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渡す陰キャ(ただいま、わんもあよろしく)

「えーっと、その、なんだ……お土産、どうぞ」


 気まずそうに目線をそらす葵さん。何とも言えない空気が部屋全体に広がる。


「……わ、私はちょっと散歩してくる」


「待ってください別にとっても深刻とかそういうわけじゃなくて!」


 席を立とうとした葵さんを、千葉さんが引き留める。……結構強めの力で攻防を繰り広げているような気がする。




「で、親友を取られたようで苦しいと」


「はい……」


 なんだかんだで、僕と葵さんでお悩み相談教室が始まった。内容は『利根さんと遊ぶ機会が減って淋しい』というものだ。よく聞く話ではある。


「まふにも私にも彼氏とかできたことなくて……まさかここまで心が狭いとは、恥ずかしいです」


「はは、形はどうであれ好意を寄せていたんだろう?そんな相手が自分から離れていけばそうなるのはごくごく当たり前のことだ」


 僕はこれまでそういう関係の相手がいなかったので素直に同意しかねる。けど、容易に想像はつく。

 千葉さんと利根さんに関しては尚更。学校にいる間は常に一緒にいるんじゃないかと言えるくらいにニコイチだったし。


「解決策とか、そういうのは無いだろうね。慣れるしかないさ」


「ですよねぇ……はぁ」


 千葉さんはため息をつく。

 僕は本当は黙って聞いているつもりだったが、千葉さんのそんな姿を見て、ふと思ったことを口にした。


「応援してた割には、ホントはそんな感じのことを思ってたんだな」


「それはそれ、これはこれ。素直に応援したい気持ちと、それでもさみしいよ〜って気持ちが、同時にあったっておかしくないでしょーが」


「……なるほど、たしかにそうだ。ごめん」


「いやいいよ。こうして2人が付き合うまでは、心の中は応援一色だったんだよねぇ……。心狭いのかなぁ私」


「それは……なんとも」


 葵さんも肩をすくめるだけで、肯定も否定もしなかった。


「ちなみに前と今、どれくらい遊ぶ頻度とか変わったんだ?」


「えっとね……前は週5くらいで遊んでたけど、今は週2くらいかな。竜田とは毎週土日のどっちかでデートしてるって聞いたー」


「今まで一緒にいる時間が長かったのもあって、そうなってしまったんだろうね」


「ですよねぇ、流石に頻度多いですよねぇ……」


 いつになくしおらしい反応をしている姿を見かねたのか、葵さんが飄々とした態度で提案した。


「良かったら今日も泊まっていかないかい?」


「えっ……まぁ予定とかはないですけど……いいんですか?」


「勿論さ。ソウスケ君も良いだろう?」


「随分唐突ですね」


「千葉君ともっと話してみたかったからね。この機会を逃したくないさ」


 葵さんは不敵な笑みを浮かべながら、千葉さんの隣に座り直す。千葉さんもふふっと嬉しそうに笑い返していた。

 本人たちがこうなのであれば、僕が反対する理由もない。むしろ葵さんの会話相手になってくれるなら大歓迎だ。

 さて、そうと決まればだ。


「僕、食材の買い出しに行ってきます」


 2人分ならまだしも、三人となると食材がギリギリで怪しい。僕の性格的に、客人に対してそんなものをお出ししたくもない。

 そう言って玄関で靴を履いていると。


「お邪魔しといて申し訳ないよ、私もついてく」

「それなら私も同行しようか」


 ……どうやら三人で行くことになりそうだ。





「おや、豚肉が半額じゃないか。買っておこう」


「あ、どうせなら明日使う分もお願いします」


 葵さんと鴨川が生活感溢れるやり取りをしている。千葉雪わたしはそんな二人を眺めながら、少し離れたところで立っていた。

 ここまで思ってることを打ち明けれる相手は中々いないから、少し恥ずかしい。でも鴨川も葵さんもいい人でホントに良かった。


「千葉は苦手な料理とかある?」


 鴨川はタメ口を使うようにはなったが、やっぱりどこかぎこちない様子。まぁそういう真面目……真面目?なところを気に入ってるんだろうけど。


「んーん、無い。なんでも食べるよ、ふふん」


「おお、その調子だとそのうち私の背も越されるかもしれないな」


 葵さんは私の隣に、背比べをするかのように並んで立つ。んん、スレンダーな体型……正直少し羨ましい。


「えー、もう成長止まってますって〜」


 が、現実は非情。私は高校に入学してから成長していないのだ。そう悲観するようなことでもないけど。


「あとは……千葉、お菓子とか買いに行こう。何がいい」


「えっ、お菓子……お菓子かぁ」


 三人でお菓子が陳列されたコーナーに歩く。 

 お世話になっておいてお菓子までご馳走になるのは申し訳ないんだけど……葵さんも「今日はお菓子でもつまみながら駄弁ることにするか」だなんて言ってるし、こりゃ断れないなぁ。


「じゃあ、このチョコクッキー」


「ん、わかった。このサイズなら二つかな」


 鴨川は二箱手に取り、そのままかごに入れる。


 こうしてみると、鴨川の生活力は高い。母性とかそういうのじゃないけど、そつなくこなしているというか、すごく自然に、慣れた感じでやっているというか……。

 料理の時も思ったけど、こういうところしっかりしてるし、鴨川ももっと自信持てばいいのに。


 顔立ちは悪くないし成績も平均以上、運動は……どうなんだろ、聞いたことないけどできるイメージは無いなぁ。

 家事全般は完璧だし聞き上手で優しいし……


「……ねえ鴨川」


「……ん?」


「なんで彼女とか作らないの?」


 スペック羅列したらめちゃ優良物件じゃない?鴨川って。彼女はおろか友達もいないと聞いた事があるけど、鴨川は真面目にやってきてるんだから自信を持つべきだと思うんだけど……自己肯定感低すぎない?


「……女子と関わらないから?」


 数秒の間が空いて、疑問形で答えが返ってくる。

 そもそも関わろうとしてるの?って言いたくなったけどやめておいた。まぁ多分回答は予想通りなんだろうけど、踏み込み過ぎ厳禁ってやつ。


「ま、鴨川も幸せになるんだよ〜」


「は、はぁ……」





 千葉さんに謎の激励をもらい、なんやかんやで帰宅。


「ふぅー、重かったあ」


「すまないね二人とも」


 葵さんが申し訳なさそうにしている横で、千葉さんと鴨川宗介ぼくはその場に食材が入った袋を置く。


「僕男ですし、支払ってくれたんですから当たり前ですよ」


「私も今日お邪魔させてもらってるわけですし」


 僕達がそう言うと、葵さんは優しい笑顔でこう言った。


「……全く、最近の若いものは。年寄りを労り過ぎだ」




 ……いや、葵さんそこまで年いってないだろ。

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