仮想現実
初世暦3474年3月29日 記録:モノ・クローム
眠い。
ここ一週間で、俺たちは不眠不休で働いた。文字通り……ではないが、昨日は三時間しか寝ていない。
AIの不具合を直し、アンドロイドの部品との調整をする。延々とこれの繰り返しだ。
ふと携帯を見ると、通知数の数字にプラスが付いていた。殆どはどうでもいいことばかりだったが、一つだけ目に留まったのは親友からの連絡。
<モノちゃん最近連絡無いな。忙しいならたまにはリラックスしようぜ!>
「ああ、そうだ。たまには良いだろうか」
所長はあっさり休みを認めてくれた。
「モノさんが誰よりも頑張っていること、私は知っていますよ。結果はあまり出ていませんがね」
「う……明後日からも頑張ります……」
ゴンザレス大佐にも許可を取らなければならない。
「ということで、一日だけ休みを貰えませんか?」
「ウ〜ン……今は大事な時だけど、そんなに疲れてるなら、いいよ」
ゴンザレス大佐は休養も大事にするタイプらしい。良かった。
てことは、俺たちを休み無く働かせているのも、誰かに命令されているのか?誰かが俺たちを道具のようにこき使って……?
いや、やめよう。これ以上考えてもストレスが溜まって、寿命が縮むだけだ。
「やあ!」
「ボウリングなんて久しぶりにやったよ。」
パスタとともに嬉しみを噛みしめる。
「ってかモノちゃんとボウリングやったの初めてだったけど、結構楽しかったな」
「うん。うん」
「本当ならあの新作ゲームも一緒にやりたいなぁ」
「ん?新作ゲーム?」
俺はあまりゲームに関心が無くて、そういったニュース記事なども見ることがなかった。
「今までのゲームとは一味違うんだよ!リアルすぎる!」
彼の言うことには、そのゲームは仮想空間内で自由に生活ができるらしい。全ての物に物理演算が適用されていて、現実にある物なら何でもあるし、現実で出来ることなら何でもできる。現実世界をそっくりそのままゲームにしたと言える。
プレイするには専用のゲームセットが必要で、今は売り切れだが、そのうち安くなっていくだろうと言う。
「あっ俺今連休だからさ、普段は会えなかった人に会ってるんだよね。明日は親父のところに帰るよ」
「そうか」
有意義な午後の時間は、すぐに過ぎてしまった。
「じゃあね〜!」
「またな」
はあ。一日だけでもゆったりとできた。本当に良かった。
……超リアルなゲームか。これは使えるかもしれない。
俺は最近、AIを現実世界に適応させる方法を考えていた。そのゲームが現実に完璧に則しているなら、そこでAIを鍛えることができるのでは?
翌日、俺は昨日のことを同僚に話してみた。
「何でもできるゲーム。確かに面白いけど、注意もいると思う。技術的な面以外でね」
「ほう」
「まず、NPCではなく訓練中のAIだと気づかれたら、噂はすぐに広まっちゃう」
「次、そのリスクを考慮すると、ゴンザレス大佐がこの方法を許可してくれるかどうか怪しい」
彼の言うことは正しい。だが、どうしても興味が不安を上回ってしまう。研究者としての性なのかもしれない。
「で、でも、俺はなんとしてもやってみたい!大佐には秘密で――」
「やあキミたち」
「ヒッ!!」
心臓が跳ね上がる。背後から聞こえてきたのは、あの抜けているが、しかし逃げ場を塞ぐような大佐の声だった。
「お、おはようございます」
「順調そうだね。今日も頑張って」
そう言うと、ササッと部屋を出ていった。
俺は冷や汗をかいていた。
すぐに同僚が聞く。
「聞かれた!?今の?」
「シーッ!声がでかい!」
「あっごめん。どう?気づいてないかな?」
「うん。大佐は正直な性格だ。あの感じは聞こえてなかったみたいだ」
「モノ、やっぱりやめようよ。怖いよ」
同僚が俺の肩を揺すってくる。
だが今の俺を止めることはできない。何しろ、成果を一つも挙げられていないし。
「なんとしてもゲームセットを手に入れるぞ。お前はなんとか探してくれ。」
「ほら、裏ルートとか、転売してるものとか。何でも良いから」
「無理言うなよ……なるべく頑張るけどさぁ」
「ありがとう」
帰路、俺は色々考え事をしながら車を運転していた。その時だった。
<ビ―ッビ―ッビ―ッ>
携帯が鳴った。
<バディさん からメッセージです>
<モノちゃん、よく聞いて、もしこの後連絡がなかったら、警察に電話して。警察に『友人が襲われた。住所はアミフスク、エイマンの○○‐○○○○』って。親父の家が、おかしいんだ――>
メッセージはここで切れた。
「は!?馬鹿!待て!」
あいつ警察にって……一人で行くかよ!?
ビビー!!
しまった!前を見ていなかった!
思い切りブレーキを踏む。
キーッ!!ガクン
前の車と触れ合う寸前で止まった。危なかった。
「危ないぞ!前見てくれ!」
「すみません!」
いや、それよりバディのことだ。あいつが危険な目に合う前に、通報しなければ。
すぐにハンドルを、震えながらも握り直し、ナビに目的地を入力する。
『アミフスク エイマン』




