フクロウ』。
月光を吸い込むような漆黒の機体に搭載された驚異的な静音プロペラにより、重低音の微かな風切り音を立てるだけで、夜の静寂を乱すことなく密林の上空を飛行している。
薄暗い緑色の電子光に満ちた1番機のキャビン内。救出部隊の隊長は、インカムの音量を調整し、冷静な声で機内に告げた。
「こちらピン。目標まで残り4分。作戦に変更なし。各自、装備の最終チェックだ」
今回の救出作戦に投入された隊員は総勢8名。うち4名は2機のヘリの操縦士と副操縦士であり、実際に現場へ突入する戦術隊員は4名。2名ずつに分かれて各機に搭乗している。
作戦計画はこうだ。
ステルス性を活かして五十嵐が囚われている秘密施設付近まで隠密に接近し、4名の戦術隊員が素早く地上へ降下。施設へ潜入して速やかに五十嵐を確保したのち、予定された回収地点へ移動する。
施設からの撤退時、1番機は戦術部隊が地上で敵と交戦となった場合、上空から火力支援を担当。
2番機は回収地点に着陸して戦術部隊と五十嵐を回収、そのまま一気に離脱する。
事前に分析局がもたらしたデータにより、施設の内部構造、敵の数、装備兵装、そして五十嵐が収監されている隔離部屋の位置まで完全に把握していた。
敵の防衛火力に少々懸念はあるものの、闇夜に乗じた隠密急襲作戦であれば成功率は格段にあがる。
この精鋭部隊にとっては、そこまで難しい作戦ではなかったが、隊長をはじめとする隊員たちに「油断」の二文字はなかった。
目標到着まで残り2分。その時、隊長の無線に作戦本部からの緊急の通信が割り込んだ。
「―なんだって!? 自力で脱出だと!?」
まったくの想定外。緻密に組み上げられていた救出作戦のシナリオが、根底からすべて台無しになった。いや、台無しどころではない。
作戦の難易度が格段に跳ね上がったのだ。
五十嵐が自力で監禁室を抜け出し、密林へと逃げ込んだ事実。それは「隠密急襲作戦」が「逃げる目標を敵の包囲網から先に回収する」という最悪のシナリオに切り替わったことを意味する。
隊長は即座に無線のチャンネルを全隊員へ繋いだ。
「全チーム、作戦変更だ。目標が脱走して密林内を逃走中。当初の着陸地点は放棄する。目標の現在地から新たな回収ポイントを策定中。オーバー。」
チームへの無線を終えた瞬間、隊長は唸るような声で言った
「クソが…」
無理もない。現在の彼らの人員、装備、携行弾薬のすべては、あくまで「見つからずに侵入し、見つからずに連れ帰る」ためのものだ。
作戦の前提条件がここまで覆ったのであれば、五十嵐をあきらめ、中止という判断もありうる。
このまま強行すれば、激しい正面衝突は避けられず、隊員に死者が出るかもしれない。最悪の場合、部隊が全滅するリスクさえあった。
五十嵐か部隊か、生殺与奪の権は、本部の判断に委ねられた。機内に重苦しい沈黙が流れる。約1分後、隊長の無線に作戦本部からの最終指示が入った。
『作戦続行。目標を回収せよ』
同時に隊員の腕に付けられた、モバイル型戦術コンソールに新たな作戦シナリオが表示される。それは、正気の沙汰とは思えないほど過酷なものだった。
目標は密林を北に向かって逃走しており、敵の追撃を振り切れば、やがて密林が途切れる開けた平地へと出てくる。その瞬間、1番機は目標の背後から追ってくる敵に対して制圧射撃を実施、その隙に、2番機が北側から回り込み回収地点に着陸。同乗している戦術隊員2名は目標の回収へ向かう。敵を排除しながら目標を確保し、回収地点の2番機までエスコートして即時離脱。
「目標とのコンタクトまで60秒!」
隊長はアサルトライフルのボルトキャリアを力強く引き、薬室に初弾を送り込んだ。鋭い金属音が機内に響く。
カウントダウン…30秒前…20秒前…10秒前、隊長は声を張り上げた。
「作戦開始!!全員いくぞ!!」
【あとがき】今回も11話、12話の同日配信です。五十嵐を救出に向かう謎の特殊部隊。果たして救出作戦は成功するのか。次回もご期待ください。
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