託す陰キャ(来月の自分に任せよう)
「ホワイトデー楽しみにしとくね〜」
2月14日。いわゆるバレンタインデー。
千葉さんと利根さんが僕の席に来たかと思えばチョコを置いて去っていった。市販の安いチョコだ。
理解は未だ追いついていないが、この状況を客観的に解釈するとおそらく『義理チョコ』というやつだろう。
本命じゃなくて残念?いやいや、チョコ自体を貰ったことのない僕からすればどんな意図であろうと素直に嬉しい。
普段口や顔には出していないが、これでも竜田や千葉さんたちの事は人として好きだ。そんな人達からもらえるチョコに喜び以外の感情を抱きようが無い。
(感謝、伝えそびれたな……)
こういうのは直接言うに限るので、千葉さんの席に向かう。思い立ったが吉日だ。
「お、どうしたの?」
こちらに気付いた千葉さんが、物珍しそうに僕を見る。僕が自分から話しかけに行くのは珍しいのだから、珍しいに決まっているのだが。
「チョコありがとう、それだけ」
「律儀だねー鴨川は」
隣に座る利根さんもクスクスと笑っていた。利根さん……あ。
「そういえば、竜田には渡したの?」
「えっ!?」
予想通りというべきか、利根さんは顔を真っ赤にして慌てふためいている。千葉さんに目をやると肩をすくめていた。
「まふ、朝からこの調子で渡せてないんだよねぇ」
「うう、渡そうとすると緊張で……」
「竜田も楽しみにしてるし、早く渡したら?」
「そ、そんなのわからないじゃないですか!」
「いやでも鴨川の言う通りだよ。竜田めっちゃキョドってるし」
「うわぁホントだ!?」
今度は竜田に目をやると、ひと言では言い表せない荒ぶり方をしていた。僕たちからすればその理由も1つしかないが、利根さんと竜田の関係を知らない人からすればチョコが欲しすぎて嘆いている人に見えるだろう。あながち間違えてもないけども。
「まふ、早くしないと竜田が可哀想な人認定されちゃうよ」
「確かにあれはちょっとまずいですね……」
そこまで深刻に受け止めなくてもいいだろ。
「私、渡してきます!……あ、今のはギャグとかじゃなくて本気で」
「「わかったから行ってこい!」」
「は、はひっ!」
利根さんはいそいそとカバンからチョコらしきものを取り出し、竜田に渡しに行った。
ここで渡したら、竜田と利根さんのクラス内ポジション的にネタにされかねない気もするが……まぁ止めるのもアレだし見守るとしよう。
と、思っている時だった。
「そそぎー、これ友チョコ〜」
「お、ありがとー」
クラスメイト(名前は覚えていない)の女子が千葉さんにチョコを渡しに来た。ここで見守っていたら邪魔になるか、千葉さんとも離れておこう。
「あ、鴨川くん?だっけ。どーぞ、クラス中に配ってるから貰ってよ」
立ち去ろうとしたらその女子からチョコを貰った。市販の詰め合わせチョコだが、嬉しいといえば嬉しい。
そういえば去年も同じような事してる女子いたっけか。……もらえなかったけど。
「え、あ、ありがとう」
戸惑いつつも感謝は伝えた。
「いいよいいよ。てかそそぎ、鴨川くんと仲良かったんだね」
「結構遊ぶね、面白いし」
「言っちゃ悪いけど意外ー!面白いのかぁ」
言っちゃ悪いなそれは。別に良いけども。
「んじゃ他の人にも配ってくるわ」
「いってらっしやーい。……ごめんね鴨川、あの子悪い子ではないんだけど」
「いや気にしてないよ。チョコも貰ったし」
カッコつけてるように見えるかもしれないが、本当に気にしていなかった。ぶっちゃけ女子高生からすれば、僕みたいなやつなんて眼中にないに決まっている。名前を知られているだけでも驚きだ。
「って、あ!まふ達にみんな集まってる!」
「あ、あぁ……バレたか」
どうやら渡す場面を見逃してしまったようだ。しばらく……次の学期まではあの二人もネタにされそうだな。
(あ――次はもう三年生か)
「はいソウスケ君、私からもチョコレートだ。お返しは期待しておくよ。……千葉君からも同じ事を言われたのか。ではもう考えているのかい?あ、決めてないのか。なるべく早くに……いや、当日まで楽しみにしておくよ」




