第73話 レスバトル。からの暴動。そして……
壮大なお出迎え。と言っていいだろう。
シーナチカ大神殿の中で最も大きな広間に通されたホーラスとラスター・レポートを待っていたのは、精鋭を集めた騎士団の構成員と、優秀な治療師や高位の神官だ。
壇上の最も目立つ場所にはシルビオが立ち、ホーラスが入ってきたのを見て、もともと憤怒に染まる顔が赤くなる。
「よくここまで来たものだ。大悪人ホーラス!」
初手から大悪人呼びだ。
彼にあるのは……いったい何なのだろう。
「大悪人ね。俺がいったい、どんな悪いことをしたんだ?」
「とぼけるな! 宗教国家を襲うゴーレムたち。アレを操作しているのは貴様だろう!」
「どこに証拠があるんだ?」
「あれほど大量のゴーレムを同時に操作できるのは、屋敷に巨大なアンテナを持ち、魔王を倒せるほどに人間を鍛えられるお前しか考えられん! 状況証拠はすべてそろっているのだ!」
「バルゼイルの声明を聞いてないのか? アンテナでは操作できないゴーレムばかり動かしてたのに、よく言えたもんだ」
「お前ならアンテナを改造し、金属製以外のゴーレムを動かすことも可能なはず。言い逃れはできんぞ!」
「そうか。暴れてるゴーレムの近くに操縦者が実際にいて、アンタの部下だったという話もあるが?」
「それは偶然、ゴーレムの操作権を奪えたタイミングで発見されたというだけの話。我々が救ったのだ。貴様は襲ったのだ! 話をすり替えるなよ!」
憤怒の表情のままのシルビオ。
それに対し、ホーラスは涼しい顔だ。
「あんたが言う『ゴーレムの操作を奪ったやつ』は、誰もかれもが神官の格好をしてたらしい。ここには高位の神官がたくさんいるが……俺が新しいゴーレムをここで出したとして、操作権を奪えるかな?」
「フンッ! やはりゴーレムを暴れさせるか。この大悪人め! 今までもゴーレムを暴れさせていたという訳か!」
誰が聞いても『支離滅裂』と思うだろうが、シルビオにとってはどうでもいいらしい。
「世界を崩壊させる大悪人め。貴様が借金を利用して世界を牛耳る方針を定め、勇者たちを利用し、それが通用しなくなってゴーレムを暴走させる方針に切り替えたのは明白なのだ!」
シルビオは罵るが、ホーラスは溜息を我慢するだけ。
ちなみに、シルビオは『借金を取り立てる方針が通用しなくなった』と言っているが、そもそも現段階で莫大な財力を持つ勇者コミュニティは『利益』を求めていないので、利子をつけて金を返せと『強く催促したことはない』のだ。
もちろん、莫大な借金があるということそのものが『気持ち悪い』のは事実であり、それによって不安や不信感が蔓延するのはわかっている。
とはいえ、『強く催促しない』ことを、『方針が通用しなくなる』と言われても困るのだ。
なんせ……ホーラスは勇者コミュニティが金貸しをしていると最初は知らなかったくらいである。
「貴様の首を斬り落とし、バカげた方針に巻き込まれた勇者たちを救う。これによって、世界は真の意味で救われるのだ!」
「勇者を救う。ね……俺を殺した後どうするつもりなんだ?」
「勇者の心労は想像に絶する。我々が用意した屋敷で歓待し――」
「地下に運び込んだ爆薬でまとめて吹き飛ばすと?」
「そうだ! ……えっ?」
会場にどよめきが起こった。
そして……驚いているのはランジェアたちも同様だ。
「ど、どういうことですか?」
「要するに、シルビオが殺したいのは俺だけじゃない。勇者コミュニティも全員殺したいのさ」
「……き、貴様。まさか……」
「そうだ」
ホーラスは表情を変えずに言葉を続ける。
「俺は、15年前の真実を知っている」
「~~~~~~~っ! おい、騎士団! 奴を殺せ! あの口を裂け! 首を斬り落とせえええっ!」
シルビオは叫んだ。
それを聞いて、騎士たち大部分が戸惑っているが、十数人ほど、命令とともに前に出てきた。
「忠誠心の高い奴らだ。この空気で突っ込んでくるのか」
「師匠、ここは――」
「いや、いいよ。戦うまでもない奴らだ」
ホーラスは威圧を開放する。
しかし、灰色に染まっていない、透明なモノ。
というより……どこか『強い感情のない』今のホーラスに、『強い威圧』は放てないのだろう。
しかしそれでも、そんじょそこらの連中を押しつぶすのはたやすい。
視界がブレるほどの大気が急激に威圧で動かされて、突っ込んできた騎士たちを押しつぶす。
「ぐっ、おおっ……」
「なっ、これは……」
立ち上がれない騎士たちだが、おそらくこのような経験はない。
「見ろ! アイツは神殿に歯向かう邪教徒なのだ!」
「邪教徒? まあ、お前らが崇めてる『五大神』なんてクソだなぁとは思ってるけどさ」
「奴はこの世界から排除すべき人間なのだ! 殺せ。殺せ! 早く殺せええええっ!」
シルビオは唾を飛ばしてわめく。
「……あんまり喚くなよ。正義なんだろ? 正しいんだろ? だったら普通に構えてればいいさ。正しいと思うことができれば人は動ける。今のお前を見て、誰が『正義』を感じられる?」
「うるさい! 貴様に正義を語る資格があるか! 貴様に正義を定義する資格があるかああああっ!」
「気にしないな。俺は無責任だから」
「ならその口を閉じろ。その首を差し出せ! その口を開くなっ!」
シルビオは杖を掲げる。
そこから雷撃が発生してホーラスに向かうが、半透明な板が突如出現して、雷撃は止まった。
「貴様らも何をしている! 奴は悪だ! 我々は正義だ! 神を信じるのならば、正義に従え!」
騎士たちにも雷撃を放つ。
それに怯えた騎士たちは、どこか納得のいかない顔をしながらも、ホーラスに剣を向けた。
「ちっ、く、クソがああっ!」
何人かはホーラスに向かって走ってくる。
だが、その顔はどうしようもなく、『何を成すべきか』がわかっていないものだ。
「情けない」
ホーラスは溜息を隠すことなく吐き出すと、そのまま接近して騎士を蹴り飛ばした。
「がっ!」
蹴り飛ばされた騎士はそのまま吹き飛んで、何人かの騎士を巻き込んで倒れた。
「真実を知っていると言った俺に驚いてるやつはいなさそうだな。どうやら、何を隠してるのか。俺が何に気が付いてるのか。予測できてるやつはいないらしい」
突っ込んでくる他の騎士を殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりしながら、ホーラスの口は止まらない。
「その穢れた口を閉じろ大悪人! 貴様は死ぬべきなのだ! 死ね。死ねええええええっ!」
再び雷撃が放たれる。
だが、ホーラスには通用しない。
再び半透明の板が出現し、雷撃が防がれる。
「はぁ、どうやらこれ以上、話が進むこともないか」
ホーラスはシルビオをまっすぐに見る。
その眼は……明らかに、『今までと違う目』だ。
「全員、耳を閉じろおおおおおおおおおおおっ!」
絶叫するシルビオ。
だが、それを聞く人間はいない。
ホーラスの口が何を語るのか、恐ろしくも、聞かないという選択が取れない。
それが人間というものだ。怖いもの見たさで、自分の手に負えない領域に足を突っ込む。
そういうもの。
だからこそ。だからこそだ。
……この場にいるすべての人間は、知ることになる。
「15年前、大神殿が神から与えられた宝石に侵食されたお前の娘が、魔王になった。これは紛れもない事実なんだから」
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