第44話 ただの管理者に勝てるはずのないレスバトル。
セデルの演説中。
SSランクギルド『全世風靡』のギルドマスター、アイヴァンが止めに来て。
冒険者協会本部役員、パストルが割り込み。
ラスターレポート商人長、エリーが微笑みながら介入する。
立て続け、とはまさにこのことだろう。
一気に自分の『格』ではどうにもならない人間が出てくるというのは、強烈なほど『背筋が凍る』ものだ。
「……はぁ。とりあえず俺からでいいか?」
アイヴァンはセデルを冷めた目で見る。
「セデル。お前を『全世風靡』から追放する」
「えっ……な、なんだと!?」
「それは困りますねぇ。アイヴァンさん。彼が一体何をしたというのです?」
「……俺が作った『全世風靡』の権威を盾に何をしようと、俺に迷惑をかけないのであれば、『未知』を手にするためのものならば何も言う気はないが、この世界が『神血旅』を掲げる限り、冒険者は、冒険者でなければならない。セデル連合は、それを真っ向から否定しているからだ」
「ほう、現在の勇者コミュニティの立場とあり方が正しいと? 行き先を選べば、こんな屋敷の十倍以上の敷地があるところに住むこともできるでしょう。魔王を討伐するという世界最大の成果の結果が、こんな屋敷と小国の国籍だけで許されると?」
「……なるほど、そういう話の展開か」
アイヴァンはため息をついた。
神血旅の領分を超えることは、世界のバランスそのものに影響を与えるのと同じ。
だからこそ、勇者コミュニティであってもそれが『冒険者』であるならば、領分を超えることはない方がいい。
その前提に立った場合、『その上で国籍を得ている』という部分に『モヤっとする』部分はあるかもしれない。
ただ、ここで『竜石国における参政権』を勇者コミュニティが主張すれば『アウト』だが、別にまだ『ネチネチ言われるほど攻めたことはしていない』のだ。
そもそも竜石国が『冒険者に対し、キンセカイ大鉱脈の奥への侵入権と、手に入れた素材を全て持ち帰る権利を認める』というのは、この国の法的にも可能である。
『国籍』云々で突っ込まれると後で面倒なので、勇者コミュニティは『一応』、国籍を得た今でも、ほとんど『冒険者』としてふるまっている。
何かを得ることと、それを行使することは全く違う。
国籍と市民権を手に入れたが、それらを『停止』させて、冒険者に与えられる特例という範囲で、現在の勇者コミュニティはこの都市で生活しているのだ。
しかし、とある『理屈』が存在する。
「世界を救った勇者には、与えられるべきものがたくさんある。だが、現状はこんな屋敷と国籍だけ。少なすぎる。小さすぎる。これでは、『英雄』の価値が下がる。そう思いませんか?」
そんな細かいことを気にせずとも、様々な『特権』や『特典』を与えられて当然なのが『勇者』という称号である。
魔王という存在が神血旅を脅かすものであり、そんな魔王を倒した勇者は、神血旅の垣根を超える権利があると。
『そこまでの存在でありながら』、今の彼女たちは小さな屋敷と小国の国籍だけ。
これでは、後の世代に対し、示しがつかない。
「今さらだな」
「何?」
「世界はまだ、勇者も魔王も『舐めて』いる。魔王はその強さ以上に『特性』が凶悪で、『力がありながらもあきらめざるを得ない』と思うものが多かった。だからこそ、『実際に戦えば、自分たちの方が勇者よりも強い』と思うものが後を絶たない」
アイヴァンはため息をつく。
「何度もそういうやつを見てきた。魔王が持つ男性支配の特性によって『行動しない大義名分』を得た者の傲慢は、今も続いている」
「そう、だからこそ、世界がしっかり認めなければならず――」
「世界会議に身を置く最大の国王は、勇者に対し、『感謝を述べた』そうだ。お前はやってないだろう。そりゃそうだろうな。お前にとって勇者というのは今も、『自分が管理できる存在』なんだ。馬鹿みたいな話だろ」
「そ、それは今回の件とは何も……」
「関係あるさ。そんな馬鹿なことを考えているから、『今回の騒動』が起きている。『冒険者が魔王を倒したから、これからは冒険者の時代』だぁ? 馬鹿もここまでくると、つける薬はないぞ」
「……」
パストルは頬がピクピクと動いているが、その程度でとどめていると言えよう。
「……で、アンタら勇者コミュニティは、『宮廷冒険者』について、どう思ってるんだ?」
アイヴァンはエリーに聞いた。
彼女はラスター・レポートの幹部ではあるがリーダーではないため、彼女の言葉が『組織全て』とイコールになるとは限らない。
しかし……ラスター・レポートに関する『金』を掌握する彼女の言葉は、世界にとって無視できないものになる。
「先ほども言いましたが、バカバカしい話です。百年前、『宮廷冒険者』は実際に誕生し、その国は数年で滅びた。その事実を知る身としては、『宮廷冒険者の枠を設けようとする』ことそのものに疑問を持たざるを得ませんね。『国を滅ぼす』と言っているようなものなので」
「……はっ? えっ? 百年前に、国が滅んだだと?」
本当に、本当に驚いた顔をしているパストル。
そんな彼にエリーはため息をついて……。
「かなり情報が隠されていますし、相当調べなければわからないでしょうが、『ラスター・レポートの全員が共有している事実』でもあります。そもそも、『移民の悪性』を知るものからすれば、今回の件は腐臭が強すぎる」
「俺も百年前に国が滅んだ事実は知っている。まあ滅んだというのも少し語弊はあるか、実際には、『とある協会本部役員の傀儡になった』というところだが、王に主権のない国など、実質的に滅んだも同然だろう」
「アイヴァンさん。情報は正確に。協会本部役員の手で国益がむしり取られ、本来なら対応できるはずの魔物氾濫で、国民の八割が亡くなったのですから」
「な、ならば、何故止めなかった! 何故ここまで放置した! お前たちが心のどこかで、それを認めているからではないのか!」
必死に取り繕うパストル。
彼の中で、『宮廷冒険者』を認めさせることは、『冒険者による世界の統括』の第一歩なのだ。
それを、勇者コミュニティも、SSランクギルドのギルドマスターが『真っ向から否定』し、その否定する理由が『国が滅んだから』という、あまりにも衝撃的過ぎるパワーワード。
そう、この事実は『隠されている』。
社会学にある程度精通しているモノであれば、その『国家』の全貌を解き明かすことくらい造作もないことであり、『宮廷冒険者』という存在そのものを隠そうとしている。
本部役員であるパストルすらその事実に触れられなかったということは、情報の隠蔽度が高いこともそうだが、『その情報隠蔽を命令したものがとても高い地位についていた』ことを示している。
「ああ、放置していたのは、貴方を調子に乗らせるためです」
「はっ?」
「勇者の歩みを見ていればわかるだろう。こいつ等の作戦は主に、『見せしめ』と『一網打尽』だ。パストル。お前は『見せしめ』として、事態を大きくするまで放置していたということだ」
「ば、バカな……そんなことが、俺は管理者側の人間だぞ!」
「貴方の口はよく、『管理者側である』としゃべりますね。なるほどなるほど……」
エリーが不敵な笑みを浮かべている。
「ただ、アイヴァンさん。あなたがここでセデルを止めなければ、数日間、彼はここで演説していたでしょう。何故初日で止めたのですか?」
「……お前たちのやり方が『誰』に仕込まれたのかはわかっている。ただその上で、アイツに言っておけ。『俺が憧れている奴と、お前が憧れている奴』は違うとな」
要するに、アイヴァンとホーラスでは、『憧れている人間がするであろう行動』が全く違うのだ。
そして、ホーラスが憧れている人間ならば『今回のようなこと』が起こるが、アイヴァンが憧れている人間の場合は、『ここで止める』ということ。
ただ、その理屈はともかく、アイヴァンのその雰囲気にエリーは思うところがあったようで……。
「……お知り合いなのですか?」
「十年前までコンビを組んでいた」
「「「!?」」」
アイヴァンの口から洩れた言葉に、セデルもパストルも、そしてエリーも驚愕したようだ。
「魔王によって滅ぼされた『ワイズリア王国』でアイツと別れて以来十年会っていないが、今もあいつは変わらんだろう」
「なっ、ば、バカな……」
勇者とSSランクギルドでは、『格』が違う。
同じ『宮廷冒険者を否定する立場』であったとしても、『勇者』という名前には負ける。
しかし、そのSSランクギルドのマスターであるアイヴァンが、『勇者の師匠と組んでいた人間』となった場合、その価値は跳ね上がる。
『勇者とそれに匹敵する立場の人間から否定される』というのは、状況として『最悪』だ。
エリーはパストルを見ながら呟く。
「なるほど、しかしまぁなんといいますか……最初から負ける戦いに、よくもまあ情熱を注いでいたものですね」
「ぐっ、く、クソっ! 俺は管理する側の人間だぞ! お前たちは冒険者だ! 管理される側だ! 俺の言うことを聞けえええええええええっ!」
次の瞬間、エリーから黒い威圧のオーラが放たれる。
「なっ……あっ……」
それだけで、パストルは勢いを失い、顔が青くなる。
「……あなたの執着はよくわかりました。その上で、しっかりと『見せしめ』はしましょう。あなたの勘違いと、最強の手札の一枚を、身の程をもってわからせます」
そういって、エリーは踵を返して、屋敷に戻っていった。
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