第86話 ホーラス+シドVS災冥竜テラ・ディザス 1
平原で始まった、二人の人間と一体のドラゴンの戦い。
もちろん、天を舞うドラゴンに対し、普通ならほぼ全ての手段が意味をなさないが……。
『ん?』
テラ・ディザスが首を傾げた瞬間、ホーラスの銃から、閃光があふれる。
銃口から放たれたそれに、テラ・ディザスは手を掲げる。
それだけで、『渦』のようなものが出現し、『噴火』が発生。
マグマが高速で吹き荒れて、閃光を飲み込んだ。
「そんなことも可能なのか」
攻撃が終わったホーラスの隣に、シドはいない。
『ほう……』
テラ・ディザスが視線を少し上に向けると、そこには、シドが巨大な『槍』を作り出している。
シドはそれを超高速で放った。
『む……』
テラ・ディザスの眼が光ると、水……いや、スライムで出来た槍は分解され『ただの水』となり、台風のように吹き荒れて、シドに向かう。
「でたらめな……」
空中を蹴って台風の範囲から離れつつ、次々と槍を生み出して射出する。
テラ・ディザスに迫り……。
『安定性を上げたか』
腕を振るだけで竜巻を起こし、槍を全てかきけす。
その時には、再び閃光が下から来ていた。
先ほどよりも明らかに密度の濃いソレ。
テラ・ディザスは自分の傍にまた渦を作って、噴火で迎撃する。
『魔法が効率化……いや、理論化が進んでいるな。ガイやゼツ、そして我の『残り香』が、ただの人間から一方的におされるのもよくわかる』
「残り香だと?」
ホーラスが驚きの混じる声で言った。
『ほう? 貴様が知らぬか。まあいい、我に挑む『参加賞』として教えてやろう。我も含めた『四源嬢の要竜』は、圧倒的な力を有するゆえに、通った跡に莫大な魔力が残る』
テラ・ディザスは面白そうに語る。
『そして、魔力は安定を求め、竜の情報を持つ金属になるのだ。四竜そろって1000年前に封印され、復活に必要な力が最も残っていた我がいち早く復活したというわけだ』
「てことは、ガイ・ギガントもゼツ・ハルコンも、今もどこかに封印されていて、倒されたわけじゃないってことか」
『我は封印されながらも、この世界を少しずつ見ていた。クククッ、あの程度がガイやゼツの全力なわけがなかろうに』
テラ・ディザスが楽しそうに話すのは、『滑稽』という感情があるからだろう。
王都の建物をバラバラにし、全力状態になれば通常時のホーラスでは勝てないガイ・ギガント。
人の身で扱ったがゆえに実力を出せていなかったが、それでも魔王を倒す際に使ったであろうランジェアの『絶技』の使用があってようやく『人』に戻させることに成功したゼツ・ハルコン。
どちらも、時代が時代なら、出現する場所が違っていれば大きな被害を出していたはずの存在だが、厳密には『通った跡の魔力が固まっただけ』という、その程度の存在でしかなかった。
しかし、そんな竜を倒しただけで、人は沸き立っている。
いや、過去に『絶望するほどの強さ』があったことは伝承として残っているはず。
だが、ここまで『圧倒的』だとは知らなかったのだ。
『我の残り香であれば、そうだな……ひと月で国を五つ滅ぼす程度だろう。随分ぬるい話だ。今の我ならば、ひと月あればいくつもの大陸を、人の住めぬ地に変えることはたやすい』
テラ・ディザスは嗤うように語る。
実際にそうした経験があるのか。それとも、『災害』というのはそういうものなのか。
……いや、実際にそうなのだろう。
噴火が続くことなどない。台風が続くことなどない。
ありとあらゆる自然災害は、定期的に『発生する』かもしれないが、自然災害が続くことはない。
しかし、テラ・ディザスは違う。
このドラゴンは存在するだけで、ただ存在するだけで、周囲に災害が発生する。
『ああ、そうそう……』
テラ・ディザスは見下ろす。
『我が話している間に『隠れて溜めて』いるようだが、別に見えるようにやっても構わんぞ?』
「「!?」」
ホーラスとシドが各々構築していた空間。
話している間にその時間を無駄にすることはあり得ないので、次の攻撃のために隠蔽空間を構築したうえで『溜めて』いたが、しっかりバレているようだ。
「全く……嫌なドラゴンだ」
「同感ですね」
二人とも擬態空間を解除する。
ホーラスが構える大型の機械銃の銃口は煌々と輝き、シドの傍ですべてのフラスコと触手でつながった水玉があった。
ホーラスはトリガーを引く。
「『サジタリウスⅡ』」
放たれる赤の閃光。
それはまっすぐにテラ・ディザスに向かい……。
「『結論・地獄門』」
その閃光は、シドが作り出した黒の扉を抜けて、赤黒く染まったものに変貌。
『この期に及んで、『布石』か』
テラ・ディザスは即座に、口からブレスを放出。
それは光線と呼ぶべき圧力となって、ホーラスたちの閃光と衝突した。
拮抗している。
だが……。
「チッ」
ホーラスは舌打ちすると、銃口から閃光が出なくなった。
そのころには、シドもその場から離れ、ホーラスも跳躍する。
二人とも離れたとき、テラ・ディザスのブレスが地面に直撃した。
『我のブレスに勝てば、我にダメージを与えることができ、勝てなかったとしても、『星の貫通』を防いだというわけか。器用なことをする』
ブレスは本来ならば、大地を貫通することなど容易いのだろう。
だが、ホーラスの砲撃は何か『性質を変えた』のか、地面に着弾しても、多少、地面をえぐるだけで済んだ。
『とはいえ、その程度で我に打ち勝とうなど、貴様の寿命が尽きるまで鍛えても不可能だが……フンッ、粋なものだ』
テラ・ディザスはホーラスの方を見る。
『何か狙っているな。とはいえ、復活したばかりだというのに良い前菜が待っていたのだ。我の復活を祝う余興くらい、楽しむくらいはしてやろう』
テラ・ディザスはそう言うと、自分の体を魔力の膜で覆い始めた。
そして、その膜は急激に小さくなる。
膜が晴れたとき、そこにいたのは、少年のような姿だった。
深紅に染まる髪の下で、髪と同じ真紅の瞳がきらめき、異質な存在感を放っている。
身に包んでいるのは真っ白のノースリーブシャツと黒いズボンとブーツというシンプルなものだが、体は鍛えられているのがよくわかる。
「……災害が少し収まったか?」
「フフッ、その通り。この姿になると、災害が少し収まり、我のリソースが戦闘能力に割り振られる」
「ドラゴンの時の方が強いとは言わないのですねぇ」
「様々な生物が進化しているが、様々な動物の要素を持つ体では安定性が上がらんからな。こちらの方がいいぞ? しかし、こうして人の体になったからこそ言わせてもらうが……随分、おかしな男だ」
テラ・ディザスはその瞳をホーラスに向けた。
彼が何を指して『おかしい』としたのかはわからないが……。
ただ、テラ・ディザスは面白そうにホーラスを見つつ、薄く微笑む。
「さあ、どうする? 何をしようと構わんが、精々、我を楽しませることだ」
第二ラウンド、開始。




