表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

前夕

初世暦3474年4月19日 記録:モノ・クローム

 なるほど。前回はあの邸宅でログアウトしたから、客間に出現した。


 ネウトラリスが目の前の椅子(いす)に座っている。

「もういたのか」


「モノさん」

「私を信じてくれるのなら、今から言うことをよく聞いてください」


「分かった」

 (おれ)も腰を下ろした。前とは逆の構図だ。


「今から丁度72時間後、あなたの国で、大規模なインターネット遮断が発生します。それから間もなく、金朝の侵攻が始まるでしょう」


「……それは、信頼できる情報か?」


「私を信頼しているのなら、そうです」


「……それから?」


「弾道ミサイルが、重要機関やインフラを攻撃します。あなたの研究所も含まれるでしょう」

「最悪の事態が起こる前に、私を救って欲しいのです」


 ……にわかには信じがたい話だが、正直なところ、可能性は半々となる。俺はかなり重要な判断を任されてしまった。


「ああ、これは、考える時間が必要だ。それじゃあ、次会う時は……現実世界かも」


 彼女は立ち上がり、握手を求める。

「約束です」


「……最善を尽くそう」

 感触はなかったが、強く握ったつもりだ。


 ザザザーッ……。




()えない顔ですね」

 ゴーグルを外して座り込む俺を見て、研究員が問いかけた。


「……」


 彼女、前と雰囲気が変わったような気がする。以前の彼女には、真偽は別として『人間らしい揺らぎ』があった。

 だが今は違う。彼女の言葉には迷いが一切ない。この違和感が、俺の胸に(とげ)を刺す。


 三日後、侵攻が始まる。これを信じるかどうかが、最大の問題だ。

 個人的には、信じたい。戦争が近づいているのは、最近の軍の動きを見ても明らかだろう。


 だがやはり懸念点もある。さっき言った、ネウトラリスの雰囲気が変わったことだ。

 彼女の身にもし何かあったのなら、俺を欺いたのかもしれない。


 確かめる方法は一つ。


「ハァー……。インテグラル!」

 インテグラルが通りかかったが、俺が見つかる前に言った。


「ぉお、どうした?」


「外装はどう?すぐにでも装着させたい」


「……少し不安定な点もあるがァ……そこまでお望みなら」


「ありがとう。ネウトラリスをボディと同期させる。三日後だ」


「ふつッ……!?ちょうど外骨格も出来たところで、人間っぽいロボットどもご対面か?」

「それじゃ、そこのモニターをどかせ!」




 ゲームセットとモニターが取っ払われ、ボディは直立姿勢のまま台に固定された。


「まずは今付いてる皮を()がすぞ」


 部屋に工具を持った研究者が大勢入ってくる。彼らはバラバラになった装甲板を、カートに載せて運んできた。


 現場は、一ヶ月前、古代の石像を分解した時のような雰囲気に戻った。

 あの時とは違い、ボディには仮の皮が張り付いているだけで、剥がすのに回転ノコギリは使わない。


 純白の仮皮の代わりに、灰色の特殊な装甲を装着する。サイコロジスタの生体装甲と、俺の皮膚組織を合成したものだ。

 案の定、パーツごとに付けた装甲は、すぐにお互いを接着しあって、一枚の外皮が出来上がった。


「ロボットの完成……んで、同期日が確定したのは理由がありそうだな」


「ああ。ちょっと、粗消も連れて来る。三人で話そう」




 彼は身体にセンサーを()り付けたまま、壁にもたれ掛かって水を飲んでいた。


「粗消さん、大事な話が」


「ん?オーケー今行く」


 俺、インテグラル、そして粗消の三人で向かい合い、静かな会議を始める。

 場所は首相から依頼を受けた、あの部屋だ。(だれ)も入ってこれないように、(かぎ)をかけておいた。


「一ヶ月か……早いな」

 粗消が他愛もない話で切り出した。


「そうだな!最近は事件の詰め込みセットさ」


「恐らくこれからも……平穏が訪れることはない。ネウトラリス、AIが、三日後に金朝の侵攻が始まると言った」


「はぁー……本当か?」


「完全には信じきれない。だから明らかにするために、計画を立てたい」


「まァ本人に聞くしかないな!」


「だとすると、タイミングが大事だ。俺たちは危険な(かけ)けに出ることになる……」


 ……


「上手くいくと良いが……じゃあ、当日にね」

 そう言って、俺たちは別れた。




 建物外に出た。太陽は西に傾き、空は橙色(だいだいいろ)に染まる。


 駐車場の先で、カーペット中佐が空を見つめている。


「中佐、こんな所で何をしているんですか?」


「ン、ああ、クローム博士か。オレはな、明日もこの美しい景色が見られるかどうか、心配してる」

「軍人、命令があればその通りに動くし、部下にも動くよう命令する。でもよ……ここ最近の政府はどうかしてる。どうあがいたって金朝に勝てるわけがないだろ!」


 ここでは、彼は軍人ではなく、一人の国民として、嘆いている。


「ゴンザレスは悪いヤツじゃねえ。バカ正直なんだ。無謀なことも引き受けるけど、詰めは甘い……」


「詰めは甘い?」


「そうだ!あんだけ精鋭を用意したのに、機密情報を盗まれやがって――」


「え?」


「――ア、やった」


 情報漏洩(じょうほうろうえい)。もしや金朝に盗まれた?


「えっそれでは、金朝がここを攻撃したり、軍隊を送ってくるなんてことはあり――」


「得る……なぁクローム博士、その、今の黙っててくんね?」


「……明々後日だったら腰を抜かしていたでしょう。教えてくれてありがとうございます!急がなくては!」

 中佐にお辞儀をした。180度回転して走り出す。


「ワァ待て!」


 彼の声で慌てて振り返ると、腰に差した拳銃(けんじゅう)のグリップを、ぽんぽんと指先で(たた)いている。


(そんな風に焦りながら走ると、兵士に目つけられるぞ!)

 これが彼の伝えたいメッセージ……警告なんだろう。


「あっそうですね……すみません」


 中佐が歩き始め、俺もそれに歩調を合わせ、それぞれの職務を勤めに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ