惑星タウリ④
時雄はペンを持つとスラスラと解答を書き始める。その速度は普段より明らかに早い。高柳は驚いて目を丸くする。
高柳:「嘘‥信じられない。全部合ってる」
時雄:「ええ、本当ですよ」
高柳:「どうしてそんなことができるの?アンタって天才だったのね」
時雄:「はい‥。でも先輩に言われて嬉しかったです」
高柳:「そうなの?てっきり嫌がってるのかと思っていたわ」
時雄:「そんなことはないですよ。ただ先輩が俺に勉強を教える理由が分からないです。なんで俺なんですか?他にも沢山いるはずなのに」
高柳:「だってアンタと付き合ってると絶対宇宙飛行士になれそうな気がするのよね。絶対コネがある気がするし」
時雄:「そんなものは俺にはないですよ。勘違いです」
高柳:「いいえ。きっとあるはずよ。でないとこんな事しないもの。だって私より詳しいもの!」
時雄:「……」
高柳:「ねえ、お願い。私に協力してほしいの」
時雄:「でも、俺にはどうすることもできませんよ」
高柳:「お願い!私に力を貸して!ね?」
時雄:「わかりました。努力はしますけど約束はできませんよ」
高柳:「それでもいいわ。ありがとう。感謝してる」
時雄:「どういたしまして(あー面倒くさい。どうすればいいんだよぉぉ)」
時雄はそう思いつつも仕方なく協力することにした。
時雄が高柳と二人で行動すると周りの男性陣からのヘイトが半端ではない。
自分よりも圧倒的にカッコいい男性陣からの嫉妬と嫌がらせを受ける。
まあ、陰口程度なのでスルーできるのだが……
高柳:「ふぅ~ん。やっぱりね。アンタモテない理由はそれじゃない?」
時雄:「……(知ってるよ。そりゃもう痛いほど!)」
高柳:「ほんとにもったいないわね。アンタって器用なのにどうしてそんなに不器用なのよ」
時雄:「……」
高柳:「何か言いなさいよ!」
時雄:「すいません……」
高柳:「謝罪は要らないから理由を教えなさいってば!」
時雄:「……わかりません」
高柳:「もういい!分かったわよ。代わりに私から言い渡すわ。今日から毎日一緒に登校しましょう」
時雄:「……」
高柳:「何黙ってるのよ!文句があるなら言ってみなさい」
時雄:「いや、ないですけど……」
高柳:「じゃあ決まりね。明日から一緒に行くわよ。忘れたら承知しないからね」
時雄:「はい……(最悪だ……)」
時雄は心の中で呟いた。
次の日から宣言通り高柳との登校が始まった。その光景を見た生徒たちは口々に言葉を漏らす。
男性生徒A:「おい!見たか!あの野郎」男性生徒B:「ああ。見たぜ!見たぜ!あれってやっぱ付き合ってるのか?」男性生徒C:「間違いねぇだろうな」
女性生徒A:「えー!?マジー?あんな冴えない男のどこがいいのー?」女性生徒B:「ホントそれ!趣味悪いんじゃな~い?」
そんな声が聞こえてくる。
時雄は俯いたまま歩き続けた。すると横から肩を叩かれ顔を上げる。
高柳:「何下向いて歩いてんのよ!前を見なさい」
時雄:「はい……」
時雄は再び歩き出す。しかしどうしても周囲の声が気になる。時折、ひそひそ声も聞こえてくるので余計に意識してしまう。すると隣の高柳が口を開いた。
高柳:「あのさ、あんまり気にしないほうがいいわよ。ああいう連中は相手にしないことよ」
時雄:「はい……」
高柳:「それから……あんまり自分のことを否定しない方がいいわよ。自信を持つべきよ」
時雄:「わかりましたから…あんまりくっつかないでもらっていいですか?」
高柳:「えっ!?ごめんなさい。気付かなかったわ」
時雄:「いえ……」
高柳:「あらやだ。私たちってまるで恋人同士みたいじゃない!ちょっと嬉しいわ」
時雄:「……(勘弁してくれよ……)」
時雄は心の中で呟いた。
時雄と高柳の交際疑惑は瞬く間に広まっていった。時雄にとっては迷惑極まりないのだが相手は超有名人の高柳であり周りは彼氏候補だと思っているようだ。
時雄としても断るのも面倒なのでそのまま放置することにした。
高柳はというと逆に嬉しそうに振舞っていた。時雄との噂が流れ始めてからは毎日のように絡んできた。
放課後は二人で図書館に行き勉強したり、休日には遊園地に出かけたりした。
そして、ついにその時が来た。文化祭である。
各クラスで出し物の準備を行っている最中だ。
時雄:「いやー、俺達には関係ないことだから適当に掃除してるけど先輩はクラスで大忙しみたいですね」
真田:「ああ。特に女子生徒たちは張り切っているな」
亮太:「去年までとは打って変わって楽しそうです」
真田:「それにしても高柳先輩は本当に楽しそうだな」
亮太:「そうですね」
時雄:「あの人にとってはお祭りみたいものだからね。大好きなんだと思うよ」
真田:「そんなもんなのか?」
亮太:「そういうものなんですよ。女の人って」
時雄:「まあ、そんなものでしょう」
真田:「それにしても、最近お前、先輩と仲いいよな。付き合っているのか?」
時雄:「まさか‥付きまとわれてるだけだって」瞬間、男どもからどつかれる。
真田:「こいつー。何贅沢なこと言ってんだ」とネックブリーカー炸裂。
亮太:「俺も怒らせちゃいますよ」とマウントをとってボコボコに殴る。時雄:「ちょ……待って‥」
真田:「誰のせいだと思ってんだよ。お前みたいな奴に奪われるとか屈辱過ぎるだろ」
亮太:「本当ですよ。羨ましすぎます」
時雄:「すまん……」
真田:「謝るぐらいなら最初から言うなよ。ほんと腹立つぜ」
亮太:「全くですよ。反省してください」
時雄:「はい……」
真田:「よし、許してやる」
亮太:「良かったですね。解放されましたよ」
時雄:「ああ……(こいつら酷すぎるだろ……、でも自分も持てない君だったから気持ちはわかる‥そうだよな。神人の能力なきゃ絶対見向きもされんからな‥)」
時雄は心の中で呟いた。
高柳が来て「アンタたち、何やってるのよ!」
真田:「すいません。ちょっとした戯れで‥」
亮太:「申し訳ございませんでした」
高柳:「まったく……もう。時雄、大丈夫?」
時雄:「……はい」
高柳:「じゃあ、今度こそ真面目にやるのよ」
時雄:「ええ……」
時雄は返事をしながら立ち上がり再び掃除に戻った。
時雄は気付いていないが、高柳は密かに時雄に好意を持ち始めているようだ。時雄が高柳のことを好きではない、いや正確には恋愛対象になっていないということも知っているのだが、それでも構わないと思っている。
もっとも高柳に惚れられても厄介なのは目に見えているたが。
高柳は時雄に興味を持っている、いや既に好きなのだという気持ちを無意識に抑え込んでいる状態だ。
しかしそうこうしているうちにさらに厄介な事態に進展した。神人である時雄のオーラに長い事浸かっていたため高柳の体に少しずつ変化が現れはじめた。
最初の異変は脚力だ。身体測定の時になんだか体が軽いなと思いつつ走ったがどうにも地に足がついてないような感覚でフワフワして走りにくい。それなのに10秒02というタイムを女性ながらにたたき出してしまったのだ。
高柳自身はこれにはびっくりしたし先生たちもビックリした。
何せ陸上競技をやってる男子高生でさえ10秒2ぐらいで10秒切れば陸上の日本代表にもなれるレベル。この事実は彼女の中に小さな不安の芽を植え付けた。
高柳:(え?何このタイム。調子がいいというより凄く走りにくかったのに…これって体が本調子だったら‥)と自分が化け物にでもなったのではと本気で悩み始めた。
そして覚悟を決めて時雄に相談することにした。




