第14話 知らないって凄い。が、『もしも』を掴めない以上、『残念』である
キンセカイ大鉱脈の奥。
そこで、頑丈な革袋を背負いながら、ホーラスは歩いている。
大鉱脈となっているがダンジョンであり、モンスターがいくらでも湧き出てくる仕様だ。
モンスターを倒すと、硬貨とドロップアイテムとして鉱石を落とす場合が多く、金属は時々ある『採取ポイント』でも獲得でき、種族単位で言えばドワーフにとって聖地と言えるだろう。
ダンジョンの構造としては、罠は一切ない。
しかし、奥に行けば行くほど、モンスターは加速度的に強くなる。
……ホーラスの目の前に現れた、全長十メートルの青い金属でできた鳥もまた、そんな『強いモンスター』の一種だ。
「……っ!」
灰色の圧力がホーラスの瞳からあふれ出して、青の鳥に向かう。
だが、青の鳥の口からデカい鳴き声が響くと、オーラは霧散していった。
「……この辺りになるとオーラだけなら有利にならんな。前人未踏だし当たり前か。お前みたいな金属でできた鳥は『魔法だけ』で飛んでるから、魔力を威圧できると楽だったんだがなぁ」
ホーラスは上着の内側に手を入れると、武器を取り出す。
知るものが言えば、『銃』というだろう。
ただ、『拳銃』というほど携帯性はなさそうで、『銃型のガジェット』といった方が適している。
鉄と火薬と弾丸で作られたものではなく、あくまでも『銃型のゴーレム』なため、なかなかゴツくて厳つい見た目だ。
その銃口を向けて、発砲。
次の瞬間、音速をはるかに超える速度で、羽を貫通した。
内部までぎっしり金属が詰まった、なんだか羽というより鉄塊といえる物体をやすやすと貫通している。
「思ったより脆いな」
ホーラスは親指で、本来なら撃鉄がある部分についている『半球状のパーツ』に触れる。
そのままトリガーを引く。
秒間50発で魔力を固めて作った弾丸が乱射され、体をハチの巣にしていく。
しかも、どれもこれも、弾速が通常の銃をはるかに凌駕する。
だというのに、『銃が振動で震える様子』がない。言い換えれば『反動ゼロ』という理不尽の権化のような状態だ。
理不尽なのは弾丸だけではない。
灰色の威圧オーラは、青い鳥『そのもの』への影響は『皆無』ではない。
最初からずっと威圧を続けており、金属の体を動かすために使っている魔力が上手く動かず、本来なら超高速で動けるはずの体が上手く動かない。
そんな『うまく動かない体』で、『超速弾丸』を避けることはできない。
「ガッ……ア、アァ……」
青の鳥はそのまま地面に墜落すると、硬貨と鉱石を残して塵となって消える。
「……」
ホーラスは無言で袋を傍において、袋の傍に描かれた魔法陣に触れると、風が発生して袋の中に硬貨と鉱石が消えていった。
「さて、帰るか」
満足する量になったのか、ホーラスは踵を返した。
★
「えーと、これはいる。これはいらない。これは……いらんな」
「師匠。何をしているのですか?」
屋敷の倉庫で、次々と鉱石を取り出して、棚に並べたり箱に突っ込んだりしている。
なお、『いらない』は棚。『いる』は箱だ。
ただ、ティアリスとしては何をしているのかわかるが、『理解できない』のだ。
まったく同じ鉱石に見えても、棚に並べたり箱に入れたりとバラバラだからだ。
「ん? ああ、要るものと要らないものに分けてる」
「そこはわかるのですが……」
「簡単に言うと、鑑定スキルが優れている場合、『同じに見えても質が違う』ように見えるんだよ」
「え? では、私が用意したあの鉱石の中に、いらない金属も交じっているということでしょうか?」
ティアリスの額に汗が流れているが……。
「いや、あのレベルなら、俺の錬金術でも弄って調節できる。ダンジョンの奥に行く場合、『中層に出てくる希少鉱石』って、深いところで出てくる鉱石を補助するのにすごくいいんだが、おとす確率は低いし、寄るのがめちゃくちゃめんどくさいからな」
「では、今回師匠が手に入れた鉱石をいるものと要らないものに分けているのは、師匠の錬金術では弄れないレベルということですか?」
「ああ、ゴーレムマスターっていうのは、『地属性魔法』と『錬金術』と『魔道具作成』の中間みたいな技術だから、金属そのものをいじる錬金術に特化してないんだよ……よし、わけた。俺は要らないから、どうするかはティアリスたちに任せる」
「わかりました」
ホーラスは『いる』と言いながら突っ込んでいた箱を持ち上げると、そのまま倉庫を出ていった。
ティアリスはホーラスが置いていった鉱石を見て、何か考えている。
「……単純な金属装備を作る場合、かなりレベルの高いものができそうね。ただ……使いこなすのは何十年後になることやら」
棚に並べたということは、竜石国の中で鉱石を扱う商会を呼ぶことも考えてのことだろう。
ただ、商人たちに、価値がわかるだろうか。
「……特に、これ」
ティアリスは青い翼のような形をした鉱石を見る。
「いったい、どんなモンスターを倒したら手に入るのか、想定できない。フフッ、もしも師匠が魔王に魅了されていたらと思うと、背筋が凍るわ」
ティアリスは体をブルっと震わせた後、紙をペンと取り出して資料にまとめていった。
★
「へー。ディアマンテ王国からアンテナが来るのか」
「はい。借金をかなり減らす代わりに要求しました」
「……でも別に、俺、この国の運営にかかわるつもりはないぞ」
「扱える広さが拡張できれば、より質の高いゴーレム作成ができると考えました。そんじょそこらのアイテムを用意しても、師匠レベルの操作能力を広げることはできませんし」
「なるほど」
ロビーでコーヒーを飲んでいるホーラス。
そんな彼に話しかけているのは、当然ランジェアだ。
花が咲いたような笑みを浮かべるランジェアはとても楽しそうである。
明確な意味で、『ホーラスの役に立つアイテムを獲得できた』からだろう。
「確かに、アレ便利だからなぁ」
「ただ、王都では使われていないという話でしたが、どういうことなのでしょうか」
「アンテナとして完成してそこにあるということは、『魔力の通り方』をどうしてもアンテナの規格に合わせたものにしなければならない。が、王国の魔法はその規格に合わなかったんだよ」
「……あのアンテナは、王国で作られたものではないのですか?」
「いや、超古代の魔道具作成者である『ゼツヤ・オラシオン』が作ったとされている。それを何らかの因果で王国が保管していた」
「なるほど……では、なぜ、そのアンテナに適した魔法を作らなかったのでしょうか」
「規格の中身がわからなかったからだろうな」
「……そうですか」
ホーラス視点だと宝の持ち腐れだが、こればかりは技術力の違いだろう。
「……あっ、そういえば、アンテナが送られてくるのと同時に、『オマケ』がついていました」
「オマケ?」
「はい。城の地下に保管されていた金属のようです」
「そんな部屋があったのか……」
「先に届いているので持ってきます」
ランジェアが席を立つと歩いていった。
「……オマケねぇ。いったいどんな金属なのやら」
……数秒後。
「お待たせしました。こちらになります」
ランジェアが持ってきたのは、赤色のインゴットだ。
「……」
「どうでしょうか」
「いや、多分……何も知らずに送ってきたんだろうなっていうのは、よくわかった」
「え?」
「知らないってすごいよなぁ。これ一個で、俺の研究が十年進むぞ」
「なっ!?」
本気で驚いているランジェア。
「そうだな。これを手に入れようと思った場合、俺視点だと完全に運なんだよ。俺がやりたい研究のルートは一個じゃないから、コイツを使うことは避けてたんだ。だけど、これがあるだけでかなり違う」
「で、では……」
「もしも、魔王討伐後に俺の働きが評価されて、『これからも城で働いてくれ、そして勇者を王国に取り込みたい』って言われて、その対価に研究室とコレを提示されたら、俺は間違いなく首を縦に振ってたよ」
本当に良い笑みを浮かべているホーラス。
そこにウソ偽りはないだろう。
「……それほどですか」
「それほどだ。おそらくバルゼイル国王は、これを送るとき、どう転ぶかわからないと思ってただろうけど、最高の贈り物だよ」
「ふむ……では、今からでも王国の城で働く未来はありますか?」
「それはない。王国民に愛想が尽きてるのは変わらんし、城で勤務のままだと、キンセカイ大鉱脈の奥に入れないからな。そっちの未来に進んでたとしても、いずれ離れてたよ」
「そうですか」
ランジェアはなんというかこう……『残念』と思った。
順序さえ違っていれば、知識さえあれば、文字通り世界最大の王国であるディアマンテ王国は絶頂期を続けていたことだろう。
……まあ、そんな未来が訪れる、『可能性がないよりはマシ』ということにしておこうか。
「では、ディアマンテ王国の借金を帳消しにすることくらいは、今からでも?」
「そっちはいいだろ。どうせ使いきれない金があるんだからな。こんなに良い贈り物をしてくれたんだ。俺の顔を立ててくれって言ったら、ランジェアたちも借金くらい棒引きにするだろ」
「そうですね」
一応、勇者コミュニティが金を貸している理由は、『借金というマウントを取って調子に乗らせないため』ではある。
しかし、勇者という存在を舐めている貴族たちは借金があろうと平気で調子に乗っているので、別の形のほうがいいだろう。
「借金がなくなった後でこれまで以上に調子に乗る未来は見えますが……まあ、『勇者』という称号がどれほど重いのか、その時はわからせましょう」
「……もしかして、『借金がなくなった反動』でバカを誘発させて、何人か『見せしめ』にしようとしてないか?」
「それが悪いとは思っていません」
「あっそ……まあ、そこは俺が言うことじゃないか。俺は研究してくるから、それじゃ」
ホーラスは椅子から立ち上がると、インゴットを手に部屋に戻っていった。
★
なお、この翌日。バルゼイルに対し『王国の借金は帳消しとする』という手紙が届いて、彼は五度見したらしい。
もちろん、彼も彼で、借金がなくなってよかったと思う反面、『絶対に調子に乗るやつがいるよなぁ』と憂鬱になっている。
『勇者のことをバカにするな』といっても聞かないやつが多いのだ。理解しないやつが多いのだ。どうしろというのだろう。
借金がなくなっても、バルゼイルの胃は危険な状態である。
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