第68話 『横暴なる宗教』
ホーラスは何を言われても気にしない。とまでは言わないが、普通よりもスルースキルが高いことは事実だ。
罵詈雑言を浴びせられようが、被害を全て補填しろと言われようが、どれほど『悪者』にされたとしても、彼の意見は変わらない。
そもそも『主義の善悪に興味がない』ため、相手の言い分の善悪を気にしない。
そんなホーラスだが、別に感情がないわけではない。
「……バカなことをしやがって」
宗教国家にとっての頂点である『シーナチカ大神殿』は、宗教国家の中でトップを誇る『ダイパール王国』の首都に建設されている。
もちろん、王国であるからには『王』もいるのだが、宗教国家として『シーナチカ教会』との関係によって『王権を認められている』状態であり、実質的に支配しているのは大神殿だ。
そこに行くまでには、多数の国家を通る必要がある。
「宗教国家の中で、師匠を最初に擁護した国、『アフタレス王国』……確か、我々への借金もなく、余裕のある産業が構築されていたはず」
そんな多数の国家の一つに訪れ、首都にたどり着いた七人を待っていたのは、『一つの現実』だ。
「でも、神聖騎士団が何人も来ていますよ? この国で一体何があったんですか?」
「ウルリカたちに借金はなかったのだ~。だけど、大神殿には少額だけど借金があって、ゴーレムによって産業が破壊されたことで返せなくなったのだ~」
「それで財政破綻ってことか。自分で町を破壊して借金返済を強要するなんて、ばかげた話だぜ」
「どんな国も、武器を揃えればダンジョンに潜って金貨を得られる。だけど、その武器を生み出す施設を破壊されたら、金貨を得られないわ」
「ゴーレムで施設を破壊するといっても、武器が残っていればダンジョンに潜っていくらでも再生できる。だから、武器を作るシステムを徹底的に破壊した」
「それでまともな量の金貨を得られなくなって、ついに借りなければならない事態になって、そこで大神殿が介入してきたのだ~」
賢いとかそれ以前に、倫理観があまりにも飛びすぎている。
「財政破綻ってするとどうなるんだ? オレ知らねえんだけど」
「財政破綻申請が通された時点で、その国家は、『借金を返すための体系』を作り上げていくことになります。大神殿からいくらでも政治に介入してくるでしょうね」
「……でも、その暴れたゴーレムって、大神殿が裏で動かしてるんですよね。理不尽にもほどがありますよ」
「当たり前なのだ~。ただ、ゴーレム操作をしているのがバレた人たちも、『ゴーレムを動かしていた』のではなく、『ゴーレムの操作権をたったいま奪うことができた』と主張しているのだ~」
「そして、それを否定することも難しいと。賢いですね。とても愚かですが」
「そんなことを考える脳みそを働かせている暇があったら、新しい技術の開発でもすればいいものを……」
トップの暴走であることは間違いない。
ただ、下も下で、『それに対して何も疑問に思わない者はいる』のだ。
今回、この首都を我が物顔で歩いているのも、ホーラスがゴロツキと称した『第四隊より後の騎士団』なのだろう。
「お前らはここで待ってろ。ちょっと、俺一人で片付けてくる」
「うーん……わかったのだ~」
運転席から六人に指示したホーラスは、移動拠点から出て首都に向かって歩いていく。
もともと、この『鉄の箱』は首都の外にいた時点で目立っていたが、そこからホーラスが出てきたら、話は別だ。
嬉々として、騎士たちがホーラスに近づいて、取り囲んでいく。
「世界を崩壊に招く大悪人。よくここに来たな! 武器工房を破壊し、国家の維持ができなくなったところに来て肴にするつもりだったのだろうが、我々、神聖騎士団第七隊が来た以上、貴様の思い通りにはならんぞ!」
「……オルヴァーの精神をボッコボコにして何か変わるかと思ったが、どうやら上下関係の『報連相』はできても、同格相手の『共有』はできてないらしい……で、お前が俺の首を斬り落とすって?」
「当然だ! 貴様には無限の賞金がかけられている。その首を斬り落とし、俺が英雄になる!」
「あっそ……一応聞いておくけど、お前たちは知ってるのか? 大神殿のトップの暴走で、裏で抱えてるやつらがゴーレムを動かして襲ってること」
「何を言っている。『そんなことはどうでもいい』のだよ」
どうでもいいと言ったとき、おそらく隊長であろうこの男の後ろから、伝令らしい人間が近づいた。
「隊長。金になりそうな女は全員檻に入れました。いつでも運べます」
「そうかそうか。今回の『狩り』の成果は上々か」
たった一つの伝令とその返し方だけでわかる、下衆さ。
それを見ても、ホーラスの表情は動かない。
「金になりそうな女……狩り……借金を盾に横暴なもんだ」
「我々はシーナチカ大神殿と関係を築く国家に対し、その平和を維持する義務がある。が、平和の維持はタダで出来るわけではない。金を借りる側は、貸す側に対し義理を通すべきだ。そして……その『元凶』となった貴様に、そんな口を利く権利はない!」
剣を抜く。
「私は第七隊隊長、ヒューベル! 剣の錆にしてやるぞ! 大悪人ホーラス!」
「……平和を維持する義務か。それを主張するのは構わんよ。ただ……お前一つ勘違いしてないか?」
「何がだ」
「俺の強さだよ」
「はっ! この人数で囲めば勝てるに決まっている!」
「なるほど、質ではなく数で決まると思っているタイプか。一般人しか相手にしないからそうなる」
ホーラスは手に『はーっ』と息を吐いて、拳を握る。
「馬鹿は殴らんとわからんよな。神聖騎士団はエリートらしいが、痛みを知らない騎士団だと聞いたこともある。とりあえず……愚かさから自覚してもらおうか」
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