第84話 ラスター・レポートVSテラ・ディザス 2
ラスター・レポートとテラ・ディザスの戦い。
最初は遠距離から撃ち合いつつのものだったが、接近してしまえば、射程ではなく威力を優先した攻撃ができるゆえに、その戦いは激化している。
ランジェアが剣で斬りつければ鱗を裂き、ウルリカが魔法を放てば体を焼き、シンディが杖を振ればテラ・ディザスの攻撃はまともに機能せず、ティアリスが二丁拳銃で、エリーが狙撃銃で撃てば体を貫き、ラーメルがハンマーでたたきつければ凄い音がする。
そう……『ダメージ』をしっかり与えているという状態になる。
そして……。
「な、なんなんだ、アイツらは……」
遠くから見ていたロバートは、とても青い顔になっている。
彼は竜封院に保管されていた資料を閲覧し、災冥竜テラ・ディザスの情報を持っている。
そこに存在するだけで災害が発生し、その戦闘力も災害を模したかのように圧倒的。
そんな存在を相手に、『持ちうる最大戦力』を投入するのは当然のことである。
それに加えて、ロバートの役目は『封印』だ。
ある程度余裕をもって戦い、封印の魔法を使うことが必要。
そして、ロバート自身が認めるかどうかはともかくとして、彼は『竜を相手にすれば弱者』だ。
そんな彼が使える封印魔法も強くはない。
言い換えれば、『彼でも封印できる程度に弱めつつ、なおかつ討伐に至らない』という塩梅を考える必要がある。
もちろん、彼があの五人を連れて自信を持っていたということは、それ相応の実力者なのだ。
このテラ・ディザスが全力の形態になるまでは、彼らは明らかに『優勢』だった。
しかし、テラ・ディザスが本気を出した瞬間に、彼の部下は全滅した。
全員がSランク冒険者に匹敵する実力。
それを五人集めても、まるで歯が立たなかった。
「あ、ありえない。これが勇者コミュニティの力だってのか? あの、あのゴーレムマスターもどきが鍛えただけで、普通の人間があそこまで強くなれるってのか?」
ロバートが認められないのは、そんな彼女たちが、『師匠』と呼んで慕う人間がいること。
そう、彼女たちは強いが、それでも『鍛えられた側』だ。
彼女たちを鍛えたのは、強くした根っこの部分はホーラスが担っており、その指導があって、彼女たちは今の力を有している。
「どうして、そこまでの力があるなら、何故……独占しようとしない。好きなモノを手にし、要らないものを切り捨てる。それが強者の特権のはずだ。何故……」
ロバートは竜封院という組織の中では『管理者側』だ。
要するに、権力者だ。
そして、その権力を行使して好き勝手にしてきた人間だ。
だからこそわからない。
強い存在が他を独占するのは当然のこと。それがロバートの考え方……いや、彼にとって『普通』であるがゆえに。
というより、『権力者』が『それほどのことができる存在』でなければ、そこに旨味を感じられないではないか。
それが、彼の理屈。
そして、その理屈を穢すものはこれまで出てこなかった。
しかし、今は違う。
圧倒的な強者だ。
ラスター・レポートは、圧倒的な強者なのだ。
何故、『独占』しようとしない。
「わからない。何故、ナゼ……」
呆然と唸るロバート。
ただ、事実を一つ述べるならば。
彼は、世界というのは、独占するに値するほど高いものだが、彼女たちにとっては、旨味を感じるほど高くはないという、それだけの話だ。
★
「チッ、なんだか攻撃してもすぐに回復されるぜ」
「思ったより削れないのだ~」
「むううっ! こっちから崩そうとしてもなかなか崩れないですね!」
で、強者扱いされているランジェアたちだが、彼女たちの本心を言えば『面倒』といったところだ。
傷を修復することをはじめとした『継戦力』とでもいうのか。
これを持つ相手というのは、思ったよりめんどくさいものである。
「仕方ないですね。一度、一気に削ります」
ランジェアが剣を掲げる。
すると、彼女の傍に八つの『門』が出現し、その扉は砕かれた。
門の中から莫大な冷気が放出され、剣に集約されていく。
集まった冷気は、巨大な刃を形成する。
「『儀典氷竜刃・絶技・八王天命』」
振り下ろされる刃。
それに対し、テラ・ディザスがブレスを放ったが、それすら容易く切り裂き、体を切り裂く。
「……おや?」
斬ったのは間違いない。
だが、その傷がすぐに戻る。
「なるほど、いろいろ『狂わせる魔力』も混ぜたはずですが、思ったほどのダメージはありませんね」
「ゼツ・ハルコンの時を相当削って、パストルのドラゴン化が解除できたけど、こっちはそうもいかないわね」
「どうするんですか!?」
シンディが慌てた様子でランジェアを見る。
その時のランジェアの顔は……とても不敵な笑みを浮かべていた。
「あっ……」
ウルリカはその雰囲気に気が付いた。
突如。再度八つの門が出現し、その扉は砕かれる。
中から出てきたのは、莫大な冷気ではない。
それぞれから出てきたのは、『八王天命』の刃。
「全員撤退するのだ~~~~っ!」
ウルリカが叫んだ。
ランジェアはその中で、宣言する。
「儀典氷竜刃」
剣を掲げる。
門から出てきた刃もまた、空中に漂い、その存在感を示す。
「『超絶技一幕・八王戦線凱旋前線』」
ランジェアは構える。
その時には、テラ・ディザスからほかのメンバーが全員離れている。
「参ります」
突撃。
そのまま剣を振り下ろし……テラ・ディザスの体に、八つの巨大な刃が叩き込まれた。
「ギャアアアアアアアアアアアアッ!」
「しっ!」
剣を引き絞るように構えて、突く。
次の瞬間、八つの巨大な刃はテラ・ディザスの体を貫く。
「フフッ、これくらい大きな相手だと、この技は効きますね」
獰猛な笑みを浮かべているランジェア。
「……あー。これはもう、どうしようもないのだ~」
「普段は奥底に沈めてるものをいろいろ、それも出しっぱなしになるからやらないけど、やっぱりすごい戦闘力ね」
呆れるほど強いランジェア。
それに対するメンバーの反応は、呆れだ。
もはや、止められない。
こうなったランジェアは、彼女たちには止められない。
「さあ、行きますよ。まだまだ楽しみたい。これほどの相手はなかなかいない。フフッ」
獰猛な笑みを浮かべるランジェア。
それを見たテラ・ディザスが何を思ったのか、それはわからないが、口に魔力をためているところを見ると、またブレスだろう。
だが、ランジェアが剣を軽く振るだけで、刃の一本がその口を切り裂き、ブレスのエネルギーを暴発させる。
「……さて、行きましょうか」
★
蹂躙は長くない。
すぐに回復できるといっても、やはりそこには『限界』がある。
どれほど継戦力があるとはいえ、それは『さらなる強者が簡単に踏みつぶせないほどなのか』となれば、そこまでではない。
要するに、その程度なのだ。
「……空が、晴れない」
大量の金貨とインゴットを目の前にして、ランジェアはつぶやく。
「これってどういうことなんだ?」
「わからないわ。ただ……師匠がどこか別のところに行った理由に関わりそうね」
「もう、よくわかりませんね! こういう時は待つに限ります!」
「同感ですね」
「それしかないのだ~。というより、近くに師匠の気配が全くないから、相当遠くに行ってるのだ~。ウルリカ達に手出しができないのだ~」
結論は、待機。
しかし……すこし、胸騒ぎがするのは、きっと気のせいではないだろう。
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