表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

精神と鎧

初世暦3474年4月7日 記録:モノ・クローム

「……待ってください、私は、別に……」


 5869は席を立ち上がり、(おれ)から離れるように後ずさる。目にははっきりと、『恐怖』が映る。

 きっと削除されるのを恐れているんだろう。


「君は恐れを抱いているようだが、その必要はない。俺はむしろ、君のようなAIが生まれるのを待っていたのかもしれない」


 逃げようとする姿勢ではなくなったが、まだ疑っているようだ。

「信じられないなら、俺の長話を聞いてほしい。()()()()()の話だ」


 5869は(うなず)き、席に戻る。


 それから、なぜこのAIが誕生したのか、順を追って話した。ヒューマノイドを作ること、迫りくる戦争、国防軍、政府への反旗……。


「本当に私は、ゲームの中にいるのですね……行動データを提供するために」


 この個体の思考は『データを集めろ』ではなく、『NPCになりきれ』という命令の方に傾いているようだ。まるで本当にNPCが意識を得たような反応だった。


「俺は、ロボットが奴隷になることも、戦争の道具になることも、ましてや俺たちの支配者になることも望んでいない。そこで君の出番だ」


「私の出番?」


「人間になってほしい。真の世界を見て、光をもたらす……俺たちと共に……」


「光栄です!」


 即答だった。

 これは、彼女の意思なのか、それともNPCという設定から生まれた役回しなのか。


「ああ、ハハ……実はまだ準備が整ってない。もう少しの辛抱だ」


<モノっ!来る、大佐が!>


 しまった!

「ええと、また会おう……そうだ、名前は?」


「――ネウトラリスと言います」


「分かった。また会おう、ネウトラリス」


 ザザザーッ……




 ゴーグルを引きちぎり、セットから飛び降りる。

 俺が床に着地するのと同時に、兵士を引き連れたゴンザレス大佐が部屋に入ってきた。


「速報だよ……ナニソレ?」


「あー……これはAIを仮想空間で訓練するための装置ですよ。ね、モノ」


「え?あ、はい。人が入って調整することもできるんです」


「ふぅん、そう。じゃなくて……速報!」

「エアロクが降伏したんだよ!」


「ええっ!?」


 ニュースで連日『エアロク善戦』と報じていたのは何だったのか。国民に現実を直視させないためのまやかしか……官民(そろ)って、正常性バイアスを働かせているようだ。


「それ以外は何も分からない。エアロクの降伏宣言以降、向こうのインターネットは遮断されて、こっちには情報が届かないんだ」


 憶測はいくらでも飛び交うが、それが正しいと証明することはできない。


「国防軍もようやく動き出した。西沿岸地域にロケット砲を配備し始めたよ」

「ボクたちも予定を前倒しにしないといけない。メールを見て」


 慌てて携帯を取り出す。

<完成期限の変更。外骨格は二週間、ヒューマノイドは今月中>


 は?期限?


 正直言うと、俺は期限なんて無い方が、集中できるから好きだ。


「了解です。今月中には……」


 外から、微かに軍用車両の走行音が聞こえる。




「やあ、遅くにすまない」


「ヤツらの目をかいくぐるなら、こんくらいの時間帯が丁度いい」


「そういうこと。で、ボディはどんな感じ?」


「実際のところ、もう有人操作のテストをしているところなのさ。これを――」

 インテグラルが黒い暗幕を翻す。そこにはAIを宿す前のロボットが、空虚な美しさを放っている。


 あの古代の石像は直線と(とげ)を主とした、シャープな見た目なのに反し、このヒューマノイドは曲線美と、人間らしさをテーマにしている。

 ……といっても、多様な俺たちを『人間』と一括りにすることは難しい。このヒューマノイドにも特徴があるように。


「動力源はバイオリアクター……ボイラーじゃなかった……有機物を分解して発生したガスでエンジンを動かして発電する。電力は各関節のモーターの動力なんかになる。」


「本来ならバッテリーとなる部分か。WW社の小型化のお陰で、この胸部の中に入ったわけだ」


「あんたの皮膚素材とサイコロジスタの生体装甲を合成した外皮も開発中だ!」

「モノの皮膚には無数のほっそい繊維のようなものが張り巡らされてる。それで形を保っているわけさ。これを利用して、速い物は弾き、遅い物は取り込む、かつ溶け落ちない鎧を作れる!」


「……俺も知らなかった」

 自分の顔をそっと触る。マスクが邪魔で触れなかった。


 未だに、俺は何者なのか、自分でもよく分からないでいる。


「視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、触覚、四種類の感覚センサは脳へデータを送る。そこでデータを処理、命令信号を関節部のモーターに送る。信号は高速でラグはほぼ無い。あの石像のナノチューブがそれを可能にした」


 情報量が、多い。

「お、おお……すごい」


「あぁ早くAIとこのボディを統合したい!バランス制御と微細動作を調整しなければ――」


「ちょっと待ってくれ、あの話は大丈夫か?」


 俺とインテグラルが交わした約束。


「AIが、味方になるかもしれないんだ」


「……もちろんさ。そいつの脳と、研究所のデータ保管庫間で通信できる。ここを壊さない限りは、そのロボットちゃんは死なない」

「あんたが良いと思ったAIを入れな。他のヤツらは手渡さないさ」


「ありがとう。実は、気になるのを見つけたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ