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地獄界編完

### 一方・ヒミコ邸地下室

「羅夢ちゃんったら随分とご執心ね」

ヒミコが紅茶を啜る。モニターには血の池地獄が映るばかり。

「千年後の楽しみが増えたわ♪」


# 第X章 血の池地獄 - 出発点

時雄は革ジャンの襟を正した。金棒が血の池の上で鈍く輝く。

「よろしく頼む」


巨鬼が低い声で答える。

「かしこまりました。ですが……」

その視線が時雄の足元に向けられた。


血の池は想像以上に深い。踏み出せば確実に沈没するだろう。

「泳ぐの?」

時雄の問いに巨鬼は首を横に振った。

「こちらをご覧ください」


巨鬼の指差す先──血の池が突如として乾き始める。

「これは……」

地面が現れ、舗装された道が姿を現した。左右には灼熱の業火が燃え盛る。


「地獄は案内人がいる時にのみ移動可能な道を作る仕組みになっております」

巨鬼が一歩踏み出す。炎が彼の足元で弾けて消えた。


時雄が続いて進む。革靴が焼け焦げる匂い──

「痛ぇ!?」

「油断なさるな!」

巨鬼が振り返り時雄の背中を庇うように立つ。

「凡夫の肉体ではこの地獄の熱気すら耐えられませぬ。神力を解放しなさい!」


「神力って言われてもな……」


頭の中にかぐやの声が蘇る。

『神力は願いによって生まれるもの……』


(そうだ、俺はかぐやの所に戻るために……!)

金棒を地面に突き立てると同時に白い炎が彼の全身を包んだ。

「これは……!」

革ジャンの下から神々しい紋様が浮かび上がる。


巨鬼の目が丸くなる。

「なんと……即席で神性を纏うとは!」

「行くぞ!」

時雄が走り出した。白い炎が足跡となり地面を焼き尽くす。炎の壁が左右に裂ける様はまるでモーゼの海割りのようだった。

### 5キロ地点

巨鬼が汗だくで振り返る。

「少し休憩を……」

「休む暇なんかあるのか?」

「しかしこのペースを維持するのはかなり大変でして…」

「あとどれくらいかかりそうなんだ?」

「そうですな、このペースならあと5年程度という所ですか」

「5年?いやいやマジか?数分レベルと考えてたんだが…いや5年って、広すぎだろ」

「その代わり閻魔様のご命令で貴殿の邪魔をするなとの通達が行き届いているので戦うことはないので早い方だと思ってましたが…」

(しかし地獄って言うのは時間と空間の認識が人間界とまるで違うな…はぁ‥)

とわはいうものの鬼の体力を考慮して少しペースを落としながら走りつづけそれから6年後ついにお釈迦様の元へ到達した。

お釈迦様は不思議な光を放ち刑罰を終えた亡者を救っていた。

(あれがお釈迦様か。やっとあえたがここまで6年か、それでも懲罰房でじっとしてるよりは楽だったけど)

「よくきたな。時雄とやら。待っておったぞ、お主はやっと着いたと思っとるようじゃが私からみたら随分早く到着したと驚いとる位だ。閻魔殿の通達で鬼どもが襲ってこなかったのが一番の理由らしいが」

「ありがとうございます。ですが時間がありませんので早速ですが羽衣をいただけますか?」

「それならほれ、いま、かぐやとやらに送っておいたぞ。これで天界入口付近なら入れるはずじゃ」

「しかし、おぬしももの好きじゃのぅ。それだけの力を持ちながら鬼っ子娘を嫁にしたいとは」

「いや、嫁にしたいとは言ってませんし思ってもいません」

「だが1000年以内に転生を物にするなんて無理な話だ。」

時雄が一歩踏み出した。神力で編んだ革ジャンが淡く輝く。

「確かに……通常なら不可能かもしれません」

彼の金棒が地面を打ち鳴らす。

「ですが」

決意に満ちた声が血の池地獄に響く。

「この世の理を超越するために来たのです。不可能を可能にするのも神人の務めでしょう」


お釈迦様が静かに瞑目した。その背後で蓮華が咲き乱れる。

「傲慢か……否」

かすかに笑みを漏らす。

「若き者特有の純粋さだな」


時雄が額の汗を拭う。神力の消耗は著しい。

「では……羽衣は?」

「既にかぐや殿へ送ったと言ったであろう」

お釈迦様の指先が天を指す。

「さあ、もう行くが良い、階段付近でかぐや殿がまっておる」

「はい、この度は色々とありがとうございました」

深くお辞儀をし手を合わせて合掌した後いそいでかぐやの待っている階段へむかった。

ただ到着した時には4年の月日が流れる事となった。


## 色欲地獄 ~鬼女の責め~


色欲地獄(通称衆合地獄)の一角。淫靡な香りが漂う舞台で羅夢が生前に浮気や不倫など色欲の酷かった亡者達に罰を与えていた


「羅夢様!今日は一段と美しくて……」

亡者が涎を垂らしながら縛られた身体をよじる。彼の罪状は「不倫をして妻と子供を不幸にした男」だ。


羅夢の翡翠色の瞳が冷たく光る。

「黙りなさい。お前のような輩がどれだけ女性を不幸にしたか……」


彼女の細い指が虚空を撫でる。途端に亡者の周囲に無数の蠅が集まり始めた。

「やめろぉ!蠅が肌を……っ!」


羅夢が唇の端を吊り上げる。

「地獄とは自らの罪を映す鏡よ」

彼女の黒髪が蛇のように蠢き、亡者の口に這い込む。


### 一方・かぐや宅

天界入口付近に建てられた簡易的な家に住んでるかぐやはお釈迦様からもらった羽衣を見て驚いた。

(これが羽衣……?)

薄紫色に光る絹地には無数の星屑模様が浮かび上がる。触れると指先に温もりが伝わった。同時に声が聞こえる。

『かぐや殿へ』

『彼を支える覚悟があるなら羽衣を預けよう』

かぐやは窓辺に座り羽衣を胸に抱いた。

(時雄さんが無理に力を求めなくてもいいように……私にできることは)

「さあ、これで準備ができたわ。時雄くんが戻るまでもう少し時間がかかるからのんびりしてましょ♡」とヒミコがほほ笑んだ。

なにげにテレビをつけると高層ビルの火災現場が映っていてそこで必死に救護活動をしているロボットのかぐやの姿があった。

「あれが本来の私の姿であり役割だったんですね。それを私だけ命を与えてもらえて…」


## 天界への帰還と再会の予感


血の池地獄の灼熱を抜け、階段へと急ぐ時雄。背中の革ジャンが汗で濡れている。

(往復で10年かしかも懲役房に入れられた年月をいれると12年……かぐやは怒ってるだろうな)

金棒を杖代わりに進む彼の脳裏に浮かぶのは、黒髪を靡かせて氷の刃を振るう彼女の姿だ。


### 一方・色欲地獄


羅夢の指先から紫煙が立ち昇る。罪人たちの悲鳴が地獄の空気に溶ける。

「次はお前よ」

翡翠色の瞳が新たな獲物を捉えた。不貞の夫に対する妻の怨念が具現化した亡者だ。


亡者が怯えた目で羅夢を見る。

「わ、私にも家族が……」

羅夢の冷笑が地獄に響く。

「愛した女性を裏切った男に家族などない」

彼女の黒髪が無数の針となり、亡者の皮膚に突き刺さる。

「この痛みこそが……愛を弄んだ者の末路よ」



## 天界の再会と新たな門出


「おかえりなさい」


かぐやの声が夜空に溶ける。羽衣の星屑模様が月明かりに煌めいた。


時雄が革ジャンの袖で額の汗を拭う。

「待たせてすまなかった」


「12年……私たちにとっては半年ほどでしたけど」

かぐやの指先が窓枠の氷を撫でる。パキッとした音と共に氷華が散った。


「羅夢さんのこと、どうするんですか?」

突然の質問に時雄の金棒が微かに揺れた。

「千年以内に転生能力を物にするって……」


「約束は守る」

彼が羽衣を手に取った。かぐやの体温が残る柔らかな感触に胸が熱くなる。

「だが羅夢との契約は……」


「わかります」

かぐやが一歩踏み出し時雄の胸に顔を埋めた。

「次のステージからは私にも神人力が備わってくるはずだから足手まといにはならないから」

「じゃあ、私もそろそろ消えるわね」といいのこしヒミコが夜空に消えていった。

目の前には階段がある

「じゃあそろそろ行こうか」二人、手を繋ぎ階段を上りだした。


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