正常性バイアス
初世暦3474年4月2日 記録:粗消
<金朝のエアロク侵攻から、二週間が経とうとしています。エアロクでは今、一体何が起こっているのでしょうか?>
<戦争開始から二週間。動画投稿サイトには、現地で撮られた動画が多数アップロードされています。ここれは、瓦礫の中で機械の音に怯える子どもの映像……>
「今までの戦争では、どれだけ質の良い兵器を作れるかが、軍隊の強さを決めました」
研究者がスクリーンに映し出された戦闘車両の写真を指す。
「例えばこれ、我が国の主力戦車です。一台分の製造価格は約15億レロッドです」
「次に、この自爆ドローンは約10万レロッド。」
「問題となっているのは、一万五千分の一のコストで戦車を撃破する矛盾が生じている、という点です」
新兵器の登場で、戦争のあり方は変わった。
剣を交えた英雄譚から、派手な機甲師団の突撃へ、今はそれすら過去の遺物に過ぎん。オフィスから駆り出された人間が、迷路のような塹壕の中で、ゲームの敵のように殺される。
「現時点で確認されている金朝の軍備です。」
「主戦力は歩兵とドローンです。歩兵は、輸送用ドローンによって前線まで送られます。分散した歩兵と自爆ドローンで、敵を包囲します」
「一部の部隊には、ステルス戦車やマイクロ波砲が随伴しています。ステルス戦車は探知されにくい戦闘車両、マイクロ波砲は相手の電子機器を無効化できる兵器です」
ちなみに対するエアロクはどうか、戦力では金朝に圧倒的に劣る。だから国民を片っ端から徴兵して、前線に投入している。これのお陰で、劣勢になりつつもエアロクはまだ存在している。
「ってことでカタルシスクン、ボクたちも軍隊編成を見直さないといけない。いくつか新しい依頼をしたいんだ」
ゴンザレス大佐が部下に、何かを持ってくるよう指示した。
「ところで、金朝は本当にこの国に攻めてくるんですかね?」
研究者の一人が言った。
俺も同感だわ。
「首相は、この国の領海にある希少な鉱物を狙っているって、言ったか?それだけで……わざわざ海を渡って来るん?」
場が私語でざわつく。
そうだ。皆、心のどこかでこう思っている。『自分たちは、戦争には巻き込まれないだろう。だって、今この時も、普通に暮らしているんだから』と。
軍の戦闘訓練や、子どもたちのヘルメット着用訓練など、形だけだ。今のところ、この国は平和だからな。
だがしかし、ゴンザレスはキッパリと放つ。
「戦争は起こるよ。」
「なぜそう断定できる?」
「……勘だよ」
勘、か。カタルシスやモノが苦手そうな言葉だな。俺は嫌いじゃないけど。
午後、昼食と休憩の微妙な合間に、休憩室には俺とカタルシスの二人きり。
「強化兵士……」
「あいつらロボットだけじゃ足りないって、やっと分かったかな」
「ええまあ、ヒューマノイドは元々、不足した労働者や兵士の代替となるよう依頼されたものです。今いる分の人間を最大限利用するうえで足りない分をヒューマノイドで補うんです」
「なァるほど……人間をリソースの一種として見てんな。……んあれ?」
俺がカップに残ったコーヒーを一気に飲み干している間に、カタルシスは消えてしまった。足音も、空気の振動さえも無しに。
考え事をしながらの作業は気が散る。やめよう。
さっき、カタルシスはきっと、モノの様子を見に行ったんだろ。
「ホラ、ゴンザレスが欲しがってるやつだ。難しいか?」
「うむ、そうだな!材料さえ揃えば……ヒューマノイドよりかは余っ程簡単さ」
インテグラルはこっちを見ずに、話しながら机上の画面にペンを踊らせている。
簡単って、そんな訳ないだろ。
ゴンザレス曰く、人間の兵士を保護する『外骨格』みたいなのが必要なんだと。
俺らが作るロボットは、確かに強いが、その分コストもかかる。だから、しばらくは間に合わせの兵士を使うだろう。その兵士のために、疲労軽減、生存率向上を目的としたパワードスーツを開発するってことだ。
「ほいっ、こんな感じでどうよ?」
「早!?」
爆速で机に目を向ける。うん、デザインセンス神かよ。
深緑を基調としたスタイリッシュな輪郭だ。実用性と美しさの合体か?
「これちゃんと機能するよな?」
「もちろんさ。さあ、仕事量が二倍になるぞ!」
いや待て、待ってくれ。昨日の今日で俺もやる気があまり出ないし、今のスケジュールで手一杯だ。これ以上ダスターファクトリーにいると風引いちまう。
「アァ待て、もう殆ど完成なんだろう?ロボットの出来具合は?」
「それならあとAIを中に入れてみるだけさ。と、言いたいところだが、問題がある」
次の日だ。
ボディとAIは同時進行で作ってたはずだが、モノの方、まだ時間がかかるらしい。
あの事件もあったからな……モノの仕事に支障が出てもおかしくねぇ。
まさか体の方が先に完成に近づくとは思ってなかった。
所長が探していた、生物学者サイコロジスタ。その人は生体装甲を研究してたらしい。
まァ都合が良いような気もするが、その研究を引き継げばロボットの装甲が作れそうだ。
しっかし問題があって、サイコロジスタの生体装甲はゲル状だから、ロボットに取り付けてもすぐに剥がれちまう。
「組成を変えるとか、もっと圧縮するとか、できねーの?」
「う〜む……流動性のある物を固定する方法……」
「……あ!」
インテグラルが何か閃いた。




