館
初世暦3474年3月31日 記録:モノ・クローム
早く、行かなければ。
前に車両が現れるたびに左にずれ、追い越す。スピードが上がる。
「エイマンの警察へかけて!」
<OK。アミフスク エイマンの交番へ電話します>
<注意:警察への電話を検知しました。通信を終了します>
どういうわけだ?繋がらないぞ。
<ダスターファクトリー職員、モノ・クローム。警察への電話を検知した、なぜだ?>
「は!?」
国防軍が俺の車に細工した。俺たちが極秘計画をバラさないように仕組んだものだろう。
この車はもはや移動手段ではなく、俺を閉じ込める動く檻だ。
「取り敢えず、これを聞いてください!」
俺はバディのメッセージを流した。
<アミフスクのエイマン……?待て>
<……なるほど、事件だな。では我々から通報しておこう>
警察の件はなんとかなったが、まさか俺の車にまで監視の目があったとは。国家って怖い。
幹線道路を飛ばしたおかげで、アミフスクには半日足らずで着いた。
「ここら辺か」
目的地の辺りに着いたので、車を降りて探すことにした。
周りには家も少なく、畑や森林が多い。――いや、あの林の中に何か見える。
家……ではなく館と言ったほうが良いだろうか。敷地はそこそこ広く、この国にはあまり見られない建築様式、西側諸国のそれに似ている。
困ったことに、警察はまだ来ていない。さっきの人は本当に通報してくれたのか?
近づいてみることにした。……不気味にそびえ立つ館以外には……車が一台、林の前に停まっている。
あの車には見覚えがある。
カタルシス所長の車だ。
ダッシュで駆け寄るが、所長の姿は無い。ああ、館の前にはもう一台、バディの車だ。
となると二人が館の中に?
「まずいな」
携帯も細工されているだろう。近くの交番まで直接行くか?俺の位置情報も、軍に追跡されているのかな。
そんな事を考えていて、後ろから忍び寄る影に気づかなかった。
グサッ!
「ガッ!?何をし――」
奴は俺の首に何かを刺した。これは……麻酔……。
「っは!」
ああ、俺は、ベッドに。ベッドに寝ている?手も足も動かせない。
完全に拘束された。
何の部屋か、ベッドと、横には謎の機械が置いてある。
ここにいても仕方ない。早いとこ逃げよう……と言っても、俺の手足には枷がはめられていて、簡単には抜け出せそうにない。
幸い枷はアナログな方法でロックされている。つまり鍵穴に鍵を入れれば開く。
「うう、やるか」
右手に感覚を集中させる。すると、右手の指が融解するように混じり合い、一本の触手になる。触手の先端の細い部分を鍵穴に入れ、中で形を変えると……。
カチャン
「はあ」
腕が一本外れた。後は割と簡単だ。
やっと起き上がることができる。だがまだ自由の身ではない。
静かに扉の方へ移動し、耳を当てる。何も音はしない。
恐る恐る、扉を開ける。左右確認、異常なし。
どうやら隣にも同じような部屋がある。彼がいるかも知れない。
ゆっくりと隣の部屋に入る。
「モノちゃん!お前何してんだよ」
「それこっちのセリフな。なんで一人で来ちゃったんだよ……」
すぐにバディの枷を外してあげた。
「モノちゃん、こういうこと普段は滅多にしないよね」
「これすごく疲れるから」
それも、自分の中の『人間』が削り取られるような不快な疲労感が。
「あぁ、ありがと。……あれ見た?」
「襲ってきたやつ?よく見えなかった」
「俺も。ま早く出よう。はいはいっ」
その時、廊下から床の軋む音が聞こえた。
「ッ!」
この部屋には隠れる場所がない。口を覆って、ただ静かにした。
幸運なことに、それは部屋に入ってこなかった。その代わりに、別の部屋からは変な音がする。
グガガガガガガッ!
肉か何かを圧縮するような音だ。俺もバディも鳥肌が立った。
また静かになったので、俺たちは移動することにした。出口は、分からない。だが、間違いなく、さっき不気味な音がした方ではない。
(こっちだ。たぶん)
(OK)
ジェスチャーを交わしながら、少しずつ進む。
廊下の先には玄関の間があった。
(玄関、開く?)
(ダメだ)
窓や扉には木材が打ち付けられていて、壊して脱出、とはいかないようだ。
「!!!!」
「……!!!!!!」
「今の、誰の声?」
上の階からだ。一人は……所長の!
「俺の……上司だ」
「なんでモノちゃんの上司もっ!?」
ギリギリッ!ドカァン!!
上の階から激しい音がする。
「あーどうするどうする?」
「どうするって、逃げるしかないでしょ!」
「まあ、そうか。所長は強い。きっと大丈夫だ」
「強いって、モノちゃんみたいなことができるの?」
「いや――」
こんな場所で話すべきではなかった。天井がひび割れる。
バキッ!ガラガラ……ズズ……
「危な!」
バディが俺の手を引いて、落ちてきた瓦礫を避けた。
瓦礫と一緒に、所長とそれが落ちてきた。それは、人ではなかった。何かの、塊のような……。
「クッ!ん?モノさん!?」




