第69話 愚かな騎士を鉄拳でぶちのめす。
二十人の騎士がホーラスを取り囲む。
リーダーのヒューベルが剣を構えてホーラスに斬りかかった。
動きが遅いか速いかはともかくとして、躊躇も迷いもない。
偽りの正義を振りかざし、冤罪を吹っかけた相手に対する剣の振り方として、どうなのだろう。
「弱い者いじめ慣れしてるな。流石と言っておくよ」
振り下ろされた剣を回避して、そのままヒューベルの顔面に鉄拳を叩き込んだ。
「ぶえっ!」
そのまま吹っ飛んで、地面をごろごろと転がっている。
「い、いでええええええっ! ぐ、くそ、なんだこの威力は……」
そう言うヒューベルの顔は、まったく傷が残っていない。
「めっちゃ痛いだろ。ぶん殴って相手の顔に損傷を与えると同時に、『痛み』だけそのままで『傷』を治すっていうものだ」
「ぎいいっ! く、くそおおっ!」
「痛みは残るのに傷がなく『治らない』……言い換えれば、『これから先ずっと、痛みが続く』っていう拷問みたいな高等テクニックだ。凄いだろ」
「……こ、これがずっと……」
「そう、正面からぶん殴られた痛みがずっと続く。だが、どんな鑑定魔法を使おうが『お前の顔は正常』で、『回復魔法は一切効かない』んだ。お前の脳と体の方の『ズレ』が大きすぎて鎮痛剤も通用しない。凄いだろ」
「ふ、ふざけんな! この大悪人が、罪を重ねて、ロクな死に方ができると思うなよ!」
「あっそ、まあ、どこに訴えたところで、殴った物的証拠は出ないけどな」
「はっ! 勘違いしているようだな。俺が殴られたと言ったら、殴られてなくっても殴ったことになるんだよ!」
「そうかい……」
「お前たち! 何をぼさっとしている! さっさとこの大悪人を殺せ!」
命令するヒューベルだが、騎士たちの動きは鈍い。
「な、なにをしている! さっさと――」
「そうだな。心配しなくても順番にぶちのめしてやるから安心しろよ」
そう言って、ホーラスは近くにいた騎士の急接近して、その胸に鉄拳を叩き込んだ。
騎士なので鎧を身に着けているが、その上から叩き込む。
「がっ!」
殴り飛ばされた騎士もゴロゴロと転がる。
鎧の胸の部分は……バラバラになっており、その下の服が見えていた。
激痛が残っているようで、胸をおさえて悶絶している。
「なっ……」
「そんな安い鎧じゃ防げんよ」
それを聞いた騎士たちは慌てたように盾を構えている。
だが、ホーラスはその盾の上から鉄拳を叩き込んだ。
どういう物理現象なのか、盾が一撃でバラバラになり……。
「ぎゃああああああ! お、俺の腕がああああああっ!」
身体的な外傷は一切ない。
ただ……鎧の腕の部分にヒビが深く入っており、その腕をおさえて痛みをこらえている。
「骨がバラバラになったような感覚だっただろ」
「ぐっ、づぅっ」
「これから先ずっとそのままだからな」
「ひっ!」
痛みを超えるほどの寒気を覚えたのか、騎士はホーラスの顔を見上げる。
そのホーラスの眼は、極寒すら暖かく感じるほど冷めきっており……。
「わかりやすく傷が残ってると、後で他所がうるさくなるだろ? だから身につけた技術なんだよ」
腕に一発入れて興味がなくなったのか、ホーラスは『次』を見る。
「や、やめろ! あ、謝るから! もう、二度とこんなことは……」
見られた騎士は懇願するが……、
「勘違いするな」
「はっ?」
「俺はお前らの主義の善悪なんて気にしない。金を貸す時にどんなルールを作ろうが知ったことか。指名手配されたこともどうでもいい」
「な、ならば何故……」
「俺の不気味さ。恐ろしさ。それをわからん奴が、正義を盾にウロウロしてんのは邪魔だ。それをきっちり報告してもらう必要がある。要するに……お前たちには『見せしめ』になってもらう」
「ふ、ふざけるな!」
「強い奴は安全保障を盾にふざけてもいい。それを正しいとしてるのはお前たちだ」
そもそも論。
シーナチカ教会は宗教であり、『教義』がある。
細分化すれば様々だが、根っこは四つ。
一つ目に、人のものを奪ってはいけません。
二つ目に、人の領分を侵してはいけません。
三つ目に、暴力ではない話し合いで解決しましょう。
四つ目に、民の安全を保障することを放棄してはならない。
倫理的にはとても正しい。
しかし、一番問題なのは、四つ目の悪用のしやすさだ。
『安全を保障する』という大義名分で、様々な捜査権や没収権を行使するのが常々。
なお、モンスターがいる世の中なので、話し合いで解決せよといっても武力は必要なので、武力を放棄することはないし、それは正しい。
しかし、彼らは安全保障を盾に『なんでもする』のだ。
「『獣の弱肉強食』と、『人間が目指すべき弱肉強食』は異なる。お前たちが掲げてるのは獣の弱肉強食だ。獣への躾が暴力なのは、昔も今も変わらんよ」
拳をバキバキとならす。
「お前たちの教えに合わせて、『これ以上、理不尽におびえる者を出さない』ため、見せしめにお前たちをボコボコにする。それだけのことだ」
ホーラスの表情は極寒を超えるほどの冷たさを纏ったまま。
……それからしばらく、開けた地で、悲鳴がずっと続いていた。




