親子
初世暦3474年4月1日 記録:バディ
「所長!こんな所で何を!」
モノちゃんの上司。この人は親父の家で何をしてんの?
崩れたガレキに囲まれて、二人の人物が対峙する。
一人は所長っていう人物。全身に真っ黒なローブを纏った感じで、腕と首はなく、手だけが宙に浮いている。目は白く光っていて少し不気味。
もう一人は、皮膚がグチャグチャな何かに覆われた怪物……?今にも溶けてしまいそう。
「何度でも言うぞ……カタルシス……!再びやって……来る!」
「だから、断片的で分かりませんよ!あなた一体どうなってしまったのですか!?」
二人の会話の内容はよく分からない。
「モノちゃん、何のことか分かる?」
「……彼は、もしかしたら――」
危ないッ!またそれが暴れ始めた。
周りの厚板や鉄骨の塊を掴んで振り回す。ドロドロの皮膚が飛び散る。
「離れよう」
モノちゃんは俺を連れて一回退避した。
「ハァ……で、あの人たち何を言ってたの!?」
「ああ、あの塊は、所長の昔馴染みの同僚『テクター・サイコロジスタ』かも」
サイコロ……ジスタ。俺の、親父だ。
「あれ親父だよ!」
「え?」
俺の親父がモノちゃんの上司の同僚……なんだこの巡り合わせは……頭がパンクしそうだよ。
「あれがバディの父さんって、いや全然似てないぞ?何かあったのか」
「えぇ。えぇと、一ヶ月前くらいまでは連絡があったんだよ。でもそれきり。」
「親父はよく実験に没頭してて、そういう事が多いから今回もてっきり……」
「実験か」
「結構危ないやつだよ、薬とか使う。だから一回捕まったこともあって、俺はやめたほうが良いって何度も言ってきた。でも親父は『やらねばならない』って、止まらなかった」
「お二人さん、鋭利なものを探してください!」
廊下の向こうで所長さんが叫んでいる。その声は悲鳴に近い。
「はっ早く、探すよ」
俺たちがさっき閉じ込められていた方へ走る。
「何かありそうな部屋……こことか」
モノちゃんが指すのは、さっき不気味な音がしたあの部屋。
「うん、行こう」
扉を蹴破る勢いで開けると、そこには目を疑う光景があった。
真ん中には巨大なアクリル筒が置いてあって、白いスライムみたいなのを潰している。薬品の匂いが鼻を突く。
他には、散乱した分厚い服、色んな形の道具、お目当ての鋭利なものもあった。
「これを持っていこう」
モノちゃんは壁にかけられていたサーベルを取って言った。俺は床に落ちている槍っぽいのを持った。
「モノちゃんはそれ使えるの?」
「ん、いや……俺は剣士じゃなくて、研究者だよ。でもやるしかない」
「そうだね」
玄関の方へ向かう必要もなかった。親父……原型は殆どとどめてないけど、壁を破壊しながらこっちへ走ってきた。
「それに!……触れる……なぁ゙!」
親父はよく、夢を語っていた。そういう時にいつも見せた、あの得意げな笑み。
今の親父には、ニヤける口すら残っていない。怪物だ。
「親父、俺だよ。バディ。分かるか!?」
「息子……お前の友人達……大きな……間違いを犯した!」
「バディ、殺るぞ」
モノちゃんはサーベルを水平に傾けて、親父に突撃した。
「待っ」
親父の脇腹にサーベルが突き刺さる……はずだった。
ガキンッ!
弾き返された。あのドロドロな見た目で、傷一つ付かない。
「奴……らに従うな」
親父はよろめいたモノちゃんを薙ぎ倒し、掌で虫を潰すように手を振りかざす。
俺は……親父を……できるか?
「ファッ!?」
モノちゃんは体を捻って、辛うじて一発目を避けた。でも手は二個ある。
二発目が、起き上がろうとするモノちゃんの命を刈り取らんとする……!
「!!」
モノちゃんを庇うように駆け寄り、親父の掌に槍の先端をぶつけた。
刺さらなかったけど、少しずつ、めり込む。俺の槍と親父の手が拮抗している。
「……オレは……お前に手を出……無理――」
声は震えて、悲しそうだ。けれども、涙と周りの外皮すら見分けられない。
……親父の力が少し弱まった、その時だった。窓から無数の光が差し込む。そして爆音とともに、部屋と外を隔てる壁が爆発した。
全員が一斉に外を向く。
無数の光は、軍用車両のヘッドライトと、兵士のレーザーサイトだった。
「――撃て!!」
ズガガガガガガガッ!!
無機質な命令と共に、鉄の弾が空を切る。親父の方、つまり俺の方に向かって――




