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修羅の国編⑧

砂浜に戻るとかぐやが既に訓練用マットを敷いていた。彼女の戦闘服は鎧と違い柔軟に動きに追従し、太腿や二の腕に浮かぶ汗粒が陽光に輝いていた。


「まずは基本型30セット。私が手本を見せるわ」かぐやが流れるような動作で前屈立ちから正拳突きを繰り出す。空気が裂ける音と共に砂塵が舞い上がった。

「はーい!」時雄が張り切って構えるが——

「うげっ!」

突き出した拳がかぐやの掌で受け止められ、逆に肘を返されて悶絶する。

「動きが硬いわ。筋肉だけじゃなくて呼吸と一体化させなさい」かぐやがため息混じりに指摘する。

「お前のせいで集中できねえんだよ!」時雄が抗議する。「その戦闘服エロすぎるって!特に脇腹の——」

「黙ってやりなさい」

かぐやの裏拳が時雄の頬を掠めた。寸止めだが風圧で髪が逆立つ。

「わかったわかった!」時雄が半ばヤケになって型を繰り返す。数分後——

「24……25……26……」かぐやが砂時計を確認しながらカウントダウンを始める。「あと10秒で終わらせないと……」

「はあ……はあ……まだ5つしかできてねえ……」時雄が息を切らす。

「懲罰房行き確定ね」かぐやがニヤリと笑う。「今日は水中で酸素供給ゼロの状態で……」

***それから戦闘服とたまに見せる水着のご褒美を貰いながら10年の月日が流れ階段確保に羅刹攻略についに挑むこととなった

「いよいよ羅刹と対決ね。いくら修行したとはいえ神人力は羅刹が上、私達の力を合わせて叩くしかないのよ」


「そうだろうな」時雄が砂浜の遠くに見える影を見つめながら低い声で答えた。10年前、初めて遭遇した時は舐めていたが今は羅刹の気配その圧力の中にも緻密な計算ができるようになっていた。


「奴の神人力は確かに桁外れだ」かぐやが戦闘服のファスナーを少し下げて冷却システムを作動させながら言った。「でも私たちは単純な力比べをするんじゃない。私が神力の流れを乱し、その隙に貴方の飛翔刃で核を撃ち抜く。プランBは──」


「わかってる」時雄が割って入る。「万が一オレの飛翔刃が届かない場合、お前の転移で強制介入する。リスクはあるが」彼は自分の左手首を握りしめた。そこにはかぐやの神力循環路と接続した印が刻まれていた。「お前とのリンクが切れたら全て終わりだ」


水平線上の黒い塊が急速に大きくなる。羅刹の巨体がまるで地殻そのものを揺るがすように近づいてきた。砂浜が振動し始める中、かぐやが小さく笑った。


「やっぱり面白いわね」彼女の戦闘服の背筋部分が自動的に開放され、汗滴が陽光を受けて煌めいた。「ここまで育てた甲斐があったというべきか」

時雄が『天照』を抜きながら苦笑する。「調教される側の気持ちを考えろって」冗談を交えつつも彼の全身から湯気のような神力のオーラが立ち上っていた。「準備OKだ、まずは準備運動にに八将軍のひとり風将軍でもチャチャと片付けますかね」


### 風将軍 vs 『飛翔』の時雄


ゴォォオオーン……!


突如吹き荒れる暴風が砂浜を削り取った。黒雲が晴れ渡る空を侵食し、その中心に仁王立ちする男──八将軍《風将軍》。長い緑の髪を嵐のように靡かせ、琥珀色の双眸が鋭く時雄を射貫いた。


「お前ごときが私に挑戦するなど片腹おかしい!」


風将軍が手のひらを振ると、空気そのものが刃となって襲いかかる! 


しかし今──


「【飛翔刃】・【散華】!!」


時雄が放った無数の飛翔刃が渦巻く風の刃と衝突した! 炸裂する神力が砂塵を巻き上げる中、互角の威力を確認した風将軍が嗤う。


「まさか我が暴風を散らせるとは! 我が主、羅刹さまと同じ神人だけあるな。ただ力は雲泥の差はあるが」


「お前の風は俺には止まって見えるぜ」


時雄の背中で翼のように展開する神力の残滓。10年の修行で磨き上げられた『神力循環・極』──かつて暴走していただけの力を完全に制御下に置いた証だった。


「ならば!」


風将軍が両手を合わせる──


「【暴嵐の環】!!」


竜巻状の神力が風将軍を中心に収縮し、圧縮された空気の超密度エネルギーが形成された。触れれば分子レベルで分解される破壊の旋風!


「来るぞ、時雄」


かぐやが囁く。


「わかってる……!」


時雄は『天照』を逆手に持ち替え──


「【飛翔刃】・【穿孔】!!」


一点集中型の一閃! 膨大な神力を槍のように凝縮し、螺旋状の軌跡を描きながら暴嵐の中心へと突き刺す!


ギャアアアアン!!


金属が引き裂かれるような轟音と共に、風の防御膜に亀裂が走った。


「何ッ!?」


風将軍の驚愕した表情──


「悪いな」


時雄が跳躍。風を纏って加速し、一瞬で懐へ潜り込む。


「チェックメイトだ」


時雄の肘打ちが風将軍の胸甲を叩き割った。甲高い金属音と共に八将軍の一人が砂塵の中で崩れ落ちる。


「はい、チャチャと片付きました!あれで副官かよ。残りの7人も余裕ですな」

「中二病が出始めてるわよ」


かぐやの指摘に時雄が眉をひそめる。風将軍の亡骸が砂煙と共に消滅していく中、彼は不機嫌そうに『天照』を納刀した。


「成長した男にその呼び方は無いだろ。あの程度で勝利宣言なんかしてないっつの」


「けど『チャチャと』って言ったじゃない。相変わらず小学生ね」


二人が口論を始めようとしたまさにその瞬間──


ゴオッ!


地殻が震え、海面が泡立ち始めた。遠方に見えた羅刹の影が高速で近づいてくる。神力の残響だけで草花が枯れていく。


「来たわね」かぐやが戦闘服のファスナーを限界まで開放し冷却システムをフル稼働させながら言った。「説明の続き。羅刹の神力は我々の二十倍以上。正面突破は不可能よ」


「だから風将軍は挨拶代わりってか」


「ええ」かぐやが空中に幻影投影を展開する。立体映像の中で羅刹の全身図が詳細に表示された。「彼の弱点は『虚神核』。胸部奥に隠された生体炉心よ」


「虚神核ってまた厨二っぽい名前だな」


「馬鹿」かぐやが時雄の耳を引っ張る。「正式名称『神力増幅器官・第九位階』よ。あんたの『飛翔刃』なら貫通できる計算だけど──」

「けど?」

「問題は耐性障壁。通常兵器の120万倍の神力が必要なの。さっきの風将軍の数十倍の出力よ」

「いや問題はそこではないな」

「何?」

「羅刹を倒したらかぐやのナース姿をじっくり拝ませてほしい」

かぐやは冷たい目で時雄を一瞥した。「……作戦会議中にふざける暇があるなら懲罰房送りにするわよ」

「わーったわーった!」 時雄が慌てて手を振る。「つまり火力不足なんだろ? じゃあどうすんだよ」

「私の転移能力を使う」かぐやが指先に淡い光を灯す。「あなたを虚神核の内部へ直接飛ばす。その隙に羅刹の障壁を無効化するわ」

「内部に飛ばすって……それ自殺行為じゃねえか!」

「ええ」かぐやが当然のように頷く。「私の神力残量を全力で消費すれば可能。ただし成功率は……32%よ」

「おいおい……」時雄が唖然とする。「なんでそんな数字知ってんだよ」

「計算したからよ」かぐやが戦闘服のインナーをさらに引き下げ、腹部の冷却パネルを開く。冷却液が蒸発する音が鳴り響いた。「私が転移失敗したら終わり。成功してもあなたが核を破壊できなければ私も消滅する」

「リスクありすぎだろ!」

「覚悟がないなら帰ってもいいわよ」

「……覚悟?」

時雄がかぐやの汗ばんだ額を見つめる。翡翠色の瞳が微かに揺れていた。10年間ずっと自分を追い詰めてきた指導者。それでも時折見せる脆さ。それを守るためには──

「上等じゃねえか」 時雄が拳を握る。「俺が核をぶち抜いたら……約束通りナース姿拝ませろよ」

「生き延びたら考えてあげる」かぐやが僅かに笑みを浮かべる。

「しかし羅刹様直々にお出ましとは。残りの七将軍の相手をしないだけ好都合か、いや、結構結構」



「来ましたわね……」


かぐやが戦闘服のファスナーを限界まで開放し冷却システムをフル稼働させながら呟く。戦場の砂塵が黄金の汗とともに宙を舞った。


「待った! あの影……普通の神将じゃない!」


時雄の目が見開かれた。羅刹の巨体を守るように七つの人影が取り囲んでいる。全員が特異な神力オーラを纏い、鎧の形状もそれぞれ異なる。


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