見返りは
初世暦3474年3月25日 記録:モノ・クローム
<解析完了。このプログラムでの思考プロセスを表示します>
俺のPCの黒い画面には、あの機械人形の数値化された思考プロセスが羅列されていく。
「少ない……」
本当は、自我だとか、共感だとか、今のAIを超える高度な知性を見ることができると思っていたが、そうではなかった。こいつは僅かな量の脳みそで、淡々と命令されたことを実行するだけの機械だった。
とても古代の超技術とは思えない。
だが、一つだけ俺の興味をそそる情報が眠っていた。
「これは、記憶?」
<最終命令:初世暦2274年 何があってもこのポッドを守ること。……任務完了:初世暦3465年>
これだけでは当時何があったのか想像はできないが、1200年前にこの機械人形が存在したことと、9年前に任務を終えたことは分かった。
まあ、この情報があったところで、ヒューマノイドには使えない。イリヤなら何か分かるかもしれないから、彼女が帰ってきたらこのデータを渡そう。
「ハァー」
夕方のダスターファクトリー、コンピュータ室で一人、俺はため息をついた。あれの脳みそは期待外れだったが、まあ、ボディの方が上手く解析できれば良いかな。
「モノさん……」
所長がいつの間にか、横に立っていた。
「うおっ!?所長!ビックリしましたよ」
「申し訳ないです。もう夜になるのに、あなただけ帰宅していないようだったので」
俺は立ち上がり、背伸びをする。
「あー、ボーッとしてただけです」
「それなら少し話を聞いてくれますか?」
「え?良いですよ」
所長は目を細めて、俺の近くに寄る。
「私はこの一連の流れには仕掛けがあるのではと思うのですが……まずイリヤさんの石像発見、首相の強引なアンドロイド設計依頼、それに加え……」
「インゴット社とWW社が私たちに協力を申し出ました」
「は!?世界の大手の?」
「ええ。確かです」
インゴット社はAIシステムの、WW社は機械部品の巨大企業だ。もし本当なら、役に立つことは間違いない。が、彼らはどこで俺たちの計画を知ったんだ?
「『ヒューマン・コード』の情報が外部に漏れた、と?」
「まだ確定はできません。ドリエル首相と巨大企業、もしくは私たちの内の誰か……これらが繋がっていると推測しました」
「……モノさん、これはあなただけに話したことです。一応ですが、身の回りの人に警戒してください」
「分かりました」
首相はこの前、かなり強引に俺たちを計画に引き込んだ。計画には何か裏があったり?……出来上がったヒューマノイドは、本当に労働ロボットになるのか?
翌日、俺はインゴット社の社員と最新AIのプログラムについて話していた。
全くわけが分からない。
わけは分からないが、これでヒューマノイド開発が進む。俺がやるべきなのは、開発を進めながらこの計画に裏があるのか調べることだ。
「OK、隅まで確認しました。このAIに異常は検知されません」
モニター越しのインゴット社員は静かな笑みを浮かべる。
「我が社はあなたがたを支援いたします。訓練データなど、要望があれば何でもお渡ししましょう」
「ありがとうございます……」
ブツン
譲渡されたのは大規模言語モデルと言われるタイプで、莫大な量の言語データを自己学習する、現代の最新AIだ。俺はこれを改良してヒューマノイドに組み込む。
インゴット社員との話を終え扉を開けると、粗消が待っていた。
「あ、やあ」
「モノぉ、今の聞いてたぞ?」
「いよいよ怪しくなってきたんだが。こんな物を無償で提供するかぁ?普通」
その時、通路の奥に兵士の影が見えた。
「シーッ!」
「あぁ、スマン。ここで言わんほうが良いな」
粗消も何かが起きていることに気づいているみたいだ。
「確かにそこも気になるけど……うーん、研究者は偉い人に逆らえない!」
所長と話したことは、まだ誰にも教えない。粗消だって、完全には信用できるわけではない。
「大体のワーカーはそうだろ。まァ、忙しくなりそー」
粗消は腕を首の後ろに当てながら、廊下の角を曲がろうとした。が、くるりと回ってこちらに向き直る。
「そうそう、インテグラルの方も見てったらどう?」
「分かった」
インテグラルのいる部屋に近づくと、彼女の声が聞こえた。
「こりゃすごい!」
インテグラルがPCの周りではしゃいでいる。
「インテグラル、WW社が送ってきたものって?」
「これさ、これ!超高圧ボイラー!」
ボイラー……?ボイラーは蒸気を発生させる装置だ。蒸気機関でアンドロイドを動かそうってのか?
「え、モーターとかで動かすんじゃないのか?」
「これでいい。ヤツらの蒸気エンジンはそこらのモーターよりも馬力が大きいぞ!」
インテグラルの言うことには、有機物を圧縮してガスを発生させ、それを動力に変換するんだと。
ボイラーと言うよりは、一種の生物反応炉に近いと思う。
「早速作る!モノ、人を呼んでこいッ!」
「えぇ……良いですよ」
俺も本格的に、開発に手を付け始めなければ。
しばらく休みは貰えそうにない。




