第67話 大神殿への道中
「おおっ、やっぱり師匠が乗ってると速いですね!」
大型の鉄の箱が、巨大なタイヤ四つで爆走する。
多少、荒れている地面ならばタイヤに備え付けられた魔法によって『地面を変形させる』ため、中が揺れることはない。
言い換えれば『どこを通ったのか一発でわかる』ということだが、特にそれを気にしないのか、とにかく鉄の箱が爆走している。
「私、この移動拠点の操縦にどれほど時間をつぎ込んだかわからないけど、久しぶりなのにこんな早く……自信なくすわほんと」
「ティアリス。師匠相手にそんなこと考えても無駄だと思うぜ?」
「そうなのだ~。師匠が頭がおかしいから、普通のティアリスだと比べるのは無理なのだ~」
「フォローするふりをしてどっちも貶してない?」
「そんなことないのだ~」
窓の外に流れる景色はかなり開けた平原といった様子である。
しかし、それが前から後ろに流れていく速度は相当なもので、しかも中が一切揺れないというなかなか非常識なモノ。
「揺れがほとんどありませんね。トランプタワーが崩れません」
「人が悩んでる間に五段タワー。余裕ねランジェア」
中が広く、そこを六人で使っているためゆとりがある。
乗り物の中ではあるが実質的にリビングのような内装なので、テーブルもおかれている。
で、そのテーブルでトランプを使って五段タワーを作っているランジェアを見て、ティアリスは非難の混じった視線を向ける。
「正直暇です。大神殿に向かうとはいえ、別にこの拠点の中でやらなければならないことはありません。普段から悪いことを考えているエリーがシンディの膝枕で幸せそうに寝ているくらいですよ?」
「それはそうだけどね……」
「ZZZ……」
ティアリスはシンディの太ももで幸せそうに寝ているエリーを見る。
むっちりした体つきを持つロリ巨乳であるシンディの体が大好きなのか、エリーはよくシンディに絡む。
同じロリであるウルリカに対しては、若干ウルリカ側が辟易としている部分があるので、それを感じ取っているので積極的に絡んだりしない。
夜になると抱き着いて離れない――エリー曰く、抱きしめやすい体をしているらしい――のだが、昼間は基本的にシンディが相手だ。
「道中で新聞を集めていますが、まあなんというか……師匠に対する悪感情が感じられますね」
ふと、ランジェアが集めた新聞をチラ見しつつ言った。
「そうね。なんとなく、大神殿が師匠に対して悪評を広めたいと考えていることは、多くの人間がわかってるみたい。大神殿が特定の人間を攻撃するということに前例が多いという現状もある」
「ただ、『師匠のことを悪人だとは思わないけど、それに巻き込まないでくれ』っていう意見が多かったな」
爆走する鉄の箱を手段としているため、もうすでに、七人は多くの町や村を通っている。
その中で新聞を集めたりしているわけだが、ホーラスに対する悪感情は強い。
現在になると、あの『手配書』があるからと言って、ホーラスが悪人なのだと言い張るものは少ない。
ただ、現在大神殿は『ゴーレムを使ったホーラスのネガティブキャンペーン』をしているわけで、その影響が出ている。
実際に畑や施設が破壊されることはもちろん、これによって魔道具やゴーレムに対して『不信感』を持つものは増えている。
そしてそういう現状になった理由が、『ホーラスが大神殿の嫌がることをしたから』であることは間違いない。
現在、襲われた町や村というのは、そうした大神殿の『計画の犠牲』なのだ。
だからと言って、被害を受けた町や村は彼らは大神殿から離れるということもできない。
遠くの方で何が起こっていても気にしないから、『巻き込むな』と考えている者が多いし、ホーラスに主張してくるものも多かった。
通りかかった町や村で修復可能なものはホーラスが修復したが、主張されている間、ホーラスの表情は全く動かなかった。
「……それを言われている間の師匠の顔。見ましたか?」
「みたのだ~。無表情のままずっと動いてなかったのだ~」
「どういうことなんですか?」
「答えは簡単よ。十年間、王都でワンオペしていた師匠は、一日に何百件も来るクレーム対応をこなすために、『相手の主張が自分の精神に影響を及ぼさないようにする術』を身につけたということ」
「そんなことが可能なのですか?」
「そもそも自分の骨をゴーレム化させて強化するような人よ? 精神的な部分だっていじれる可能性は十分にあるし、相手の意見に一々揺らいでいたら、一日に何百件なんて、時間が足りないわ」
「それは……そうですね」
「ま、王都に愛想つかすのも分かるってもんだぜ」
ホーラスは相手がどんな主張をしてこようと、それに対して怒ったりはしない。
そもそも論として『相手の主張の善悪を気にしない』という思想を持つが、ホーラスも人間であり、相手の言葉に対して全く感情が動かないということはあり得ない。
彼を取り巻く環境の要因もあって最近はため息も多いので、『処理しきれない部分』はあるのだろう。
だが、『単なる主張』……それも、『主張者が特にコストを払わず、ホーラスに一方的に払わせるような要求』をされた場合、ホーラスの表情は一切動かない。
「十年……か。長いわね」
「ええ、長すぎます。ゆっくりできるのならそうするべきでしょうが……どうやら、世界がそうさせようとはしないようですね。まあ、『一網打尽』が基本戦術で、『時が来るまで待つ』という方針なので
師匠側にも原因はありますが」
「なんというか……不器用ね。全員が」
ティアリスの言葉に全員がうなずいた。
……そんな会話がありつつも、鉄の箱は、大神殿へ向かっている。
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