第55話 三日天下の気配。
「セデル連合が『アルバロ連合』に名称を変更……はどうでもいいとして、構成メンバーが随分調子に乗ってるな」
ホーラスは新聞を読みながらそうつぶやいた。
「高級感を演出し、それで宝都ラピスにいる商人たちを『酔わせて』、金属を手に入れるという方針を取ろうとしていたのはわかりましたが……」
「ティアリスとラーメルが『遺跡ダンジョン』で見た大昔のアイテムに手を出していますね。とても質が高く、食器や服がとても高級感を演出していますし、それが宮殿の方にも流れています」
エリーとランジェアとしても、現状に対し苦笑するしかない。
「高級路線で接待する作戦も、すぐに効かなくなるだろうな……で、問題は冒険者の方だな」
「はい。あちこちで金属の独占を否定する活動を行なっています。そして、キンセカイ大鉱脈内部でも、大人数で集まって『占拠する』という事態に発展していますね」
「まあ、この手の作戦はすぐに物資が尽きてガス欠になるのがいつものことですが……思ったより継続しています。これはおそらく、アルバロにとって最悪のはずです」
「……ん? なんか、俺とエリーで認識にズレがあるような気がするけど」
何かを占拠したり、デモ活動をしたりといった行動は、基本的に金がかかるのだ。
特にダンジョンの中での占拠はものすごく金がかかる。
ダンジョンの中には『安全地帯』など存在しない。
ダンジョンの仕様なのか、自分から半径十メートル以内にモンスターが『生成される』ということはないのだが、まったく襲われないスポットのようなものは存在しない。
あるとしても、外部から『結界』の魔道具を持ち込む必要があり、当然のように消費魔力量が多いのだが、そもそもセデル連合結成時、規模を大きくすることに専念していたため、『低ランク冒険者』がかなりの数だ。
言い換えれば、『メンバーは多くとも、そこまで魔力量が多いメンバーはいない』ため、結界の魔道具を使うとなれば、大量の金貨が必要になる。
物資を買い込むにしても金貨は必要になるが、この『結界の維持』は占拠において最も金貨を使う。
ここまではほぼ『前提』のようなものだが、そこから先が、ホーラスとエリーで違う気配がある。
ランジェアはそもそもよくわかっていない。
「……今のアルバロ連合はSランクギルドである『パラサイト』が主要となっていますが、金貨の運用方法が普通とは違うのですよ」
「金貨の運用?」
「そうです。少し前提知識が必要ですね」
どう説明したものか。といった雰囲気だが、すぐに例を思いついたようだ。
「ランジェア。仮に、私がランジェアから金貨100枚を借りるとします。そうした場合、ランジェアは私に金貨を100枚渡すと同時に、『ランジェアはエリーに金貨を100枚貸した』という契約書が作られます」
「当然ですね」
「そしてその後で、ランジェアが師匠に金貨100枚の支払いをする必要が出てきて、しかも私に金貨100枚を貸したことで手持ちがない場合、どうすればいいと思いますか?」
「ダンジョンに行きます」
「……」
エリーの顔には『そういう話がしたいんじゃない』と書かれている。
「ランジェアが持っている『契約書』の貸出人を、師匠の名前に変える。これだけでいいのです」
「なるほど、金貨を後で受け取る相手が私から師匠になりますからね」
「この動きが可能ならば、言い換えれば、『金貨100枚を貸している』という契約書は、『金貨100枚と同価値』の動きをします」
「……なるほど」
「要するに、金貨100枚をどこかから手に入れたら、それをもとに、何もないところから金貨100枚のお金を作れるのと同じです」
エリーはここまで説明して、ランジェアの表情を見る。
理解しているのか、していないのか……若干微妙だが、続けることにした。
「……パラサイトというギルドは、お金を集めて債券を発行し、これで取引できる市場を関連する商会の間で作り上げています。少額決済に関しては銀貨などを使うでしょうが、高額決済に関しては債券の方を使うでしょう」
「ふむふむ」
「この金貨を着服したら、どうなると思います?」
「……どうなりますか?」
「まあ確定事項として、信用はなくなりますね。ご愁傷様です」
エリーはそう言って、のんきに紅茶を飲んでいる。




