第85話 ホーラスとシド。災害の竜を前に……
竜巻、噴火、豪雨、地震。
多くの災害が発生し、これによって人が死ぬ可能性はある。
しかし、災害に意思はない。
天翔ける最強種族であるドラゴン。
その中でも、『いるだけで災害を発生させる』ほどになると少ないだろう。
災冥竜テラ・ディザス。
全てを拒む竜巻の中で、深紅の鱗を纏うその姿は、時代が時代なら、世界を絶望させるにふさわしい。
だが、仮にだ。
仮に……そんな存在が、しかも、本体とも呼べる存在が、もう一体いたりしたら、どうだろう?
「アレが本体と言ったところですか。フフッ、キンセカイ大鉱脈の地下で、あなたを倒すわけにはいかなかった。それはあなたも同様」
「ああ……ただ、その答えが出るのがこうも早いとは思っていなかったよ。シド」
そんなドラゴンから見える平原に立つホーラスの傍に、コートを羽織ったシドが現れた。
二人はテラ・ディザスを見上げ、そしてその存在をしっかりと認識し、何かに納得する。
「俺は宝都にやってきた方のテラ・ディザスを見て、正直疑問だった」
「まあ、そうでしょうねぇ」
「その疑問を無理やり言葉にすれば……俺よりも知識があるはずのシドが警戒するほどの存在じゃなかったからな」
宝都ラピスに出現したテラ・ディザス。
もちろん、この存在だけで世界に大きな影響を与えるだろうが、それでも、ホーラスと、それに格としては同じ位置に立つシドが『脅威と判断する』には至らない。
ホーラスは実際に宝都で見たが、そこまで脅威には見えなかった。
「ただ、コイツなら頷ける。大きさだけで三倍以上違うし、なんかところどころ、体のパーツが発達してる。見るからに本体だ」
「確かに、とはいえ、こんな存在を相手にしなければならない時代というのも、なかなか世知辛いとは思いますがね」
「同感だ」
ホーラスはシドの方を見る。
何か、そう、『何か』に確信を持っている。そんな表情で。
「わかっていた。お前たちは、『何かが何かを殺す』ことを正しいとしている。が……災害をはじめとする、『意思に関係のない死』をできる限り回避しようとする」
「よくお分かりで、ええ、その通り。災冥竜テラ・ディザスは、その強さも相当なものですが……問題なのは、『存在するだけで災害を発生させる』ということ。災害の発生にあの竜の意思は関係なく、殺すという意思なく人が死ぬ。それは、我々にとって都合が悪いのです」
「だからこそ、アイツをどうにかするってことだけを論点にすれば、お前と協力することくらいは、できると思っていた」
何かを理解している者の言葉。
それを紡ぐ二人だが、別に会ったことは多くない。
以前、パストルが引き起こした『騒動』の時に、キンセカイ大鉱脈の地下で会ったくらいだ。
だが、二人はお互いの『事情』の大部分を理解しているかのように、話す。
「あの時、お前を『麻痺』で片付けたこと、間違いじゃなかったと思わせてくれよ? あの災害の復活が近いって予測してたから、お前の邪魔を最低限にしたんだ」
「ハハハハハッ! これは失礼。ただ、こちらのセリフでもある。あなたがあの時全力ではなく、私の動きが期待通りではなかったことは事実」
微笑を崩さず、シドは言う。
「しかし、力を抑えていたのも……その『制御していた状態』の範疇で、貴方の実力が思ったほどではなかったのは私も同じ」
「……否定はせんよ。あの時、お前の防御力が高いとは思わなかったが、『俺たちの特性』を考えれば当然のことだ」
お互い、過去に戦ったときは実力を抑えていた。
ただし、抑えているといっても彼らの話は『火力』のことだ。
火力を抑えていたのであれば、そのリソースを『防御』に振り分けていれば、良くて千日手という何の生産性もないものになるのではないか。そういう解釈も可能だろう。
しかし、彼らの場合は違う。
ただ攻撃しているだけでも、『それに小細工を乗せる』ことを平気で、簡単そうにするのが彼らの戦い方だ。
ただの銃弾だが、当たったらどうなるか見当もつかない。
単なる銃弾をばらまくような攻撃だったとしても、そこに見た目以上の『何か』を仕込む。
これをお互いにしているため、例えばどちらかが『防御』にリソースを振り切った場合、もう片方は『うまく崩す』ための仕込みをすればその防御が瓦解する。
要するに、『戦い方の根本が単純とは無縁』なのがこの二人であり、そんな二人が『火力を抑えて勝負』などしたところで、単純な戦闘になるはずはない。
そういうレベルの話だ。
「お前の横で全力で戦うってのもなかなか嫌な話だが」
「いずれ、戦う日が来るかもしれませんし、私に手札を見せたいとは思わないでしょうねぇ。ただ……『そんなこと』を言っておきながら、あなたが本当に手札をすべて使うとは思いませんが」
「……そういやユーディネスのことを『近くから見てる』んだったかな。そんなにわかるか?」
「ええ、サプライズ好きでもありましたから。あなたのやり方も、よく似ている」
本当に懐かしそうに、ユーディネスのことを語るシド。
「……なるほど」
それに対し、ホーラスは何を思ったのか、一度、深くうなずいた。
ホーラスはポケットからキューブを取り出し、シドは10枚のコインを取り出す。
キューブと10枚のメダルが、それぞれ光った。
「『機械仕掛けの神』」
「『誰もいない実験室』」
ホーラスの全身を赤い装甲が覆いつくす。
シドのコートが白衣に代わり、10枚のメダルがフラスコに変貌。
「アイツがどんな強さだろうと関係ない。俺の勝利で、すでにシナリオは決まっている」
「フフフッ、始めましょうか。結果が『全滅』になる実験をね」
ホーラスは大型の機械銃を出現させて、シドは水玉を両手の前に出現させた。
そして、先ほどまで話していた二人も、この状態になれば、その意識は、思考は、『戦い』に向けて最適化される。
圧倒的な存在感を放つ二人。
隠れて不意打ちをぶち込もうなど、一切考えない。
隠れることに特化しなければならない場合、リソースの問題で火力は低くなる。
それではこの竜相手には効果がない。
だからこそ、真正面から打ち倒すために、そのための火力を用意する。
天翔ける最強種族であるテラ・ディザスも、彼らが全力となり『覇気』を放った瞬間、その瞳を向け……。
『……これも時代か』
そう、呟いた。




