表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

古代の石像

初世暦3474年3月20日 記録:モノ・クローム

 プロジェクト『ヒューマン・コード』は、翌日には既に始まった。

 実は、朝、仕事に出る前に、警察に昨日のことを言おうと思っていたんだが……あるニュースの所為で、そんなことする気は無くなった。


<今日未明、エアロク北の国境に金朝軍が侵入し、両国は戦争状態に入りました。現在も大規模な戦闘が続いています。金朝の外務相は……>


 エアロクは、金朝がある大陸の東に付いた半島に存在する国家で、(おれ)たちとは同盟関係だ。そんな国へ金朝は侵攻した。皆、次はこの国なのではと話し、俺も気が気でない。

 首相が言ったことが、現実になるかもしれない。




 結局俺は警察には電話せず、出勤した。

 実を言うと、家の前に怪しい車が停まってたことも理由の一つなんだがな。




 プロジェクトは、主に二つのチームに分かれて取り組むことにした。

 俺が率いるのはヒューマノイドの脳――AIを作るチームだ。他はボディの設計を担う。


 この数日間、特に大きな進展は見られなかった。だが今日を境に、状況が動き出す。




 先日オンラインで会議に出席したのはイリヤ。彼女は考古学者だ。今は最南の氷に包まれた大陸で、古代文明を調査している。

 この前、彼女はそこで石像を発見した。他の発掘品と一緒に船で輸送され、今日、ようやくここへ届いた。金朝の警備艇の目をすり抜けるため、通常より時間がかかったのだと言う。


「これはすごい……」


 仰向けに置かれた全身像。身長は1.8メートルを優に越す。保存状態も良く、大きな損傷は無さそうだ。


「腰当、肩当、(かぶと)のような頭部、一見すると騎士を模した像のようですが……イリヤさんが言うには、これはただの石像ではないそうです。」


 巨大な岩の下敷きになっても形を保ち、見た目に反して軽量。イリヤはこれを発見した時、ただの石像だとは思えなかったそうだ。それが作られたのは数百年前と推定されている。

 ダスターファクトリーで分析すれば、古代の技術を学べるかもしれない。彼女らはさらなる発見を求めて調査を続けるが、石像は俺たちのヒューマノイド開発に必要になるだろうから、先に送られてきたのだろう。


 これがおそらく、首相が言った『必要なもの』だ。


「中も(のぞ)いてみましょうか。何かあると(うれ)しいですね」


 放射線を照射して、内部構造を確かめることにした。機械の操作室に入り、壁に複数取り付けられているモニターをじっと見つめる。


「ほんじゃあ、撮影を開始しますよっ!」

 オペレーターの声とともに、石像を安置した部屋は暗転し、()り下げられた機械が測定を始めた。




 数分が経過した。

 自分の鼓動が早くなるのを感じる。もしかしたら、中身など無いのかもしれない。もしそうなら、理想のヒューマノイドを完成させるため、さらに数年は掛けることになる。その(ころ)にはもう手遅れ、俺たちは金朝の支配下かもしれない。


「こりゃあ……!?」

 オペレーターの驚きの声。

 モニターに映ったのは、石像の内部、整然と配置された空洞の数々。


「これは、何の空洞?」


「複雑な構造だぜ、例えばここ、関節の部分に動力をあげると動くようになってる。お前さんらが気になってたように――」


「これは本物のロボット!!」

 所長が目を輝かせる。


「まぁ、えぇ、分解する価値もあると思いますぜ」




 石像、もとい機械人形はすぐに別の部屋に運ばれた。そこではボディ設計担当者のインテグラルが、分解を手伝ってくれる。


 インテグラルはこの研究所では古参の人物だ。髪はねじれたパンのように下げたものが二本、前は目を隠すように被さっている。白のケープと真っ黒の外套(がいとう)をいつも着ている。

 お(しゃべ)りなやつだが、そんな彼女が職場の雰囲気を明るくしている。


「イリヤが居ないが、やってみるか」

 彼女とその他数人の研究者が、工具を片手に人形を見つめる。


「現代の技術より(はる)かに高度だな。キレイに分解するのは無理だけど、挑戦する価値はあるさ」


「プレート装甲の継ぎ目からいきましょう」

 人形の腕に回転刃が食い込む。ノコギリと装甲がぶつかり火花を散らしながら、刃はゆっくりと進む。


「これは石か?金属?硬いなァ!」


 バチン!


 最初のパーツが外れた。取れた装甲が音を立てて床に落ちる。

 人形の内部は大量のチューブが詰まっていた。動力を伝えるものだろうか、古代の人々にはいつも驚かされる。


「次行くよ!」


 腹、胸、そして頭。外装が次々と()がされ、人形の中身が露わになる。


「おー怖、悪夢に出そう。映画に出てくる、皮が剥がれた殺人ロボットみたいだな」


 そんなインテグラルの(つぶや)きは聞こえない。剥き出しになった頭部、そこには現代のコンピュータとは異なる緻密(ちみつ)な回路が詰まっている。


 このロボットは、考えることが出来たのだろうか……?

 俺の視線は、その思考を司る箇所に(くぎ)付けになっていた。


「ん、モノ、やっぱり脳に興味があるか。オーケー明日までに頭部のデータを送っとくわ」


「ああ、ありがとう」


 これは、最初の前進だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ