金属でも粘土でも樹脂でもない
初世暦3474年3月26日 記録:粗消
研究室の一角で、俺と何人かの研究者は、石像から剥がした装甲プレートを調べてた。
……あ、気付いたか?前書き見ろ、俺だ。
え、自己紹介しないとなの?他の奴らもやった?
ゴホン、えーと、粗消だ。
とっ特徴!?……この通り、ハゲ、グラサン、口ひげ、ケツ顎。他にも?武術をやってることとか。
これで良いか?続けるぞ。
「いくぞ」
ズズ……
正方形に切り取った装甲板に、先端が尖った金属の刃をゆっくりと刺す。そしたら刃は、装甲板に少しずつ埋まっていく。
「うん、やっぱり。速くぶつけると弾くが、遅くぶつけると貫通できるな」
こんな奇妙な物質は初めて見た。
あのロボにくっついてた装甲板は、今あるどの金属にも粘土にも樹脂にも当てはまらん。
「粗消さん!これ、抜けません!」
「マジか」
刃は装甲板にぶっ刺さったまま動かせなくなった。
「プレス機に入れろ!」
「はい!」
プレス機の鋼鉄の塊をぶつけて、ようやく刃が引き抜けた。
だがしかし、驚くのはこれからだ。刃で装甲板に開けた穴は、少し待つと埋まり始めた。
まるで生き物の傷口が塞がるような感じで、なんか気味が悪い。
・高速の物は弾く
・遅いものは自身に取り込み、動けなくする
・自己修復する
これを再現してヒューマノイドの外装にすれば、金朝軍とかを蹴散らせるかもな。再現できれば。
「俺はこれ、生体組織だと思うんだよなー、無機物じゃなくて。」
「……生物は俺の専門じゃねぇぞ。誰か生物化学専門のヤツを呼んでこい!」
「はいっ!」
「どれどれ、これが例の物ですか……」
「現代の物質で作れるか?これ」
研究者は、装甲板をじっと見つめたり、構成物質の解析データを隅々まで見た後、こう言った。
「できません。未知の物質が使われています」
ダスターファクトリーには何人か生物科学のプロフェッショナルがいるが、全員匙をぶん投げた。
で、最後にこの男が来た。
「お呼びですか?」
ドアの隙間からカタルシス所長が覗いてきた。
「ワ!?呼んでねぇよ」
「ジョークですよ」
「ハ?」
「そんな事よりその装甲板、生体組織に見えますか?」
そんな事って……所長がボケたんだろ……。
「あァ、俺はそう思った」
「粗消さん、私そういうカテゴリーに詳しい人を知っていますよ」
「ほうほう、そりゃ誰だ?」
「私の古い同僚です……何日か時間をください。見つけられるかも」
オイオイ、どこにいるか分からんのか。……まァ可能性がゼロじゃないなら、所長を信じよう。
「んで、どうやって見つけ出すんです?その神隠しにでもあったような友達を」
「まずは警察署へ行きましょう」
「ハァ!?」
後日、今日は暖かい日だ。町の人たちは金朝の脅威に怯えながらも、何事もないかのように、いつもの日常を過ごしているように見える。
「平和か?」
「そんな事ありませんよ……と言いたいところですが、今の所は日常が続いているようです」
「そうか……」
「気づきましたか粗消さん?後ろにいる男二人、恐らく軍の手先です」
あー……別に通報なんてしないわ。
「こんにちは、ご要件は何でしょうか」
「『テクター・サイコロジスタ』という人物の犯罪記録はありますか?」
「えっ?テクター……あ、あなたはカタルシスさんですね。少々お待ちください」
係がすぐに電話をかけ始める。間もなく近くのドアから一人の警官が出てきた。
「どうぞ、こちらへ」
警官はそう言うと、スタスタと歩いていく。俺と所長もついて行った。
書類が詰まった大棚が半分、もう半分は積み上げられた紙と新品のデータ保管庫が置いてある部屋へ連れてこられた。
「サイコロジスタについては、一回の逮捕歴があります。ここに……かなり前に薬物所持の疑いで捕まっていて。ええ、3ヶ月前に釈放されていますね。」
「今はどこにいるか分かりますか?」
「逮捕された後、元の家は売り払われたので……いや、あるか。ちょっと、お待ちを」
警官はデータ保管庫に付いたコンピュータに飛びついて、何かを探し始めた。
「ありました!今は、アミフスクのエイマンに家があると思います。ここです」
「ふむ、ありがとうございます」
警察って割といろんな情報持ってるもんなのか。すぐに見つかったぞ。
「んで所長、あそこに行くのか。ゴンザレスとかに伝えたか?」
「はい。いつでも監視しているぞ、と言われました」
んー、ま、所長なら大丈夫か。
「じゃあ、サイコロステーキさんとやらを、見つけてきてくれな」
「名前間違っていますよ」
所長はアミフスクへ向かった。アイツが帰って来るまで、俺もなるべく急ぎでヒューマノイドを作る。
「おッインテグラル」
「ついに出来たぞ!さあ!」
インテグラルがリモコンのボタンを押す。
薄暗い部屋の中央に、巨大な投影装置が置いてある。光だし、俺らの目指すヒューマノイドの姿が、足の方から露わになる。
大きめの足にはジャイロセンサーが、胴体ではリアクターがエネルギーを生み出す。信号を伝える管や、動力の向かう方向を変える歯車なんかが次々と現れて、互いに絡み合いながら上の方へ伸びていく。
4本の指は人間の肉を剥いだ骨格みたいに無骨だ。細い首には、割に合わない大きめの丸頭が乗っかる。高度な感覚処理と言語理解の能力をもった脳ミソだ。最後に頭の前面にディスプレイを貼って、顔ができた。
「んン、あの石像に比べたら、旧式感がある。いやしかし良いねこれ」
インテグラルの秀逸なデザインにはよく驚く。
「そうだろう?もっと褒めてくれてもいいぞ?」
「あースゴイッスネ」
もう完成したように思えるが、これからが本番だぜ。




