第87話 ホーラス+シドVS災冥竜テラ・ディザス 2
竜から人へ変貌したテラ・ディザス。
対するホーラスとシドは、『戦闘にリソースを割いている』という言葉を聞いて、さらに集中し……。
「がっ!」
ホーラスの腹に、テラ・ディザスの蹴りが突き刺さっていた。
赤い装甲をやすやすと貫通し、そのまま後ろに飛ばされて、地面を抉る。
「ほう、今ので死なぬか。なるほど、強力なゴーレムを作ったものだ……ん?」
テラの上からシドが巨大な水の槍を降らせる。
「水遊びは子供の時に卒業しろ」
そう言って、テラが指をパチンと鳴らすと、水の槍が光って、爆発した。
「チッ……」
爆風に巻き込まれながらも、何かの作用でダメージを免れているようで、少し距離を取っている。
「……まったく、『使徒』の身分で我に勝てると思っているのか?」
「勝てなかったら困るんですよ」
「だろうな。困ればいい。おや?」
ホーラスが片刃の大剣を手に突撃し、テラに肉薄する。
だが、右手の人差し指と中指を揃えて出すと、刃をおさえて止めた。
「随分、面白い剣を使う」
面白い、と称するに値する形の大剣だ。
片刃のため『峰』があるのだが、そこには『筒』が十個並んでおり、そこから何かが噴射されて圧倒的な速度で振っている。
大剣だが、速度は圧倒的だ。
「圧縮したガスを膨張させて噴射し、その推進力を利用する。1800年前の『大召喚時代』では『ロケットエンジン』と呼ぶのだったか?」
「なんで指だけで止められるんだよ」
「存在のエネルギー量が違う。災害に肩を並べるのは人類には早い」
そこまで聞いた瞬間、ホーラスは後ろに跳躍して離れた。
その時には、莫大な水を『圧縮』したシドが構えている。
「『結論・解放』」
水のレーザーとでも呼ぶべき攻撃が放たれる。
「……」
テラは手をかざすと、水が直撃。
しかし、彼自身は一歩も動かない。
「確かに圧力は認めるが、その程度で……!?」
テラはホーラスを見る。
その時、彼は左腰からキューブを外して、大剣の鍔にある窪みにはめ込んでいた。
その瞬間、十個の筒が大剣から離れて、ホーラスの両肩、両腰、両膝、両肘、背中に接続された。
「まったく……」
次の瞬間、振り下ろされた『反りのない未来的な太刀』と呼ぶべきそれを、テラは魔力を固めて剣にして受け止めた。
だが、今度は勢いを殺しきれない。
後ろに下がり……体が宙に浮いた。
「チッ」
「この性能なら、空中なら負けない」
筒からガスが噴射され、ホーラスは加速する。
そのまま、空中にいるテラに向けて、何度も剣を振り下ろした。
「お前が思っているほど、我も空中で不自由ではないぞ」
空中に魔力で足場を作って、ホーラスの攻撃に耐えるテラ。
だが、空中における最高の加速を得たホーラスの猛攻は圧倒的で、その苛烈さは増していく。
「チッ、クソっ、調子に乗るな!」
「お前相手に善戦してるんだ。そりゃ調子に乗るさ」
「それは認めるが、内に秘めておけ青二才が!」
ホーラスとテラは剣を振り、空中で激突する。
ただ、あきらかに、ホーラスが押している。
「……まさか、ここまでの性能があったとは……どうやらあのキューブを接続したことで、あの剣しか今は使えない。その代わりに、あの剣の最大性能を発揮している。と言ったところですかねぇ」
シドは分析しつつも、いくつもの水の弾丸を生み出す。
そして、隙を見つけてはテラに飛ばしている。
「使徒の分際で邪魔を……」
「邪魔って……もともと2対1ですが?」
「そうだな。ああクソ、これは計算外だ」
テラの『予想』がどんなものだったのかはともかく、明らかに悔しそうな顔つきになる。
「……もらった!」
テラの背後からホーラスが剣を振り下ろす。
明らかに迎撃は間に合わない速度。
そのまま背中に剣を振り下ろし……。
「はぁ、本当に計算外だ」
ブワッと、テラの全身から、真紅のオーラがあふれた。
そのまま、テラは指をパチンと鳴らす。
すると、ホーラスの剣の刀身が、熔けるように消えた。
「なっ……がふっ!」
そのまま、ホーラスの腹にテラの蹴りが突き刺さる。
超高速で動いていたのは間違いないが、それを完璧にとらえて、装甲を容易く貫通した。
「ありえない。まだその時間では……」
「何を言っている。『本体』である我は、そのタイミングは自由だぞ?」
「ぐっ……ごはっ!」
一瞬でシドに肉薄し、その胸に拳を叩き込む。
そのまま後ろに吹き飛んで、地面を抉りながら転がった。
「ん?」
テラはホーラスに視線を向ける。
そこには、熔けたはずの刃を構え、粉砕したはずの鎧を修復したホーラスが立っている。
「……まったく、随分、貪欲なやつだ」
テラはため息をつくと、右手を前に出す。
そこに力を入れると、そこに真紅のインゴットが出現した。
ただ、最大の変化に関して言えば、『空が晴れた』ということだろう。
「空が……」
「このインゴットは、我の災害を引き起こす上で重要な部分を抜き取ったもの。我は体内の魔力がなかなか安定しないため、周囲で災害が発生する」
テラはインゴットをぶん投げて、ホーラスは左手で受け止めた。
ホーラスはそれを見つめて、すぐに魔力を通す。
深紅に染まるインゴットの色彩が深みを増したような、そんな感覚がある。
「初見でそこまで……ガイやゼツの残り香を扱っているだけあるな。もっとも、まだまだ甘いが」
フフッとほほ笑む。
「それはお前に預けておこう。お前がそのインゴットを完全に制御できた時に回収すれば、我はさらなる力を得る。使徒に関しては見張っておくから、さっさと帰るんだな」
「……なら、遠慮なく預かっておこう」
「お前、最初から自分の安定性能しか我に見せていないぞ? それを貰うことが前提の戦いだったろうに」
「バレたか」
「ああ。それと、『勝手口の鍵』は入れてある。期限は長くないが、好きにするといい」
「なら、遠慮なく預かっておこう」
ホーラスはそう言うと、筒からガスを噴射して、飛んで帰っていった。
……残されたテラとシド。
ただ、テラが不敵な笑みを浮かべながらシドを見るので、『何かある』らしい。
「で、お前はどうする? 今の我に『災害』は起こせない。むしろ。災害を発生させる可能性があるのは、あのインゴットを持つアイツの方だ」
「……彼なら制御できるでしょうし、今のあなたと戦う気はありませんよ」
「だろうな。今のお前は、たとえ勝てるとしても我には挑まん。そういうものだ」
テラはシドから目を離すと、どこかに歩き始める。
「どこへ?」
「適当に時間をつぶすさ。この世界も、いろいろ面白いものは多そうだ」
「勝手な……」
「そりゃそうだ。では、また会おう」
そう言って、テラは歩く。
シドから見えなくなったあたりで、テラは、ポツリとつぶやく。
誰に対するのかはわからない。
いや、あえて言えば、『時代』に対してだろうか。
「はぁ、しかしまあ、なんというか、『竜封院』の血族と『使徒』が手を組んで我に挑む。これも時代か。昔の人間が聞けば卒倒するかもしれんな……いや、そんな竜封院の血族の弟子に、転生したお前がなったことに比べればマシか? 記憶はないようだが……」
テラは、ポツリとつぶやく。
「昔のお前が見たらどう思うかな? 『氷越竜ラン・ジェイル』よ」
誰にも聞こえることなく、その声は、空に溶けていった。




