第23話 中身が伴っていない。
「どおおおおおおしてあいつらはこういうことばっかりするんだクッソオオオオッ!」
バルゼイルは絶好調……ではなく、絶叫状態に陥っていた。
「陛下、正気を取り戻してください」
「お前冷静だな! あの会見の後だぞ。それでよくもまぁそんな平気な顔ができるな!」
世界会議の本部における『控室』は二種類。
基本的には『元首』と『元首以外』といった種類だ。
そもそも高位のものしか世界会議には来ないため、このような分け方で十分なのである。
で、その『ディアマンテ王国・国王控室』で、バルゼイルはいつもの部下を連れ込んでいたが、部下の男がめちゃくちゃ冷静なので感情の行き場を見失っていた。
「いえ、ガイ・ギガントなのですが、大昔に『ドワーフの剣聖が討伐し、彼の故郷は大発展を遂げた』と記録があったはず。言い換えれば『貴重な金属が手に入る』ということですから……」
「ホーラスが動くはず。ということだな」
その時、ドアがノックされた。
「陛下、よろしいでしょうか。勇者ランジェアが来ております」
「通せ」
「ハッ」
ドアが開くと、ランジェアがいつもの無表情で部屋に入ってきた。
「ランジェアよ。既に……そなたの師匠は向かっているのか?」
「よくお分かりですね」
「部下が優秀でな。大昔に、ドワーフの剣聖が討伐し、故郷が大発展を遂げたという記録があるそうだ。貴重な金属が手に入るのだろう」
それを聞いて、ランジェアは部下のほうに視線を向けたが、すぐにバルゼイルに視線を戻した。
「そこまでは聞いていませんが……すでに師匠が向かっているのは事実です」
「……我々は転移魔道具でここに来たが、本来、ここから王都まで最短で一週間はかかるはずだ。間に合うか?」
「その一週間というのも、時速20キロほどの馬を、全力が出せる距離で夜も眠らず乗り継がせて、という前提でしょう。道中の環境も考慮して二週間なら、3000キロより少し遠いくらいでしょうか?」
「まあ、おおむね間違っておらんな」
「師匠は時速300キロで飛べるゴーレムを所有して……いや、これは五年前のはずですから、今は音速に到達しているかもしれませんね」
「どういう技術力だそれは」
「まあ、3時間もあれば到着するはず」
「ガイ・ギガントは体内のエネルギーが戦闘可能な状態になるまで時間がかかります。おそらく間に合うかと。しかし戦闘の余波で何が起こるかわかりません。こちらも通信魔道具で、王都の住民を避難させるべきです」
「うむ、そのように手配しろ」
「はいっ」
部下が部屋を飛び出していった。
通信も転移も、魔道具は貴重品。
世界会議の本部と言えど、本当に超距離で運用するものは使うための手続きが面倒なのだ。
「……はぁ、召喚石か。そんなものを隠しているとは思わなかった」
「ダンジョンに入れば、時折そのようなアイテムは手に入ります。そして、中に入れておけば感知魔法から逃れられる布も」
「ディアマンテ王国でそのような報告は少なく、『出にくいダンジョンばかり』だと思っていたが、違うな。誰もかれもが、今回のようなアイテムを隠し持っていると思った方がいいか」
「はい。ただ、師匠はその中でも、『アイテムほぼ出ないダンジョン』の情報を持っているはずです」
「要するに、後で城に送られてくる資料に書かれたダンジョンは、ほぼ『硬貨』しか出ないというわけか」
そもそも、バルゼイルが『賢王』としての道を歩み始めたのはここ最近であり、真に必要な情報を集める体系が整っていない。
虚実が入り混じった報告書を読んで、その中から真実を見つけ出すという経験も少ないのだ。
「……はぁ、四十二にもなって、王として必要な物が全然足りないとはな」
「五十代半ばだと思っていました」
「……」
バルゼイルの顔がちょっと歪んだ。
老けて見えると十七の少女からストレートに言われるのは、ちょっとツライようである。
「そう、うむ、父上は顔だちが若くてな。私が二十歳になったころ、『父上より老けてる』と噂でよく言われたものだ」
「老け顔は昔からなのですね」
「……」
もちろん、バルゼイルは英雄ではなく『王』なので、威厳というのは大切だ。
何なら、外見的には若さ溢れるより多少は老けて見える方がいい。
若さというのも、舐められる要因ではあるのが世の常だ。
「母上は、若い顔立ちの父上が苦労しているのを見ているからな。『バルゼイルは老け顔でよかったね』とよく言っていた」
「そうですか」
「ちなみに母上は十四のころに三十手前に間違われたことがあるそうだ」
「……」
ランジェアは『父親の遺伝子弱くね?』とはさすがに言わなかった。
男系継承の王に対する笑い話としてはかなり苦しい。
というか、そういう女性を妻にしたから先代は苦労したのでは? とすらランジェアは思う。絶対に言わないけど。
「雰囲気の威厳という意味で、私は苦労したことはないが……中身はそれに伴っておらん」
「外見に伴わない中身ですか。まあ、私はそれでもいいと思いますが」
「そう思うか?」
「師匠も、見た目は十代半ばですが、実年齢は27なので」
「えっ……」
衝撃的だったのか、バルゼイルの口からとぼけた声が漏れた。
「さすがに外見通りということはありませんよ。城での勤務年数は十年近い。五歳ごろから働いているわけではありません」
「それは……そうだな」
長年働いているとはわかっていたが、十年とは思っていなかった様子。
バルゼイルは何かがすごくモヤモヤしてきたが、なんだか不毛な話だと思ったのか、この話は終わりにすることに。
「外見の話は終わりだ。王都はホーラスに任せば大丈夫だろう。あとは、貴族たちをどうするかだな」
「……この本部の地下には『最悪のダンジョン』があると聞きましたが、適用されますか?」
「いや、今回の問題で、おそらく『被害者は出ない』だろう。ならば適用はされん」
「そうですか」
「ただ、どこかはまだ決まっておらんが、ダンジョンで終身刑となるのは変わらんだろうな」
淡々と、何かを取り繕ったような表情で、バルゼイルはそう言った。
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