えくすとら 切り取る陰キャ(勉強会二日目より抜粋)
「正義は勝つ」
昔から有名な言葉だ。僕としてはそこまで好きではない。ハッピーエンドが嫌いという訳では無いが、現代のその言葉の使われ方が引っかかる。
ヒーローが己を鼓舞するための言葉、それが「正義は勝つ」だと考えている。正義=勝つという式はないが、それを実現するという信念が籠もっているように思えるからだ。
しかし昨今の使われ方は己を正当化するための、茶化した物が多いと思う。もちろんこの言葉の始まりがどこなのかを知る由もないため僕の勝手な考えでしかないが、自分の中のイメージと懸け離れていると少し物悲しくなる。
とはいえ悪役がその言葉を使い勝ち誇る姿も嫌いというわけではない訳で。つまりは。
「正義は勝つのよ!」
――千葉さんがパーティーゲームでボロ勝ちしてる時に発したその言葉が非常に悪役臭がするというわけで。
「これで10連敗……!」
「双六だよ?パーティーゲームだよ?なんでこんなことになるの?」
どこぞのカップルは頭を抱えて唸っている。ちなみにそこの二人が3位と4位を独占していた。前に一緒にゲームした時は僕より上手だったはずなのになぜ……。
「こういうゲームは格ゲーとかFPSとは違うのよ!」
「そういうもの……か?」
「そういうものよ!」
すっかり意気消沈している2人を横目に、ため息をつく。
三戦目までは良かった。運が良く立ち回りもうまい千葉さんがすごいというだけだった。
五戦目には千葉さんを王座から引きずり下ろすゲームとなり、最終的にはもはや何のためにしているんだと言わんばかりの空気だった。
まぁ、そんな中でも「正義は勝つ!」だなんて言って盛り上げようとする千葉はやはり流石というべきだろう。
「そろそろみんなも飽きてきたんじゃないかな。ほかにゲームある?」
「ああ、たしかこっちに……」
ゲームがある方を指さそうとして、まるでラブコメのように千葉さんと僕の手が触れ合う。しかしお互いドギマギする訳もなく、軽く「ごめん」とだけ言って新たなゲームを――
「ちょっと待ってください、それだけですか」
――探そうとしていたところに、利根さんが横入りした。
何事かと思っていると利根さんは立ち上がり、指を僕たちに向ける。
「若い男女の手と手が触れ合ったというのに、そんなに軽く流すのですか!」
利根さんの剣幕には驚いたが、しかし抗議の内容はどうにも理解しがたいものだった。何も感じなかったのだから仕方ないだろう。
「まふ、恋愛脳過ぎるよ〜?」
千葉さんの反論に賛成だ。決して彼女に魅力がないというわけではないが、僕は手が触れ合っただけでドギマギするほどヤワに育ったつもりはない……つもりだ。
「むむむ〜……」
何か言いたげな様子だが、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。利根さんは不機嫌そうに、そのまま座り直してしまった。
「あ、これは?」
「あ、それは、えっと……」
千葉さんが手に取ったのはいわゆる恋愛ゲームだった。正直一人で黙々とするタイプのゲームだろう。
(そういや買ったは良いけど全くやってなかったな……)
買って満足したというわけではないが、興味本位で買った割にそこまでモチベーションも無かったというか。なので言い訳のようにはなってしまうが、僕はこのゲームはほとんどやっていないに等しいのだ。
「へー、ギャルゲーってやつか……いいじゃんみんなでしよ!」
「えっ、いや、一人でやるタイプのゲームでは」
「まぁプレイするのが一人でも、みんなでワイワイ楽しそうじゃない?」
僕が千葉さんに反論しようとすると、竜田がさらに反論する。この流れは……変えれなさそうだ。
「ねーこのコさ、ブリッ子過ぎない?あんまり好きじゃないかなぁ」
「私この子がいいと思う!ほら、可愛くない?」
「僕はこの子……睨まないでよ真冬さん」
三者三様に意見を言っていく。なるほど、確かに自分一人でやるよりかは幾分も楽しいかもしれない。
(……あれ、今更ながら勉強会とは?)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いやぁ、楽しかったねー」
「まさか結局誰も攻略できないとは……」
あのままぶっ通しでギャルゲーをして、なんやかんやで夕方になっていた。本当はもう少し早い時間帯に帰る予定だったのだが、中途半端なタイミングだったため「あと少し!もうちょい待って!」と長引いて長引いて……。
「もうこんな時間かぁ……私、お母さんに電話してくるね」
「僕はトイレ行ってくる〜」
そう言って利根さんと竜田が席を外す。千葉さんは既に荷物を纏めているため、手持ち無沙汰なのかぼーっと僕のことを見ている。……ん?
「……何見てるの」
「いや、鴨川ってさ。これまで彼女とかいたの?」
唐突だ、と思ったが昨日の恋バナや先ほどまでのギャルゲー的には唐突でもないか。
「見て分かる通り、無いよ」
この問いに対する答えは一択なのだが、改めて口にすると虚しさを感じる。別にいないことを恥じているというわけでもないし今も幸せだが、やはり虚しさはある。
「はへー……」
カチ、カチ、カチ。静寂の中、時計の音が鳴り続ける。お互いに見合っているが、無言。二人とも帰ってくるのが遅いな……。
「何見てるの?」
「ん、あ、ごめん」
今度は千葉さんから言われてしまった。まぁ、やることもないのだし、目の前に人がいるというのにスマホを触るのも失礼だろうと思い、視線をそらすタイミングを完全に見失ってしまっただけなのだが。
「「……」」
別に居心地が悪いとかそういうわけではない。葵さんとはまた別の、少し落ち着くというか、そういう空気を感じる。
「あの……」
千葉さんが何かを言いかけたとき、ちょうど利根さんが帰ってきた。
「あれ、二人とも何してたの?も、もしかしてやっぱり……!」
「違うからねー」
千葉さんの対応が雑だ。どことなく不機嫌そうにも見える。先程何かを言おうとしていたのは分かっているが……おそらく、利根さんがいる時は言えない事なのだろう。久々に愚痴のはけ口にでもしようとしていたのだろうか。僕としては慣れたものなのでばっちこいではあるのだが。
「っと、ごめんね。私はもう出るね。今日の夜は外食らしいから早く帰らなくちゃ!」
利根さんが自分のカバンを担いで、手を振りなが言う。僕と千葉さんはその姿を笑いながら見送った。
「……あのっ」
「あ、真冬さん帰っちゃった?送ってこうと思ってたんだけどなぁ……」
今度は竜田に遮られた。千葉産の顔が少し赤く見えるが、夕日に照らされているからだろう。彼女のためにもそう思っておこう、うん。
「今から追いかけたら間に合うんじゃないか?」
「そうかな……ま、時間も時間だし僕は帰るよ。ありがとね、宗介くん。また遊ぼ〜」
「ああ」
そう言ってそそくさと竜田も帰っていった。残るは千葉さんなのだが、さてさて帰宅の前に何か言いたがっていたように見えたのだが。
「……」
振り向くと、頬を膨らませながら机に座っている。まるで「前に座って私の話を聞くのが貴方の義務だ」と言わんばかりに。
「どうしたんだ、千葉」
「……あのね、その」
もじもしもと恥ずかしそうな千葉。彼女の恋愛観的にも告白な訳では無いだろうし(僕が僕の時点でそもそも論だが)、言いづらいお願いや愚痴なのだろう。僕は黙り、彼女が言いたいことを言うまで待った。それが悪かった。
「その……っ!ま、まふと遊べる時間が減って少しさみしく……て……」
なんでタイミングなんだよ、この人は。僕は頭を抱え、千葉さんは顔を真っ赤に……夕日を言い訳できないほど熱く赤くした。
「あー……その……なんだ、ただいま?」
葵さんが帰宅した。




