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地獄界編④

血の池地獄・封印結界内部


「おい羅夢」時雄が壁面を拳で叩く。「なんか様子おかしくないか?」

水晶壁の向こうで羅夢が妖しく微笑む。

「ええ♡地上でなにか企んでるみたいね?」

細い指が壁面を這う。「でもあなたはここから出られないままよ……一生ね♡」


突然、空間が激しく振動した。


* * *


現世・ヒミコ邸地下室


「儀式開始!」

ヒミコの詠唱と共に六芒星の魔法陣が展開。イザナミの炎が陣を彩る。

「かぐやちゃん、中央へ」


漆黒の着物姿のかぐやが陣に立つ。胸元の牡丹紋が淡く輝き始めた。

「時雄さんが……怖くないと言ったら嘘になります」

蒼白い光の中で唇が震える。

「でも私……決めました」


イザナミが巨大な爪を振り下ろす。

「誓約の証を立てよ!」

鏡面モニターが激しく波打つ。血の池地獄の全景が映し出された。


* * *

###地獄の時雄周辺

突如として光柱が天から降り注いだ。懲罰房が眩い輝きを放ち──


「うわっ!?」

時雄の視界が白濁に染まる。革ジャンの裾が風圧で舞い上がる。


光が収まると、彼は血の池の淵に立っていた。

「……自由?」

金棒を握る手が微かに震える。


数メートル先で羅夢が膝をつき笑っていた。

「懲罰房が消えたわね」


更に背後から氷塊の衝撃。

「お久しぶりね」

銀髪をなびかせたヒミコが着地する。「あなたの大好きな『仕置きタイム』よ?」


「ヒミコ様!」時雄が振り向いた瞬間──


「閉じろ懲罰房」


澄んだ声が地獄に響き渡った。


青白い光が同心円状に広がる。時雄を中心に半径百メートルのエリアが急速に凍結し──


ゴゥン!


結晶の棺が出現。彼を飲み込む寸前で停止した。


「……っ!?」


結界表面に浮かんだ文字列を読んで時雄の顔色が変わる。

〈抑止解除条件: かぐやの承認〉


氷壁越しにかぐやの姿が見えた。ヒミコの隣で頬を紅潮させている。

「暴走したら容赦なく使いますから!」

涙目で叫ぶ彼女の背景に、新たな紋章が輝いていた──神力抑制術式の発動痕だ。


「冗談じゃない!」

時雄が拳を氷結棺に叩きつける。結晶が軋み砕け散った破片が空中で制止した。

「まだ一度も戦ってないじゃないか!」


かぐやが慌てて前へ出る。「わざとですよ!ヒミコ様の術式に合わせて……」


「あら」ヒミコが扇子を開く。銀髪が風に乗る。「初回起動テスト完了ね。術式安定率97%」


イザナミが炎の尾を揺らす。

「良い手土産じゃ。千年以内に達成できぬ場合……」


「その前に!」

時雄が遮り金棒を突き立てた。地面の血溜まりが蒸発する。

「まずは地獄のルールブックを読む時間が欲しいんだが」


羅夢が噴き出した。

「ルールブック?貴方らしいわね!」彼女が時雄の耳元に唇を寄せる。「そんな暇があったら……もっと実践的な勉強はどう?」

鬼特有の吐息が頬を撫でる。彼女の指先が鎧を思わせる着物の襟元をわずかに緩めた。

「馬鹿やめろ!こんなとこかぐやがみたら…」とかぐやの方をちらっと見ると軽蔑したような顔でこちらを睨んでる。

「ひぃ」思わず声が出てしまった。


イザナミの哄笑が響く。

「千年の期限は刻まれた!さて鬼女よ」彼女の視線が羅夢に刺さる。「約束は違えるな?」


羅夢は微笑みながら軽く首を傾げた。彼女の黒髪が血の池に触れてわずかに濁る。「もちろんですわ。約束は地獄の法律も同然」

「ただし……」彼女の翡翠色の瞳が細くなる。「期限を破ったら私は喜んでダーリンのモノになりますけれどね」


かぐやの顔から血の気が引いた。着物の袖が震え、氷のような冷気が周囲に漂う。

「そこ!にこにこして言わないでください!」

イザナミ「羅夢とやら色欲地獄で働いておるらしいのう。約束が守られ千年後に神人と色欲鬼の夫婦もまた一興じゃ」


## 地獄の檻と約束の鎖 (続き)


羅夢の挑発的な笑みがかぐやを直撃する。

「色欲鬼の妻……?」かぐやの頬が桜色に染まり、着物の袖を握りしめる。「時雄さん!どうするつもりなの!」


時雄が金棒を地面に突き刺し、羅夢と向き合う。

「お前の目的は転生することだろ?夫婦になれとかいう契約は要らないはずだ」


羅夢が黒髪をかき上げて妖艶に笑う。

「あらあら冷たいわね」彼女の翡翠色の瞳が細くなる。「でも地獄のルールでは契約不履行のペナルティがあるの。私としてはダーリンと一緒に過ごせるならどちらでも構わないけれど♡」


イザナミ「まあ、よい。わしの要件は済んだ。さらばじゃ」いずこへ消え去ってしまった。そしてヒミコとかぐやの姿も見えなくなった。

「ふぅ。やっと自由の身になった。お釈迦様の場所も解ったし羅夢はどこかへ行っていいぞ。後は俺一人でなんとかなる」時雄は言った。


「俺一人で?」羅夢が黒い着物の裾を翻した。「冗談じゃないわ」


時雄が怪訝そうな顔を上げる。革ジャンの背中が汗で湿っている。

「どういう意味だ」


「千年以内に転生能力を習得するなんて無茶よ」羅夢が時雄の金棒に指を這わせる。彼女の爪が鉄を掻く音が不気味に響く。「地獄には『階段』なんて簡単な表現じゃ済まない修羅場があるの」


彼女の翡翠色の瞳が血の池を映した。

「でもダーリンは……私の助けが必要よね?」

長い黒髪が肩から滑り落ちる。その動作があまりにも艶めかしい。


時雄の喉仏が上下に動いた。懲罰房で培った自制心が揺らぐ。

(くそ……こんな感情かぐやにバレバレなのに…)


#### 同時刻・ヒミコ邸地下室


水晶モニターの映像が荒れる。羅夢の接近に反応してかぐやの氷力が不安定になっているのだ。


「まずいわね」ヒミコが紅茶カップを置く。銀髪が淡く光る。「羅夢の色香に当てられれば懲罰房の機能も歪む」


#### 再び・時雄と羅夢

遠くから3メートル程もあろうかと思われる鬼が一匹時雄に向かって走ってきた。

時雄は身構えたが今度は殺すことは出来ないためどうしたものかと考えた。


## 血の池地獄 ~鬼女の罠~


時雄が金棒を構える前に、羅夢の細い腕が素早く動いた。


「おバカさん♡」


彼女の長い黒髪が鞭のようにしなり、突進してきた巨鬼の足首に絡みつく。

「ほいっと!」


髪の毛が鋼線のごとく収縮。巨鬼のバランスが崩れ――


ドォン!

地響きと共に鬼が頭から血の池に沈んだ。濁った赤色が飛沫を上げる。

「なっ……!」

時雄が唖然と見つめる。金棒を持つ手が緩んだ。

羅夢が笑いながら髪をほどく。黒い絹糸のような髪が宙を舞い、一滴の血もついていない。

「これくらい朝飯前よ」彼女が時雄の革ジャンにすり寄る。「地獄の案内人を侮らないでね♡」


鬼がゆっくりと立ち上がり

「違う、違う、危害を加えに来たのではない。閻魔様の命令であなたを一刻も早くお釈迦様の所へ連れて行くよう命令されてきたのです。なので羅夢殿は速やかに現場へ戻るようにとのご命令です」



## 地獄の旅路と閻魔の導き


「閻魔様のご命令?」

時雄が金棒を下げた。革ジャンの襟が風に揺れる。目の前の巨鬼は膝まで血の池に浸かりながら恭しく一礼した。

「左様。『無駄な争いを禁ずる』との厳命でございます」

羅夢が翡翠色の瞳を細める。

「あらあら閻魔様もお気遣いなことで、でも案内は私がするからと閻魔様に言っておいてちょうだい。あなたは必要ありません」

「閻魔様は私にさせろと…」

「ほらほら、閻魔様のご命令だ。羅夢は帰った帰った」時雄は手でほうらくするような動作をした。


## 血の池地獄 ~鬼女の抵抗~


羅夢の翡翠色の瞳が鋭く光った。「閻魔様の命令でも従えないわ」


黒髪が蛇のように蠢く。血の池から立ち上がる水滴が彼女の周りで霧のように舞った。

「ダーリンは私の大事な……お客様よ」


巨鬼が低く唸る。「閻魔法廷に楯突くつもりか?色欲地獄の鬼風情が」


時雄が慌てて両者の間に割り込む。

「待て待て!羅夢、お前が無理に付き合う必要はない。地獄のルールを知り尽くした案内人が必要だとは言ったが……」

革ジャンの袖で汗を拭う。彼女の表情が泣きそうに歪んでいる。


突然──


「あらあら、お取込み中?」


冷涼な声が空間を切り裂いた。血の池の表面が鏡のように凍結し、その上に立つ銀髪の美女が現れる。

「ヒミコ様!?」


ヒミコの碧眼が三人を睥睨する。

「閻魔様のご意向は絶対よ。羅夢ちゃん」彼女の扇子が一閃。「地獄の秩序を乱すようなら……」


翡翠色の瞳がかすかに震えた。羅夢がゆっくりと膝をつく。

「……承知しました」


氷の床が割れ、彼女が沈んでいく刹那──

「千年内に必ず会いに行くよ」

時雄の呟きに黒髪がわずかに揺れた。


巨鬼が敬礼する。「これより釈迦如来様の元へご案内いたします」


時雄は革ジャンの襟を正した。金棒が血の池の上で鈍く輝く。

「よろしく頼む」


二人の背後で、かすかな氷の欠片が舞った。遠い未来の約束のように。


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