第53話【連合SIDE】 『鉄拳制裁』×『金貨1枚』=『X』×『金貨400億枚』 Xを求め……られるかぁ!
おおよそ、『ボッコボコに殴られた』くらいの外傷であれば、ポーション店にいって金貨1枚出せばそっこう完治ができる。
そして、『受けた傷をそのままにしておく』ことは、ハイソサエティな世界だと舐められるし、一度でも舐められたら『終わり』という部分があることも事実。
立場によってはある意味『恐ろしい事』なのだ。
大型の商会というのは貴族とのつながりがある場合も多いため、このような商会が話に絡むと、外傷はそのままにできない。
そういう意味では、『鉄拳制裁』の恐ろしさは『金貨1枚』に相当するということだ。
逆に言えば、『金貨1枚』の恐ろしさは『鉄拳制裁』に相当するということだ。
……なんだか必要な理論を十個くらいすっ飛ばしているような気がしなくもないが、そういうことなのだ。
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「ククク、やはり操りやすくていいですねぇ。馬鹿な冒険者というのは」
短く切りそろえた茶髪と高級スーツといった特徴のアルバロは、セデルやパストルが使っていた執務室で、書類を作っていた。
「僕も馬鹿だと思うけどさー。本当に計画が上手くいくとは思えないけどねー」
「ソラ。あなたも私への態度を改めなさい。優秀なのでおいていますが、何かあれば叩き出しますよ」
執務室に置かれたソファでは、一人の少年が寝転がっている。
高級スーツを着ているのはアルバロと変わりないが、長い青髪の下は童顔かつ中性的なもの。
よく見れば喉仏がはっきり見えるので男なのは間違いないが、声も高めで、声変わりしていない少年といったものだ。
「あははははっ! 僕が金を引っ張ってきたから、それを使って商人にゴマをすれたのに、僕を追い出して、他のところに行ったら困るでしょー」
「……大金を用意したことは感謝していますよ。ただ、金だけですべてが決まるわけではない」
「ふーん……まあそれは事実か。守り切れない大金ほど無駄なものはないし」
「そう、その金でどんなものを用意するか。それが重要なのですよ。ただ金をため込んで安心するような貴族どもと同じにしないように」
「僕も、別にここを追い出された後で貴族のところに行こうとは思えないけどなー……ま、いっか」
ソラはふああ、と欠伸しつつ、資料を見ている。
「で、キンセカイ大鉱脈の希少鉱石を獲得する計画。本当に進めるの?」
「当然です。そのために、わざわざトップが追い出されると分かっている連合に取り入ったのですから」
「あー、まあ、セデルやパストルだと力不足なのはわかるけどねー」
アルバロという男は、最初からセデルやパストルが失態で消えるのはわかっていたのだろう。
勇者とその師匠の実力に対し、正確な理解はできずとも、舐めているわけではない。
だからこそ、そことぶつかってしまう計画を立てたセデルやパストルが失脚するのは目に見えていた。
「で、どうするの?」
「闇取引でどうにかできる相手ではない。ならば、こちらは正攻法で行くだけ」
「正攻法?」
「その通り。勇者コミュニティには、絶対に用意できないものがある」
「ほー。どんなの?」
「ズバリ、『高級感』です」
「……?」
「魔王を討伐するその武力と、質の高い装備を整える技術力と、百人という規模を支える輸送力は認めましょう。しかし、質実剛健の中では、技術は育っても文化は育たない」
「なるほど」
「確かに、大鉱脈から出てきた金属は、この国の商人や鍛冶師が優先的に買い取れる権利がある。しかし、その受け取る商人も人間。その欲望を利用してやればいいのです」
要するに。
「……この国の商人に『接待』して、そこから金属や関連商品を貰おうってこと?」
「その通り」
この国の商人が手に入れた金属を手に入れるといっても、簡単なことではない。
この国の商人同士で取引を行って、宝都ラピスではなくとも、他の町で鍛冶師に売るからだ。
そしてできた装備を優先的に買い取る契約を結ぶことも多い。
要するに、この国の商人は希少鉱石と、その金属からできた装備をかなり抱えているのだ。
「追い風。と言える要素があるとすれば、勇者の師匠が大鉱脈に入り、そこで手に入れた要らない鉱石が大量にレアストーン・マーケットに流れていること。中層の希少鉱石なら、価値も下がって手に入れやすくなる」
「でもさ、連合と繋がってる商会は、『深い階層の金属を取ってこい』って言ってくるよね。どうするの?」
「さすがに時間がかかるのはわかるはず。こればかりは、ゆっくり崩すしかない」
「ふーん……意外と堅実」
ソラは退屈そう……ではなかった。
(ま、無理でしょ。『大型商会』と繋がってて、後ろ盾がデカいと勘違いする連合のメンバーも多いだろうし、そうなったら『暴走』する)
ソラが現時点でもわかるアルバロの策の弱点を挙げるならば、現在、『連合』という形になり、これまでの彼のギルドのメンバー以外も抱える状態になったことで、『今までとは違う引き締め方』が必要になったことだ。
アルバロという男は、確かに危機感はある。
勇者とその師匠を相手にしてはいけないという危機感が。
だが、彼の部下……いや、『部下になったばかりの、今まで調子に乗っていた冒険者』は、違うのだ。
(もう一個……本当に、勇者コミュニティには、優れた文化がないのかどうかだね。ていうか、具体的な資金力は知らないけど、『文化ごと買える』んじゃないかな。知らんけど)
ソラは最近、ホーラスがあちこちに営業でいろんなものを持ち込んでいることは知っている。
要するに、『勇者関係者が、あちこちに何かを持ち込む』という前例が既にできているともいえる。
(ふーむ……鉄拳の恐ろしさは金貨1枚。勇者コミュニティレベルになると、どれほどの暴力に匹敵するのやら)
ソラはちらっとアルバロを見たが……彼がそれに気が付いているようには見えない。
(ま、いっか。シドが行動するまで暇だし。適当に見てよっと)
ソラはそんなことを考えながら、資料を読んでいた。
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