第88話 錯乱のロバート
災冥竜テラ・ディザス。
ランジェアたちは、宝都ラピスに向かってきた『残香個体』とでも呼ぶべきものを倒し、ホーラスは『本体』に勝つことは叶わなかったが、特殊なインゴットを預かることはできた。
これによって災害はおさまり、空は晴れて、カオストン竜石国では復興作業が始まっている。
「な、ない。ない! 俺の剣。どこに行った!」
ロバートは自分の腰に剣がなく、焦りに焦りまくっていた。
ちなみに、今回の一件は『ロバートがドラゴンを宝都ラピスに連れてきた』とみなされても不思議ではない。
しかし、勇者コミュニティの幹部メンバーとホーラスが宝都ラピスにいたことで、『どのみち、宝都ラピスから近い場所が決戦の地になる』ことは予想されていた。
そのため、テラ・ディザスを連れてきたことに関しては、『個人の判断として正解とは言えないが、戦略的に間違いではない』とした。
それが竜石国の公式的な扱いであり、ロバートが罪に問われることはない。
まあもっとも、本人にとっては『それどころではない』と言ったところだろう。
「あの兵隊が死んだことなどどうでもいい。俺が言えばいくらでも替えがきく駒だ、だが、あの剣がなくなったのはマズイ。どこだ。どこだあああああっ!」
宝都ラピスで叫びながら剣を探すロバートだが、彼の場合、おそらく最初にテラ・ディザスと戦った場所から宝都ラピス『近辺』の間で落とした可能性が高い。
勇者コミュニティがテラ・ディザスと会敵してからは彼に余裕がある程度あったはずで、そこから剣がなくなればさすがに気が付く。
剣がなくなったことに気が付いていなかったのは、それだけ『逃げるのに必死だった』ということ。
そのため、町の中でいくら探そうが見つかることはない。
が、何故か町から離れようとしない。
「……師匠。彼は何故、あそこまで錯乱しているのですか?」
もちろん、ロバートの奇行の噂は勇者屋敷にも届いている。
ランジェアはそんなロバートの様子が気になった様子。
ホーラスは『作業の休憩中』なのか、ロビーでのんびりしていたが、ランジェアからの質問に少し考えて……。
「簡単に言うと、アイツが持ってた剣は、ものすごく特殊な素材が使われてる」
「特殊な素材?」
「その……魔力っていうのは安定を求めているわけだ。言い換えれば、『急激な変化』っていうのは魔力にとって最も適した形ではない」
「確かに」
「金属に対する付与魔法とか錬金術でも同じことが言える。推測も含めるが、アイツが持ってた剣は、素材の質を上げるのに30年。一気に仕上げて、また魔力の質を高めるという作業に15年かかってる」
「完成までに45年もかかる一品ということですか。確かになくしたら始末書ではすみませんね」
「まあ、これはアイツが管理者側だからっていうのもあるだろうな。ただ、普通の兵隊が持ってる物であっても15年はかかるはずで、Sランク冒険者に匹敵するあの五人の武器は、おそらく完成までに30年はかかる」
要するに。
「兵隊はおそらく死んだだろう。ただし、自分が使っていた45年かかる武器と、30年かかる武器が5本失われた。しかも、時間がかかるからと一度に大量に作っておくこともできない。武器の質は相当なもので、おそらく職人がつきっきりで作業することになる」
「それほどの質が?」
「ああ。あの六人が屋敷に来た時、ラーメルはいなかったが、おそらくアイツらの武器を見てたら目を輝かせてたはずだ」
ラスター・レポート最高の職人であるラーメル。
しかし、彼女はまだ16歳であり、『作るために30年、45年もの月日を要する武器』という存在など、初見では理解できない『新世界』のはずだ。
「竜封院は、ドラゴンという長寿の存在を相手にする。だけど人の寿命は短いから、扱う道具と技術には時間をかけ、受け継ぐことで対抗している」
「一応、時間をかけたものを使っているということくらいは、ロバートも認識しているのですね」
武器である以上、壊れることはある。
が、『失くした』というのは、その見栄えが非常に悪い。
もちろん、武器など、手入れはするが時には失われることを前提に扱うべきで、それが『罪』となり、『下』に送られるに値するかは、組織によるだろう。
とはいえ、『下』に連れられないだけで、『上』にこれから行けるかは、本当にロバート次第。
管理者という特権階級ではあるが、最強の権力は、その特権をだれに与えられるかを決められる『人事権』だ。
様々な査定を行なった結果、『長い年月をかけて作られたものを、軽く扱う人間』を評価するか否か。
そりゃしないだろう。
「まあ、このままだと降格が確定するから、多分必死なんだろうな。下手すれば管理者側、特権階級ではいられなくなるからな」
ロバートが竜封院の管理側として好き勝手にやっているのは明白だ。『竜封院の所属である』というだけで、ホーラスから竜のインゴットを『回収する』と言い張っていたくらいである。
とりあえず不満があれば暴力で解決するやり方も、『特権意識』がなければ成立しない。
「報復を理解できないでしょう。ただ『権力者として振舞えない』ということに嫌がるだけだと思いますが」
「まあ、アイツに認識できるのはそれくらいで、それ以上はわかってないだろうな」
「それはどういう……」
「要するに、『簡単に挽回できる』と考えてるんだよ。そして、現状も前提も見えないっていう要素付きでな」
そう言ったとき、屋敷の出入り口が開き、ラーメルが訝し気な表情で入ってきた。
「なあ、師匠。ロバートってやつが、師匠を出せって言ってるけど」
「……はぁ。わかったよ」
ホーラスは溜息をつきながら立ち上がる。
予想はしていただろう。
思ったより早かったのか、それとも遅かったのか。
それはわからないが、予想はしていたはず。
「躾が足りないよな。ほんと」
そんなことをつぶやきながら、ホーラスは屋敷を出た。
作品を読んで面白いと思った方、もっと多くの人に読んでほしいと思った方は、
ブックマークと高評価、よろしくお願いします!
とても励みになります!




