第18話【アレンの覚悟】
『魔王になってもいい』
アレンのその言葉に目を見開くフレディは声を荒げて問い正す。
「自分が何を言ってるのか分かってるのかい!?」
「うん」
フレディの問いに頷いて答えるアレン。
「魔王になれば魔人族の王として、君はレイラ達と戦う事になるんだぞ!? 君は勇者になりたいんじゃないのか!?」
「うん。 僕は勇者になって魔人族と仲直りしたい。 けど、仮に僕が魔王にならなかったら別の誰かが選ばれるんだよね?」
アレンの言葉通り、ここでアレンが魔王にならなければ、別の者が魔王になる可能性もある。 しかしながら、だからといって、アレンが魔王になる事を受け入れられないフレディはアレンの肩を掴む。
「よく聞くんだアレン。 確かにアレンが魔王にならなければ他の魔人族が選ばれる可能性はある。 だけど君がなる必要はない。 君は勇者になって魔人族との平和を目指せばいい。」
フレディの言葉にアレンは悲しげに首を横に振る。
「お兄ちゃん、今の世界がどうなってるか知ってる?」
「今の……世界?」
アレンは悲しげに語り出した。 聖魔大戦の後の世界の事を……
「確かにお兄ちゃんをお母さんが討って、世界は平和になったよ? でもそれは人族にとっての平和なんだよ」
「どういう意味だい?」
アレンの言葉にフレディは困惑する。
「言葉通りだよ。 魔人族は今、人族に虐げられてる。 奴隷にされたりしてる。 お母さん達が頑張って止めてるけど、それでも止められない……」
「…………。」
フレディもある程度は予測していた。 魔人族の王である自分が倒れれば、魔人族は虐げられる。
しかしながら、レイラ達ならばその状況を最低限に抑えられるとフレディは思っていた。
だが、いくら勇者の権威を翳した所で限界がある。
聖魔大戦の恐怖は人々に深い傷を残していたのだ。
「そんな状況で虐げられてる人が魔王になったら、また同じ事の繰り返しになる。 なら、ハーフであり勇者の息子である僕が魔王になれば魔人族の人達を説得出来るかもしれない。」
覚悟を決めたアレンの目にフレディは後退る。 そして歯軋りしながら諦める。
「……君の覚悟は分かった」
「なら――」
アレンが振り返るとフレディが肩を掴む。
「話を最後まで聞きなさい。 君の覚悟は分かった。 けど、今それを決断するのは早過ぎる。 だから君の魔王としての力を封印する。」
「え?」
アレンはその言葉に不安を感じる。
「僕と君の力を使えば、君の魔王の力を一時的に封印出来る。 その間、新しい魔王が生まれる事はないだろう」
「本当?」
アレンの問いにレオンは頷く。
「だが君は――――」
アレンの記憶はそこで途絶えるのだった……
そして、アレンが居なくなった後の空間にてフレディは涙を流していた。
「相変わらず泣き虫なのね?」
フレディが振り返った時、彼は目を見開いた。
彼の目の前に居たのは最愛の妻であるエリスだった。
「エリス? 何故君がここに?」
困惑するフレディにエリスは微笑む。
「なぁに? 私が居るのがそんなに不思議? 私だってアレンのママなんだけど?」
「いや、だって君はアレンが産まれた時……」
「貴方の仕業なんでしょ?」
「え?」
フレディは何の事か分からなかった。 エリスはフレディの頬に触れて微笑む。
「私が息絶える瞬間、貴方の魔力を感じたわ。 それで気が付いたらアレンの深層心理の世界にいた。 たぶん貴方の魔力が影響したのでしょ?」
「僕が? そんな事した覚えは……」
「アレンの中に聖剣と魔剣の力の一部を入れたでしょ? バレてないと思う?」
「あれはアレンを魔王にしない為のもので君がこうなるなんて思わなかったよ……」
フレディの言葉にエリスはぷくぅと頬を膨らます。
「へぇ? 私がここに来て嬉しくないんだ?」
「そ、そんな事はない! けど意図してたわけじゃなくて混乱してて……」
慌てて取り繕うフレディを見てエリスは笑う。
「フレディは本当に揶揄いやすいね?」
エリスの笑顔にフレディは真っ赤になる。
「はぁ……魔王をこんなに骨抜きにした勇者なんて君ぐらいだろうね?」
「あら? 勇者を惚れさせた魔王も貴方だけでしょ?」
そんな会話を続けていると2人の周りが白くなっていく。
「そろそろ時間だよ。 次はアレンの力が覚醒した時だろうね」
「そう……また眠りに着くのね?」
エリスは寂しそうにフレディを抱き締める。
「僕達はとっくに死んだ身だ。 魂のカケラををアレンの中に封印してるだけだからね」
「……そうね。 今度アレンに会える時はどれぐらい大きくなってるかしら?」
エリスの頭を撫でながら微笑む。
「寂しいかい?」
「ええ、寂しいわ」
フレディは優しくエリスを抱き締め返し、耳元で囁く。
「じゃあそれまで一緒に居よう。 アレンを共に見守ろう?」
「……ほんと、フレディは魔王なんて似合わないほど優しいわね」
2人は空を見つめて、共に言葉を発した。
「「アレンの未来に。 愛してる」」
そして2人は白い光の中に消えていったのだった。




