第43話 屋敷の前は演説スポットじゃないぞ。
パストルの目的は、おそらく最終的には『冒険者によって統治された世界』を作ること。
ただし、だからと言って武力でどうにかできるわけではない。
そもそも世界人口の1万分の1しかいないのが冒険者であり、確かに一騎当千の猛者もいるが、それだけで『戦争』はどうにもならない。
『世界を勇者が救ったのだから、世界は冒険者のものだ』というのは、最低限必要な理屈をすっ飛ばしすぎて、どれほど言おうと通ることはない。
そこでパストルが考えたのは、『宮廷冒険者』という枠だ。
ある種、『移民』というものが持つ『悪性』を利用したもの。
そもそも、冒険者の『協会支部』というのは、不満の解消や雑用の消化などのノウハウが蓄積されている。
本来は『政府』の総務がやるようなことであったとしても、協会支部があることでそれらが解決するというのはよくあること。
しかし、『政府』とは線引きをしなければならない。
冒険者が冒険者のままで『仕官』することはあってはならないし、政府側があれこれ理屈をつけて『冒険者を取り込む』ということもあってはならない。
悪性の例を挙げれば、政府の中に入れるとなった場合、『政府だけが持つ隠された情報』に触れる機会も多くなる。
しかし、それでも彼らは冒険者であり、『冒険者協会』の命令に逆らうのは困難だ。
本来なら隠されていた情報が協会本部にもれることも多々ある。
中立を盾にどこにでも入れる冒険者を政府職員として雇えるというのは、『どこの国で生まれたのかもわからない外国人』であっても、政府の中枢で働かせることができるともいえるが、これは『政府が持つ人を雇う能力の低下』につながる。
技術やノウハウというのは『継承』するためにあるが、『冒険者』が働く場合、『自国民』という意識がない。
大変だったり地味だったりする作業をまともにこなさない場合も多いし、離職率だって高くなる。
すごく簡単に強烈な物を言えば、協会本部が諜報員を送り込みやすい。
……悪性の『答え』として、こんなものは氷山の一角だろう。
要するに、『宮廷冒険者』という枠を設けるというのは、『最悪レベルの規制緩和』なのだ。
そして、パストルはこれを狙っている。
ある意味、この手段を選んだ彼は賢いのだろう。
中立を掲げる故にどこにでも入れるという冒険者だが、あの手この手の理屈を使って『宮廷』でも働けるというのは、前例がいくつかできれば多くの国で既成事実化する。
そしてそれは、『冒険者が、どこの国であっても、何の制限もなく働ける』という前例につながる。
『移民型国家侵略』として、その第一歩に『宮廷冒険者』の実現を掲げるのは、理にかなった戦術なのだ。
しかも、ランジェアたち『ラスター・レポート』という冒険者集団が魔王を討伐したことで、『これからは冒険者の時代』と考える人間は実際に多い。
本当に頭がいい。
頭はいいが……。
『移民関連の規制緩和の悪性』がわかっている人間からすると、腐臭が強すぎる。
★
「……思うんだが、アイツらって、人ん家の前を演説スポットか何かと勘違いしてるのか?」
二階の窓から外を見るホーラス。
そこから見える広い庭と、敷地を囲む壁の向こうで、『台』が用意され、セデルが演説をしている。
「勇者コミュニティが魔王を討伐した。だが、その勇者はこんな辺鄙な国に屋敷を構え、大した『立場』を持っていない! これは許されないことだ! 世界を救った勇者には、それ相応の立場が与えられて当然のこと! ならば、『宮廷冒険者』として、国家の中枢という立場を与えられるのは、正しいことだ! 真っ当なことだと思わないか!?」
以前、エクスカリバー逮捕時の兵士が言っていた言葉が事実ならば、パストルはセデルを宮廷冒険者に据える予定だったはず。
ただし、どのような思考が働いたのか、どのような軌道修正があったのか、『勇者』が『宮廷冒険者』になるべきだという、そんな話になったようだ。
それそのものに対してセデルが不満な表情をしているようには見えないが、誰が台本を書いたのか、スラスラと口から言葉が出ている。
「勇者が魔王を倒した。これからは冒険者の時代だ! そんな時代の最前線を歩む勇者には、時代を示す立場が与えられるべきだ。神血旅などと分けられているが、『世界を救った勇者』には、その領域を超える『大義』がある!」
これからは冒険者の時代。
最近はその言葉を聞くことも多くなったが……ホーラスとしては、別に誰の時代であろうと構わない。
(安全に、安心して、物を作れる。それができる社会が発展する。権力者は、その安全と安心を確保する。それだけでいいと思うんだがなぁ……)
理想論を内心でつぶやきつつ、ホーラスは呆れた目でセデルを見ている。
「諸君も、不満はあるはずだ! この国に限って言えば、キンセカイ大鉱脈からとれる鉱石は、この国の国民が最優先! 俺たちはそのおこぼれを得ているに過ぎない。おかしいだろう。俺たちがとってきた鉱石だ! 俺たちが得たものを自由に使う権利が、俺たちにはある! 勇者が『宮廷冒険者』の地位を得たら、冒険者と国民の立場は対等だ。これで、冒険者が手に入れた鉱石は、冒険者が自由に使うことができる」
必要な理屈をいくつかすっ飛ばしているが、『目先の利益』を提示するというのは演説において重要だろう。
「何度でも言う。世界を救った勇者には、『立場』が必よ――」
「セデル。もう黙れ」
「っ!? ……あ、アイヴァンさん」
セデルが気持ちよさそうに演説をしていると、彼が所属するSSランクギルド、『全世風靡』のギルドマスター。アイヴァンが止めに来た。
「おやおや、アイヴァンさん。彼の言葉に不満があると?」
止めに来たアイヴァンへの牽制か、パストルが横から出てくる。
「不満以前の問題では? 随分、バカバカしい話をしているものです」
エリーが屋敷から出て、彼らに話しかけながら歩いている。
「……えっ、え?」
いきなり重要人物が勢ぞろいして、状況が理解できていないセデル。
彼はおそらく、『演説権』を持たない『本部役員』であるパストルの代わりに喋っていただけなのだろう。
まだ初日で、『これから事態が動き始める』と思っていたのだ。
ただ、初回でこんなことになって、頭が混乱している。
「……アイヴァン。久しぶりだな。この町に来てたのか」
そんな中、窓から外を眺めながら、ホーラスは呑気なものである。
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