第13話【王国SIDE】 もしもここで渡したら、ホーラスは帰ってこない。
「……はぁ。大きな分岐点があるとすれば、今だな」
バルゼイルは執務室で、手紙を読んでいる。
とても質のいい紙と封筒で、差出人にはランジェアの名前が記載されており、すっごく嫌な予感がしながらも、彼は読んで、ため息をついていた。
「陛下。アンテナが欲しい。という要求に対して、私は……正直に言えば、受け入れたくはありません」
部下はバルゼイルが何かを言う前にそう言った。
手紙の封筒には『親展』とすら書かれていないし、宛名が『ディアマンテ王国王宮』なので、城の職員であれば全員が読める。
それぞれの貴族も読んでいることだろう。
少し城から離れていたバルゼイルは、あとから戻ってきて、手紙を読んでいるわけだ。
「何故そう思う? お前も読んだだろう。この手紙には、あのアンテナを勇者コミュニティに渡せば、借金に関して大きなメリットを約束すると書かれている。1年間の国家予算を全て払っても、1%の利子を払うだけで限界なのがディアマンテ王国の現状だぞ。何故乗らない?」
バルゼイルはそう言ったが、その目に蔑む意味はない。
部下はバルゼイルの机に置かれた本をチラ見する。
三冊おかれているが、その題名は
『地属性魔法の基礎 著者:フェルノ・ドーラ・ギフトネスト』
『錬金術の大原則 著者:リクナ・プルート』
『魔道具作成のコツ 著者:ゼツヤ・オラシオン』
「『超古代の三大発展書』……その複製品ですか。私もあれから閲覧しました。そこで得られた私の推測ですが、おそらく勇者の師匠は、『射程を犠牲にし、操作能力に特化している』と考えられます」
「……続けろ」
「もし、ここでアンテナを渡した場合、仮に勇者の師匠がここに戻ってきたとしても、以前のようにはなりません」
「だろうな。足りない範囲をアンテナに中継してもらっていた。そう考えるのが普通だ。そして……なぜ勇者の師匠がこの国で活動していたのかの、最大の理由なのだろう」
ホーラスのゴーレム操作の射程は自分の体から半径三メートル。
武装型ゴーレムを運用するうえで困ることはないだろうが、『職員』を運用するには圧倒的に距離が足らない。
だからこそ、アンテナが欲しかった。
しかし、どのような理論や素材が必要なのか、それはともかく、現実として今のホーラスは『職員』を使っていないので、この国にあるアンテナは作れないのだろう。
「……貴族たちも、この手紙を読んだのだろう。何と言っていた?」
「現状、アンテナはこの国で使用されていませ――」
「原文で構わん」
「……『使い道のないゴミに何の価値があると思っているのか。バカは扱いやすい。これで我が国は安泰だ』と」
「想像力のない奴らだ」
バルゼイルは諦めたような表情になっている。
「……私は、心のどこかでは、勇者の師匠をこの城に招けるのではないかと思っていた」
「正直に言えば、私もです」
「長年、この城に勤めていたことは事実だからな。ただ、ゴーレムマスターの知識を深め、アンテナを求めているという手紙を読んで、『全貌』を理解した。アンテナだ。あのアンテナだけなのだ。勇者の師匠がこの国を選んだのは、それだけの理由なのだよ」
バルゼイルはため息をついた。
「『為政者は、自分の眼で見ていないものを信じてはならない。だからこそ、情報を集めることを、正確な報告をする部下を集めることを怠ってはならない』……先代の言葉だ。理想論でしかないと棄てていた」
「それは……」
「はぁ、大昔の人間が、七つの大罪に『傲慢』と『怠惰』を入れた理由がよくわかる」
手紙をもう一度見るバルゼイル。
「勇者の要求だが、受け入れるしかないか」
「それでは……」
「ああ、勇者の師匠がこの国に帰ってくる可能性を捨てる。私がそれを選ぶ。ただし……貴族どもの『安泰』を保障する気はないぞ」
「……はい」
バルゼイルは天井を見上げる。
その姿を見て、部下は思う。
つい数日前まで、王は肥えた体をして、どれほど愚かであろうと、自分をほめる者だけを集めた。
その結果として、ザイーテのような男が傍にいた。
だが、今のバルゼイルは、痩せて、理知的な瞳をするようになり、『王』としての姿が見えてきた。
『やればできる』……王に対して不敬ではあるが、そういう男だったのかと思う。
もちろん、『やればできる』というのなら『じゃあやれ』と言われるのがオチであり、やっていなかったからこのようなことになっているわけだ。
「……なあ、勇者の師匠がこの国で行なっていたことを評価していないことを、本人は怒っているだろうか。お前はどう思う?」
「……聖剣まで抜いた伯爵家の長男に対し、殴るだけで済ませたところを考えると、絶対に許さないという訳ではないでしょう。ただ、我々に興味を持つ理由もないと考えます」
「そうか……」
「加えて、魔王が持つ男性支配の力は絶対的であり、勇者の師匠の実力が露見して騒ぎになった場合、魔王は勇者の師匠に刺客を放つでしょう。それこそ何度も何度も。それを考えれば、秘密主義にならざるを得ません」
「では、魔王討伐後に評価しなかったことに対して、どうなるかな」
「……」
部下は思い出す。
城の敷地内に作られた『一般開放』のスペースで、何百件としょうもないクレームを入れにくる平民たちを。
「愛想が尽きたのでしょう。謝罪しつつ、『陛下の立場として距離を取る』ことを約束すれば、少なくとも関係が悪化することはないと思われます」
「……はぁ」
深いため息をついた。
諦めたほうが都合がいい。
そんな条件ばかりが出てくる。
……そもそも、ホーラスがこの国の器に納まるなど、最初からあり得ないのだ。
バルゼイルは、それを心に刻む。
「では、アンテナを渡す準備をしよう。あと……地下の保管庫にあった『オマケ』もつけるか。どう転ぶかわからんがな」
「?」
「ああ、今はいい。あと……国内にある手ごろなダンジョンを全てリスト化しろ。貴族どもを放り込む」
「畏まりました」
バルゼイルが部下に背を向けたことで、部下は一礼して部屋から出ていった。
……扉が閉まった後、バルゼイルはつぶやく。
「あるべき姿に、戻るだけだ。後はもう知らんと言われても反論できんな……ただ、これで少し余裕はできた。国力の発展につなげれば、いずれ全て返せるだろう」
資料を読むバルゼイル。
借金額とその内訳のようなものだが……見る限り、勇者コミュニティに対し、『王家』は銅貨1枚すらも借金がない。
全て、貴族のものだ。
「王家としては、彼の働きを報いることができなかったことが悔やまれるが、あの『オマケ』がどう転ぶかだな」
どうやら、バルゼイル本人にも、どれほどの価値があるのかわからないものを渡すようだ。
要するに……彼の心拍数は、まだまだ速いままである。
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