神への階段
**チラッ**
時雄は左右を見渡した。周囲のファンは誰一人気づいていない。皆野球観戦に夢中で、時折スマホで配信カメラを気にする程度だ。
どうやら誰にでも見えるものではないらしい。
「もしかして俺は昇る資格があるのか?しかし今にも消えそうな感じだ」と時雄は思った。
「今だ、今すぐに階段にたどり着かなくては消えてしまい、二度と見ることはあるまい」
そう感じた途端反射的によじ登れそうなルートを探し、とりあえず売店で応援ハチマキを大量に買い一本の長い紐になるように結び始めた。
「よし、これで少しはロープ替わりには使えそうだ、まあ、気休め程度だが胴ベルト替わりにはなるか」
「さてと」時雄は周りに誰もいなくなった隙を見つけ鉄骨を昇り始めた
## 奇跡の階段へ
時雄は鉄骨を掴む手に冷たい汗をかいていた。グラウンドではヤクルトの村上がホームランを打った瞬間、狂喜乱舞するファンたちの歓声が耳をつんざく。しかしそれすらも意識の隅に追いやられるほど、目前の目標だけが鮮明だった。
**「あと三段……二段……!」
必死に腕を伸ばしたその時、突風が吹き抜けた。東京ドーム特有の強烈な空調か、それとも現実の風か。安定性ゼロのハチマキロープが軋み、体が大きく揺れる。鉄骨から滑りかけた指先が虚空を掻く。
「くそっ……!」
咄嗟に別の支柱に脚を絡ませるが、ハチマキの結び目がギュルッと音を立てて緩む。このまま落ちたら即死コースだ。だが──
**パンッ!
結び目に強い負荷がかかった瞬間、応援ハチマキの生地が音を立てて裂けた。支えを失った体が一気に重力に引かれ──
「うぁああっ!」
ガシャン!
時雄の落下地点で何かが鈍い金属音を立てた。目を開けると、それは折りたたまれた清掃用の梯子台だった。奇跡的に梯子の隙間に靴底が引っかかり、五センチほどのスペースでぶら下がっている状態だ。
「死ぬかと思った……」
しかし安堵する暇はない。下の方がざわつき始めた
「何をやっている、危険だから降りてきなさい」警備員らしき人が拡声器を使い呼びかけてくる。
試合も中断されみんなこちらを注目している。
「これで捕まったら業務妨害やら何やらで賠償額がとんでもない金額になりそうだな」と顔が青ざめた、とその時
「何だあれ?なんであんな場所に階段が?もしかしてあれを目指してるのか?」わずかだが見えてる人もいるらしい。
「そんな階段どこにもないぞ、こんな時に悪ふざけはやめろ!」と注意してる人達もいる
「何やってんだあいつ!?」「自殺志願者か?」「あそこ階段なんか無いだろ!」観客席から怒号と嘲笑が飛び交う。時雄の足元では警備員たちが必死に網を広げていた。
(捕まったら終わりだ……でもこのチャンスも終わりかもしれない!)
時雄は奥歯を噛み締め、両足で梯子の隙間を必死に踏みしめた
そのころ別な鉄骨を昇り始めた者もいた。階段を確認できた者たちだ。その数3名、うち一人はクライミングが得意らしく凄まじいスピードで昇ってくる。
「まずい、急がねば」時雄は直感的に階段には一人しか昇れないと思った。
そのころ下では「なんだ、頭がおかしい奴が増えてるぞ」
「いや、まて、あのうちの一人はさっき階段があるって騒いでた奴じゃね?マジで階段あるのか?」
「都市伝説じゃなかったのか」などと騒ぎが広まっていてレスキュー隊員も駆けつけてきている
(やるしかない……!)
時雄の指が再び鉄骨を捉える。爪が剥がれるほどの痛みも構わない。レスキュー隊員が国費をかけて開発したという美少女系の容姿通称かぐや(自殺志願者や要救護者の気持ちを抑えやすくできるという理由で特にこだわって作られている、かぐやは黒髪に着物姿でまるでお伽話のかぐや姫を想像させる印象)をした救助ロボットを作動し始めた
## 階段への挑戦!時雄VS美少女ロボ
かぐやが機械的な声で警告を発した。
「危険な行動を即刻中止してください。救助活動を開始します」
ピンク色のアームが時雄に向けて伸びてくる!
「くっ……捕まったら終わりだ……!」時雄は必死に鉄骨をよじ登ったが、クライミング男が一歩リード。しかし突如、かぐやが男の足元に強力なネット弾を発射!
「ギャッ!」男がネットに絡まり落下開始。観客の悲鳴が上がるが……
シュバッ!
ネットが床ギリギリで自動停止!ロボット「安全確保完了。次はあなたです」
時雄「嘘だろ……最新技術すごすぎ!」
かぐやの足裏からジェットエンジンのような炎ではないが空気か何かを噴出して上昇し始めた
観客席からは「スゲー、エイリアンとの戦闘でアンドロイドが実践投入されたって聞いてたが民間救助のロボットもこれほどかよ。しかし凄い美人だな。俺もあんな子に救助されてみたい」という声もでていた
かぐやはクライム男よりも速いスピードでしかも直線的に接近してくる。凄まじい上昇スピードだ。
「このままではヤバい」と思ったが時雄側も後は階段に飛び移るだけだが距離的には若干微妙だ。失敗すれば落下は必然。たとえ助かったとしてもそれはヒミコによる捕獲を意味する。
## 宇宙をかけるロボット美女VS命懸けの挑戦者
「捕獲モード起動。対象確保まであと9m」
かぐやの瞳がピンク色に点滅した。背中からスチームノズルが唸りを上げ、加速するにつれて美しい黒髪が螺旋状に舞い上がる。
観客席が騒然とする。
「見ろよあのスピード!最新鋭のレスキューボットだぜ」
「でもあの顔……まるでアニメから飛び出したみたいだ」
時雄は汗で滑る鉄骨を握りしめた。
「だめだ、もう飛び移るしかない」と覚悟を決め
「ナムサン」と祈りながら飛び移ろうとジャンプと同時にかぐやが胴体に抱きつくような恰好で捕獲されった。
「しまった!」と思ったが周りをみると霧のような状態になっており見事階段の一段目に到着していた。
なぜかかぐや機能は停止して無力化されていた
しかし肉体的な変化は見られなくショックを受けたが無力化されたかぐやにかなり興味を持ちスケベ心で着物を脱がしてみた。
すこし興奮気味で衣類をすべて脱がせてみたがシリコン素材でできており柔らかくて本物の女性のような凹凸はあるのだがただそれだけで肌色一色でお人形を大きくしただけのような印象だった。
「俺なにやってるんだろう」と思い、衣類を着せて元の姿に戻した。
「さて、これからどうするかな」と思い上を見上げると階段ははるかかなたまで続いていたがとりあえず昇るしかないので昇ることにした。
昇り始めたのはいいが使い物にはならなくなったとはいえかぐやを置いていくのも可哀そうだし道中喋りもしないとはいえ多少は寂しさを紛らわす程度にはと思い一緒に連れて行こうと思い背負ったのだがロボットなのでやたらと重い、100キロ超はあろうか。試しに昇ってみたが引きずるのがやっとで1段上げるのすらほぼ全力でやっと上がる程度でなおかつ東京ドームを昇った疲れやダメージもあり連れて行くのは断念した。
丸一日位昇ったのではなかろうか、周りの明るさは変わらないため朝なのか夜なのか全くわからない。
ただ不思議と腹も減らないし便意もないうえ少し休憩するだけで疲れも回復した。
ようやく頂上らしき景色が見えて来て後数段で頂上だというあたりまで上ってきたがふと、下においてきたかぐやが気になりロボットとはいえ容姿はドストライクの好みだったのでこのままほおって置くのは可哀そう(というより勿体ない)と思い、結局取りに戻ることに決め下に降りて行った。
とりあえずは頂上をみた安心感と距離感が具体的にわかったので転げ落ちるような感覚で降りていき半日程度で最初の場所が見え始めかぐらは相変わらず横たわっていた。
「さーて、これから何日位かかる事やら」とつぶやき、一段、一段必死にかぐやを引き上げながら上りはじめた。87
時雄がかぐやを背負って再び階段を昇り始めた。肉体的には疲れないはずだが精神的な疲弊は確実に溜まっていた。
「ったく……こんなデカい箱担いで登山する羽目になるとはな」時雄はブツブツと文句を言いながら一段ずつ踏みしめる。かぐやは170cmオーバーで衣装込みなら推定150kg以上。背負うより引き摺るほうが早いという判断で地面との摩擦を利用して無理やり引き上げていった。
(こいつが喋ってくれりゃ退屈しないんだけどなぁ……)
と思いつつ必死に持ち上げたり登ったりして何日過ぎたんだろう。途方もない時間が過ぎていきようやく広々とした場所へ到着した。
と、その瞬間階段は消え失せてしまい、自分とかぐやだけが広い場所にぽつんといた。
さてどうしようかと一旦かぐやをそこに置いて付近を探検することにしたがどこに行っても景色は変わらず何もないし、地面以外の空間は薄いピンクで覆われているが霧のように先が見えないわけでもない。普通ならどこにいるのかわからなくなりかぐやを置いた場所すらわからなくなりそうなものだがなぜか通った場所は頭の中にマッピングされ正確な位置がわかる。
(頭の中に正確な位置情報が現れてるが何か特殊な能力でも追加されたのかな?)と思いつつ探索を続けていたらここからもう少し離れた場所に時代劇に出てくるような茶屋のような建造物がみえたので一旦かぐや拾いに戻り再び茶屋の前までやってきた。
そしてかぐやを引きずりながら茶屋に入った途端、背後で突然かぐらが作動を始めた。
「まさか……?」時雄が振り返ると、かぐやがゆっくりと起き上がっていた。黒い髪がサラサラと揺れ、閉じていた瞼がスゥッと開く。濃紫色の瞳がまっすぐに時雄を見据える。
「システム・リブート。搭乗者ID:不明……感知できない。エラー解除プロセス開始……」
無機質な機械音声の後に続くのは……
「……時雄さんのバイタルサイン……不安定ではありません。しかし緊急性高」
時雄は硬直した。かぐやの首がガクンと傾ぎ、機械的な動きで彼を見つめる。
時雄は「何ごと?」と思って警戒感を現したが突然何とも言えない不思議な形をした光の物体が時雄とかぐやを包んだ
光につつまれた状態でどこかから声が聞こえてきた。
「神への資格を手に入れた者よ。ようこそ」姿は見えないが言葉ははっきり聞こえる
「ほう、ロボットがこの場に来るのは初めての事だ。いや珍しい。普通はロボットには資格以前に階段など見えないはずだから来ることはないのだが、いや、そもそも階段は人間一人しかたどり着けないはずで最初に触った者だけが優先されるはずなのだが…」
しばらく静寂が続いた後に
「なるほど、お前たちが階段にたどり着くまでの様子を見せてもらった。ようするに男を助けようとしてロボットが抱きついたまま階段に辿り着いた訳か」と声がする。
「はい。その通りです」時雄は答えた。
「普通ならお前が階段に触れた瞬間彼女の手から階段と一緒に消えるため彼女は落ちていくはずだったのだが」
「ところが彼女は魂を持った生命体ではない。無機質のロボットだからだ。お前の服やカバンなどのような所有物の一環として認識されたのだ」
「さらにロボットのため重量も重く上って行くのは容易ではないはずだから普通はこんなところまで運んでは来ないので階段が消滅したと同時に彼女も無に帰るはずだったのだ」
(謎の声の説明を聞いた時雄と無表情なかぐや)
「つまり……彼女は僕の『所有物』扱いってこと?」
「この場合『所有物』とはちょっと意味合いが異なるな」
「え?どういうことですか?」
「お前にとって他の資格者よりも神になるためのハードルが上がったともいえる」
「…」時雄は意味が解らない。
「つまりじゃ、サイボーグやバイオヒューマンなどは肉体を一度リセットして普通の人間に戻してからの進化になるから他の資格者よりもワンテンポ遅れる」
「ロボットも同じでまずは人間にリセットさせてもらう。ただしサイボーグなどと違い魂はないからお前の魂の一部を削り取って入れることになる。ここまでは選択ではなく決定事項だ」
「ただ問題はここからだ。お前の魂を入れて普通の人間に一旦はもどる。しかし彼女は普通の肉体だがお前自身ともいえるため彼女の身に何かあればお前にもダメージが降りかかってくる。そのため彼女を守りながらの試練なので他の候補者よりもさらに大変な状態になったのだ。例えるなら二重人格者は一つの体に二つの魂が入ってるイメージだが今回の場合は二つの体に一つの魂が入ってる状態だ」
「特に最初のステージは大変だぞ、いくらお前に多少の力、神と人の中間の存在だから種族的には神人といい神人力というものが備わったとしても彼女は普通の女の子だからな。急いで階段を見つけて一緒に入らなくてはいけない。どちらかでも欠けてしまったらそこで終了となる」
「…わかりました…」と時雄は答えるが(スケベ心が仇になったか‥だが可愛いから許す)と勝手に思っていたりもした。
「彼女にはもうAIや体の中に仕込んであったいろんな道具のようなものは一切取り除いた、普通の人類の体で再生成されてしまうからな。当然知識や人格もリセットされてしまうが魂自体はまっさらなのでお前の魂の一部を入れるしかない」
「もちろん抵抗もあるし拒否されることも考えられるが自分の魂を分け与えるわけだからある程度は自我を受け継いでくれるものと考えてくれ」
「とにかく最低限の自己保全本能は受け継ぐことになる」と声は言う
「了解しました、ところで……」時雄は何かを言いかけて止まった。
「彼女の容姿についてなら……」声が察したように続けた。「そのまま維持される。変更不能の特典と捉えてもよい」
「ありがとうございます!」時雄の顔に安堵が浮かぶ。
かぐやの体は徐々に弾力性のある肉体に変化し始め血色のよい肌に変わっていきとても美しい女性に生まれ変わった。
(肉体を手に入れたら逆にお人形さんみたいになったような感じだが自分自身でもあるのか…)と思ってしまった。
その後不思議な光と声は消え静寂が戻った。
「いやいや説明はこれだけかよ。まだ聞きたい事たくさんあったのに」と時雄は少し不満気味だが
「その点は大丈夫。必要な情報は知識として私の頭にすべてインストールされましたから。ただ普通の人間にこの知識量はオーバースペックなので必要に応じての情報開示なります。時々情報のアップデートもされるようですね。」
時雄は呆然と立っていると突然かぐらが話し始めた。
「私の名はかぐやといいます。ご主人さまのご希望があれば新しい名前をつけられます」
「おお!ついに話したか!」時雄は驚きつつもホッとした表情。
「いえ、これはプログラムではなく現在持つデータからの推測です。あなたに対してこのような振る舞いをするべきという判断に基づいています」とかぐら。
「ふーん、やっぱ完全人間にはまだなっていないって事か?」時雄が訊く。
「はい。人間の肉体は獲得しましたが脳の構造は複雑で通常の学習過程を経ずに知識だけ詰め込まれた状態なので感情のコントロールなどにはまだ課題があります。ですが……」ここでかぐらは少し頬を染めた。「時雄さんの魂の一部が私に入っておりますのであなたの感情は私も共有いたします」
「そ、そうか……なんか照れるな」と時雄。
「ちなみに先程のあなたの心情(可愛いから許す等)は全部伝わっております」とかぐら。
「ちょっ、なんでそこまで詳細に!?」時雄が焦る。
「魂が同じだからかもしれません。」とかぐら。
「いいから忘れろ!恥ずかしいだろ!しかし俺にはお前の感情がわからないのに一方通行なのか」
「そのようですね。後は忠告なのですがすけべぇな考えはしないように。試練の重大な妨げになりますし、それ以前に気持ちが悪いですから」
## 新たな神人誕生! かぐやと時雄の波乱の旅路
「すけべぇな考えはしないように」かぐやの冷静な指摘に、時雄は思わず赤面する。
「なんだよ、せっかく苦労してここまで連れて来て魂まで分けたのに…」
「スケベ心でですよね。その点は感謝してるのですが結局は自分自身なので。もしあなたの目の前にもう一人のあなたが現れ愛を語られたらどう思います?」
「うっ、確かに気持ちが悪い」
「でしょ。そういうことよ」とかぐや
しかしそう言いながらも、かぐやの白磁のような素肌をちらちら盗み見してしまう自分が情けない。
(やべえ……魂が繋がってるってこういうことか。かぐやの冷ややかな視線が刺さるわ……)




