我々に必要なもの
初世暦3474年3月16日 記録:モノ・クローム
「ん?」
スキンヘッドの男性が席を立とうとしたが、隣に座る金髪の女性に止められた。
<事態は急を要する。依頼品が量産できる体制に入るまで、ダスターファクトリーの全社員は国防軍の完全なる監視下に置かれる>
「えっな――」
俺は衝動的に声が出たが、最後まで言い切れなかった。
背後で自動扉のモーターが駆動音を立て、続いて何重にも重なる重厚なブーツの足音。慌てて後ろを振り向くと、迷彩柄の軍服姿、十数人の兵士が俺たちを取り囲んでいた。
誰も言葉を発しない。
銃口を下げてはいるが、彼らが小銃を持っているだけでも、俺たち民間人を黙らせるには十分すぎた。
<政府が、氷の大陸遠征に予算を惜しみなく投じている理由を、諸君らはまだ知らないだろう>
<ついに見つかったのだ。この国を救うもの、今我々に必要なものが!>
首相の声が、スピーカー越しに高らかに響いた。
その時、彼の画面後ろで腕時計を見せる腕が映る。
<ドリエルさん、時間です>
<あぁ、おっと、すまない。……詳しいことはゴンザレス大佐が話してくれるだろう。健闘を期待している>
首相は退室した。
サングラスをかけた高位の上官が、俺たちを取り囲む兵士に静かにハンドサインを送る。
兵士たちは彼のみを残して、ぞろぞろと部屋を出ていった。
彼、ゴンザレス大佐が、首相の映っていた電子黒板の前に移動する。
「じゃあ後はボクが話すね」
!?
ゴンザレス大佐、見た目と声のギャップが大きい。高身長、日焼けした艶のある肌、イカしたグラサン、金のネックレス、体躯に見合わない、間の抜けたふやけた声……。
……第一印象としては、無力な民間人を脅すような真似はしなさそうな感じだ。
「……本当は、ボクも何故こんな命令に従わないといけないのか、分からないんだ。」
彼もこの異常事態に気づいているようだった。
「あなたは理不尽な命令を拒否できるはずです」
「でも、ボクは直接、首相と元帥から命令された。あの人たちは国のためを思っている良い人でしょ?だから、忠誠を誓うと決めたんだ」
「だとしたら一層、おかしいですよ!」
所長はそう叫んだが、大佐は困ったような顔をするだけだった。
やはり、彼は『悪意』ではなく『善意や忠誠』で動いているようだ。こういう人を説得するのは容易じゃない。
この後は、大佐が首相に言及することはなく、ただヒューマノイドについて、細かいことを確認していった。
「あー、結局俺ら強制されてるんだろ?」
「まだ実現してない技術だらけなんだけど、全部発明しろと?」
スキンヘッドでガタイの良い男、粗消が話に割って入った。
「全部じゃないよ。実は、発明するまでの時間が短縮できるかもしれないんだ。」
「氷の大陸の事が、重要なカギになる」
「あぁ、首相が言ってた必要なものか」
粗消はノートPCのオンライン参加者の方へ目をやった。
PCの背景では、分厚い服を着た調査隊が、画面を忙しなく往来している。




