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第74話 ホーラスの仮説、題目は『15年前の真実』

 ホーラスの呟き。


 15年前。シルビオの娘が、神から与えられた宝石に侵食され、魔王になった。


 これに対する反応は、『静寂』だ。


 誰も何も言えない。何を言えばいいかわからず、何をすればいいのかわからない。


「で、でたらめだ! 真っ赤な嘘だ。そんなことはない! 絶対にない! お前の言葉に真実などない!」


 シルビオは喚く。

 だが、慌てふためく人間ほど、その内容に『根拠』を与えるものはない。


 明らかな嘘をつかれた時、人間は『余裕』ができるものだから。

 だが、『不都合な真実』が現れたとき、人間に余裕はない。


 シルビオの様子を見て、『ホーラスが語ったことが真実である』と、全員が認識した。


 ホーラスが語ったことが『嘘だと信じたい』ものはいるだろうが、そんなことに意味はない。


「少し静かにしてもらうぞ」


 ホーラスが指を鳴らす。

 次の瞬間、シルビオの周囲から鎖が出現し、彼を拘束し、床に縫い付けていく。

 口元には布が出現して声を塞ぎ、もう、彼が喚くことはできない。


「ふう……俺の仮説でも語ろうか?」


 あえて『問う』ホーラス。

 だが、それに対して否と答えられる人間はいないだろう。

 知りたいと思う者。知りたくはないが、それを表明しても無駄だと分かっている者。

 その二種類しか、ここにはいない。


「そうだなぁ。ま、順序を守って語ろうか」


 ホーラスはシルビオに向かって歩きながら語る。


「15年前の大神殿の跡地に行ったことがある。が、その地下にあったのは、牢獄と、乾いた精液だらけのベッドだった。権力者が清廉潔白だなんてもともと誰も思ってないが、当時の大神殿は腐ってたんだろう」


「そんな中で、アンタの娘はうまれた。人を魔物に変貌させる宝石は、人の性質を変えても外見は変えない。偶然魔王の傍から逃げ帰ることができた女性が、『見たこともないほどの美人だった』と称した事実を考えれば、アンタの娘が『被害』にあうのは時間の問題だった」


「15年前にいた聖女は、大神殿から出てこず、ずっと『結界』を維持するための施設にいたという。だが実際は違うな。アンタは神殿の権力者の欲望から守るために、施設に閉じ込めたんだ」


「守るために閉じ込めることが良いのか悪いのかは知らん。が、15年前のある日、神託によって大神殿は宝石を手に入れた。おそらくそれは、『願いをかなえる宝石』とか、そんな代物だったんだろう。当然、権力者たちはその宝石をどうするのかを考え……管理が緩んだ一瞬の隙に、アンタはそれを持ち出した」


「持ち出した先は、当然娘のところだ。閉じ込めた後ろめたさが絶対にあったはずで、娘に宝石を与えた。どんな願いでもかなえられる宝石。それを渡して、それまでの自分の罪悪感を清算したかった」


「宝石が『願いをかなえる』のは事実だったんだろう。しかし、それがどのような形で叶うのかは、神の匙加減だ。押し込めていたアンタの願いなのか、聖女の願いだったのか。それはわからないが、おそらく、願ったのは『自由』」


「願いは叶った。だが……祈りをささげるばかりで『文化』を知らない聖女には、人間として原始的な欲望しかない。『食欲』『睡眠欲』『性欲』……最も満たされていないのは性欲で、それをすべて満たすことができる『自由』である、『男性を魅了する力』を得てしまった」


「力を得たばかりの聖女にその力をコントロールすることは叶わず、発動は不十分だったため、『実際に目にした』アンタは魅了されていない。で、結界を構築する施設から、魔王となった聖女は逃げた。モンスターになれば基礎的な身体能力が上がる。普通の人間を閉じ込める枷は全て意味をなさない」


「結界の消失と魔王の侵略が同時期だったのは、聖女と魔王が同じ人間だからだ。そうして……当時の大神殿があった『ワイズリア王国』の『首都オメガヌス』は陥落した」


「権力者が逃げ惑う中……アンタは恐れた。宝石を得てからどの程度の時間で魔王になったのかは俺にも推測できないが……『ほかの人間がその様子を見る』時間はあったんだろう。自分の娘が魔王になったと気が付いたものがいる可能性があったし、何なら、実際に脅された可能性もある」


「全員殺したんだろ。あらかじめ共有されていた可能性もあるし、結界の施設にかかわれる奴を、アンタは全員殺したんだ。あの都市に行ったからわかるが、『権力者御用達』の隠し通路がいくつもあった。アンタの派閥だけが逃げられたのがずっと不可解だったよ」


「で……アンタは研究を開始した。魔王になった娘を救うため、体内から宝石を抜き取るための研究を。そのためにどれほどのものを犠牲にしたんだろうな。ありとあらゆる国家が『被害』を受ける中で、宗教国家は『非常時』としての対応がどれもこれも遅れていたが、それはアンタが研究のために、ありとあらゆるリソースを使っていたからだ」


「魔道具をかき集め、金貨をかき集め、それでも全く進まない研究。それを15年続けて、宗教国家はずっと疲弊していった。当然だ。大神殿の権力者の中で、まともな権力を持ってたのはアンタくらいだ。ほかの奴にはまとめられず、アンタのいうことを聞くしかない。アンタは執念から、技術の完成に執着し続けた」


「研究を開始してから15年。ランジェアたちが魔王を倒し、アンタの研究は意義がなくなった。集めた金貨も、投入したリソースも、全て無に帰した。魔王が討伐されてから、血統国家や冒険者は調子に乗っていたが、宗教国家の動きは鈍いもんだ。当然だよ。『アンタの命令で、すべてのリソースを使い果たした』んだから」


「大神殿がラスター・レポートに抱える借金は金貨100億枚。返せるわけもない借金をどうするのか、そして……自分の娘を殺した勇者にどうやって復讐するかを考えていた。そんなある日、俺がパストルの体から、『体に侵食した宝石を抜き出した』ことを知って、ブチ切れた」


「自分の娘を救える技術をずっと隠していた人間。アンタは俺を許せず、指名手配にして、報酬を限度額無制限にした」


「アンタは、『自分の娘が魔王になったこと』が知られるのも嫌がった。どんな報復があるかわからない。だが、世間一般では『聖女が宝石で魔王になった』なんて知らないわけだから、真実を隠しつつ、俺が『宝石を体から抜き取る技術』を隠しているだけで、絶対の悪になんてできない」


「だから、アンタは屋敷の傍にあるアンテナと、俺がゴーレムマスターであることに目をつけて、『ゴーレムを暴れさせること』で、俺を大悪人に仕立て上げることにした。すべての宗教国家は立て直しの途中だったんだ。襲えば必ず被害が大きくなる」


「そうして大きくなる被害を全部俺のせいにして、大悪人に仕立て上げて、俺を殺したかった。娘を救えた可能性を、『もしもの未来』を、全て俺が踏みにじったと思ったから」



 ホーラスは、壇上に登って、シルビオを見下ろす。



「何か、異論はあるか? 反論はあるか?」


 次の瞬間、シルビオの口を覆っていた布が消えた。


「……貴様は、貴様はやはり大悪人だ! 全て知っていたのか! 全て知っていて、娘を救う技術を隠していたのか!」

「第八隊の隊長、オルヴァーが来た時、伝言を頼んだんだがな。『俺にはどうしようもなかった』と。聞かなかったのか?」

「何がどうしようもなかっただ! 貴様はパストルから、宝石を抜き取ったのだろう! なら、娘から宝石を抜き取ることも可能だったはずだ!」

「男性魅了の力は絶対だ。俺が魔王の体に触れて宝石を抜き取る前に、魅了されて終わりだろ」

「なら、誰かにそれを教えればいいだろう! なぜそうしない!」

「俺以外にできないからだ」

「ふざけるな! 教えろ! 貴様は何を隠している!」


 シルビオは喚く。

 そんな彼に、ホーラスは静かに言った。


「普通の人間に、体内の宝石を操作する力はない。魔力は俺たちのイメージに合わせて動いてくれるだけで、俺たちがつかんで動かしてるわけじゃないからだ。確固とした『形』を作った場合、それを外部から受け付けない」

「ふざけるな! 何だその理論は!」

「研究の過程で心当たりがあるはずだぞ」

「なっ、あっ、ぐううっ!」

「魔力に直接干渉できるのはモンスターだけだ」

「……な、なら、お前は……」

「そう」


 ホーラスは頷いた。


「俺は12年前に一度死んで、体を侵食し、再び活動させる『復活アイテム』で蘇った、モンスターなんだよ」

作品を読んで面白いと思った方、もっと多くの人に読んでほしいと思った方は、

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……皆さんは、この作品の54話のサブタイトル。初めて見たときどう思いましたか?

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