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第54話 死ぬほど嫌いだ。

「ふーむ……ガイ・ギガントのドロップ品。やっと組み込めたが、これはすごいな。魔力安定性能が想定よりも高い」


 ホーラスの『全力装備』とも言える兵器、『機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』。


 圧倒的な頑丈さ、膂力、機動力、攻撃力を有するものだが、ガイ・ギガント討伐時、その完成率は本人談で8%である。


 組み込んで、そして『すごい』と言っている以上、その完成率は上がっていると思われるが、どうやらその中でも、『魔力の安定化』の性能が高くなっている様子。


「俺がブレスを空気に上書きする攻撃をしたら、すぐさま『安定力を上げたブレス』を使ってきたが……このインゴットを落とすことを考えると納得だな」


 ホーラスは今、『戦闘中』だ。


 キンセカイ大鉱脈深層。エリア98にて。


 鋼鉄の皮で全身を覆った牛が何十頭も、ホーラスに向かって突撃する。


 しかし、右手に持った片手剣で振るうだけで、いともたやすくモンスターの体は切断され、金貨とインゴットを落として消えていく。


 金貨とインゴットは、左手の前に出現している『渦』に吸い込まれていった。


「普通に装備しているだけでかなりの集中力をつかっていたが、こうして適当にモンスターを倒すだけならずっと着ていても問題……あるな。流石に蒸れる」


 空気の通り穴は皆無ではないがかなり狭い。


 しかも全身に装備するタイプなので、ずっと着てると熱気と湿気がこもる。


「安定……か。さて、そろそろ終わりだ」


 左手でフルフェイスメットの左耳あたりに触れると、首から上の部分がなくなって、顔が晒される。

 ホーラスは目を閉じており……それを開くと同時に、威圧を解放した。


 それだけで、周囲にいた牛は全て、上から押しつぶされたかのように止まる。


「……帰るか」


 先ほどまで連続でモンスターを倒し続けていたのに、もう一体も気にしていない様子。


 目標にしていた個数までインゴットが集まったためなのか、それとも時間的な制約か。


 ホーラスはそこからはモンスターを全て威圧で道を空けさせながら、戻っていった。


 ★


 キンセカイ大鉱脈の『上層』に戻ってくる頃には、ホーラスは着ていた装甲をアイテムボックスに引っ込めて、その代わりに大きめの革袋を背負っている。


 時折出てくるモンスターに関しては、実際のところ、彼にとって『上層』は浅すぎる。

 金稼ぎとしてもインゴット集めとしても『目的に合わない』ことは事実だが、銃弾一発で終わるためか、『小遣い稼ぎ』程度の感覚で倒している。


 そんな形で上層に戻った時だった。


「お、やっと帰ってきたか。勇者の師匠さんよ。ちょっと話そうぜ」


 ニヤニヤした笑みを浮かべた冒険者たちが、十人。


 通路をふさぐようにホーラスの前に立ちふさがった。


「……何の用だ?」

「なーに、ちょっと不満に思ってることがあるんじゃねえかって思ってよ」

「不満?」

「そうだ。この国の、大鉱脈の独占をどう思う? 俺たち冒険者にとって不平等だと思わねえか? 実際に鉱石を取ってくるのは俺たち冒険者だってのに、自分たちで使えるインゴットはとても少ねえ。これは明らかに不平等だろ」

「……」


 ホーラスはとりあえず、こう返した。


「今の俺は冒険者ではないし、俺は手に入れたインゴットを全部自分で使える許可をもらってるから、不満はないけど」


 遠回しに『言う相手を間違えてないか?』と言ってみると、先ほどから話しているリーダーらしい男は、眉間に皺がピクッとできたが、すぐに表情を戻した。


「だが、昔は冒険者だったんだろ? それなら、インゴットを独占するってことがどれほど不平等なのかわかるはずだぜ。昔からゴーレムマスターだったんなら、インゴットの独占に対して不満はあったはずだ」

「インゴットが『大量に欲しい』のならここが良いけど、昔は数を優先してなかったからな。活動範囲が広かったから、ダンジョンを見つけて、そのラスボスのドロップ品を集めたこともある。ここのインゴットは癖が強いものも多いから、他のほうがいいこともあるぞ」


 言いながら、ホーラスはなんとなく、『彼ら』の主張がわかってきた。


 まず前提として、彼らはセデル連合に新しく参加した冒険者だろう。

 しかし、やり方がこれまでと全く違う故に、活躍できない。だからこそ、ホーラスからインゴットを得たいのだ。


 そして、ホーラスがほかの冒険者と同じように、かなりのインゴットを国に売ることを義務付けられていると考えていた。


 そこで、『不満』というキーワードで理論を展開しようとしたが、特に今のホーラスに不満はないので、『冒険者時代』を利用し、『インゴットを独占する奴がいたら腹立つだろ』という展開にしている。


 『勇者の師匠が不満を漏らす』となれば、この国もそれに従わざるを得ない部分があるのは事実。


 そのため、彼らは『ホーラスから大鉱脈の独占への不満を出させる』ことで、ダンジョンで手に入れたインゴットを冒険者のものにする理論に展開していきたい。


 ただ……そもそも論を言えば、『違う』のだ。

 ホーラスと彼らが『同じレベルの不満』を持つことなどない。


「な、なら……」

「あー。お前らの言いたいことはわかってるからいいよ。どうせ、連合で大して活躍できそうにないから、俺に接触してインゴットを貰って、それで評価を上げたいわけだ」

「そ、それの何が悪いってんだ! お前だって冒険者時代、誰の手も借りずに活動してたわけじゃねえだろうが! 困っている後輩たちに手助けしてやろうって気持ちはねえのかよ!」


 『ホーラス自身の不満』という点で話を進められそうにないと判断したのか、『困っている冒険者の後輩たちへの手助け』という理屈にしたようだ。


 明らかな感情論であり、道義に訴えるようなもの。


 ただ、ホーラスはディアマンテ王国の王城という、貴族たちが集まった『倫理観のない戦場』にいた人間である。


 感情論や道義を持ち出す連中に対して、とある『価値観』を持つのだ。


「理屈が通じないからって感情論か? 道義を持ち出すのか? 無理を通そうとしてそういうのを持ち出す連中のほとんどは、『バカ』か『詐欺師』か、『バカな詐欺師』のどれかだろ」

「~~っ!」


 ここで彼らの話に乗った場合、要らないインゴットを彼らに与えることになるが、それが『困っている後輩』に行き渡ることなどないだろう。


 あれこれ理由をつけてインゴットをかき集めて、『竜石国出身ではない商人』に売りつけるのが目に見えている。


「ふざけるな! 誰もがてめえみたいに強いわけじゃねえんだよ! 俺たち底辺の気持ちがわかったことがあんのか!」


 ……ホーラスは少し、観察力を上げた。


 その結果見えてきたのは、ここに集まっている十人は、おそらく平均年齢は十八歳で、全員の年齢はそこからプラマイ1であること。


 そして、少なくとも冒険者としての経験年数は三年以上はあるだろうが、全員がEランク、『初級』ランクであるということだ。


「強くない? ずっと底辺? ……だから、夢を追わないギルドに、商人に媚びを売るだけの連合で満足してるのか」

「うるせえ。お前に何が――」

「齢十八の冒険者がリアリスト気取りか? 鼻で笑われて当然だろ」


 地に足がついていないような職業はある。

 道があまり見えない、先がどうなっているのかよくわからない職業はある。


 そういう職業は、歩み方の定石のようなものはできていたとしても、いくらでも例外が降って湧くものだ。


 冒険者というのはそんな職業の一つだが、道が見えていないからこそ、可能性があるし、夢がある。


 決して自殺志願者ではない。ただ、命を掛け金にしてモンスターを倒すギャンブラーなのだ。


「……う、うるせえ!」


 吠えて、拳を振りかぶった男だが、ホーラスが軽く威圧すると、それだけで地面に崩れていった。


「……う、おおっ……」

「はぁ……」


 沈んでいる男をしり目に、ホーラスは歩いて男の横を素通りする。


 威圧したのはほんの一瞬。もうやっていない。


 だが、男は今も震えている。


 ホーラスは最後に彼らの方に一度振り向くと……


「別に主義の善悪は知らんよ? 何が正しいとか悪いとか、好きに言えばいいさ。ただ、俺はお前らみたいな、『夢との向き合い方』が決まってない冒険者が……」


 冷めた目で、言った。


「死ぬほど嫌いだ」


 ……ホーラスはそれ以上、彼らのことを見ずに、ダンジョンの出入り口に向けて歩いていった。

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