修羅の国編⑦
「私の水着やコスプレ諦めるの?」
かぐやの言葉に時雄の脳裏で天使と悪魔が戦う。
(だめだだめだ! こんな無茶な要求飲むわけには……)
(でもあのナース服見れるチャンスが……!)
数秒の葛藤の末、時雄が渋々拳を握りしめた。
「……わかったよ! やってみる!」
「賢明な判断ね」かぐやが満足げに微笑む。「まずは貫通弾。あの岩礁を一点集中で射抜くの」
沖にそびえる巨岩を指さす。
「お安い御用さ!」
時雄が『天照』を構え神力を集中する──
ズドン!
飛翔刃が岩を粉砕するが──
「違うわ!」かぐやが叱責する。「狙いがバラついてる。集中力が足りないの」
「うるせえな! 次は完璧に……」
再び放たれた貫通弾が海中に消え、海底の岩盤を突き破った。凄まじい水柱が立ち上る。
「ひゃっほー!」時雄が歓声を上げるが──
「危ない!」
かぐやの叫びと共に時雄の足元が崩れた。海底の崩落が岸まで及び砂浜が激しく揺れる。
「うおおっ!?」
二人が崖際へ飛び退く刹那、巨大な水流が飲み込もうと襲いかかる。
「まったく……」かぐやの手刀が水流を切り裂く。「神力の扱いが乱暴すぎる。次は拡散型よ」
「まだやらせる気かよ!」
「当たり前でしょ」かぐやが平然と言い放つ。「あの海藻群を一掃してみなさい」
彼女の指示通りに拡散型を放つが──
ボシュッ!
小さな火花が散っただけで標的は健在だった。
「なんで!?」
「神力の拡散を抑えてるからよ」かぐやが冷静に分析する。「もっと派手に」
「派手って……どうやんだよ!」
「自由に想像すれば?」かぐやが肩を竦める。「貴方の好きなヒーロー漫画みたいに」
「なるほど……」
時雄が目を閉じ脳内シミュレーションを始める。次の瞬間──
バァン!
灼熱の爆風が砂浜全体を薙ぎ払い海藻群を焼き尽くす。しかし代償に時雄自身が反動で吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられた彼の顔面に海水が降りかかる。
「まだ足りないわね」かぐやが見下ろしながら言う。「連続使用できないと実戦では役に立たない」
「もう勘弁してくれ……」
「だめ」
かぐやの指が光り時雄の背筋に神力の鞭が走る。痺れるような痛みと共に疲労が和らいだ。
「さあ立ちなさい」
「鬼畜かよ……」
「師匠と呼びなさい」かぐやが優雅に微笑む。「合格したら好きなコスプレ見せてあげるから」
「うぉぉぉ!」
再び立ち上がる時雄。『天照』を振りかざし貫通弾を連発する。命中精度は上がらず──
「もう一回!」かぐやの声が響く。「今度は拡散型!」
ズドン! ガシャン! バーン!
三十回以上の失敗を繰り返した末──ついに理想的な連続攻撃が完成した。
「はぁ……はぁ……どうだ……」
疲労困憊の時雄がかぐやを見る。彼女は満足げに頷いた。
「合格よ」
「やったぜ!」時雄が拳を突き上げる。「約束通りナース服‥いや、バニーガールも捨てがたい、どうせなら両方みたいんですけどよろしいですか?」
「バニーガールも?両方?」
かぐやの眉が危険な角度に釣り上がる。周囲の温度が一気に下降する。
「……貴様」
彼女の背後に神力の炎が螺旋状に渦巻いた。
「欲を掻けば掻くほど」
指先から紫色の雷が迸る。
「ペナルティも重くなると教えなければわからないのかしら!」
「ギャー!待った待った!」
時雄が慌てて土下座する。
「冗談だよ!ナース服だけで!」
「……まぁいいわ」
かぐやがゆっくりと雷の刃を収める。
「とりあえず約束どおりナース服を用意しましょう」
「おおっ!ありがとう!」
時雄の顔がぱっと輝くが……
「ただし」
かぐやの指が鋭く天を指す。
「次のステージはもっと過酷よ。神力循環の習得が必須。それができなければ飛翔刃も単なる無駄撃ちに過ぎない」
「神力循環?」
「神人の血脈に刻まれたエネルギーパターンを制御する技術よ」かぐやが胸の中心を指差す。「貴方の乱暴な発勁では『天照』が泣いてるわ」
「そりゃ大変だな」
「試してみましょう」
かぐやが右手を時雄の胸に当てた瞬間――
「うぐっ!?」
体内で暴れ狂う熱流が血管を焼き焦がす。思わず膝をつく時雄をかぐやが支える。
「これが本来の神力の奔流」彼女の掌から淡い光が漏れる。「貴方の場合……あまりにも無秩序」
「痛いよ!」
「我慢なさい。これからはこの感覚と付き合わなくてはならない」
砂浜に倒れ込む時雄の視界にナース姿のかぐやが現れた。注射器を持ちながら覗き込んでいる。
「薬の時間ですよ~患者さん?」
「えええ!?いつの間に!?」
「任務遂行中ですので」かぐやが氷のような微笑を浮かべる。「この注射には神経接続補助液が入っています。次回以降の循環トレーニングのために」
「マジで言ってるのか?」
「もちろん」
針先が青白く発光し――
「ちょ待っ……ぎゃあああ!」
電流が脊椎を駆け巡る。全身が痙攣し砂を掴みながらのたうち回る時雄。
「貴方の神経系を再構築しています」かぐやの声が遠く聞こえる。「神人の資質を目覚めさせるために」
「こんなん耐えきれねぇって!」
突如、意識が闇に沈む――
白い天井。無機質な照明。そして……
「あら?寝てたの?」
かぐやの声が近くで響く。顔を上げるとナース服ではなく漆黒の鎧を纏った彼女が立っていた。
「ここは……?」
「異界訓練空間よ。現実世界では一年をここで過ごすわ」かぐやが壁に手を触れる。「さぁ本番の修行開始」
「いやいやいやいや、ナースコスプレあれで終わりって事?5分と見てないんだけど…」
「ナースコス?そんなものただの方便よ」
かぐやが嘲笑を浮かべる。
「私がなぜわざわざ恥ずかしい格好をしなければならないの?」
「お前……最初から騙すつもりだったのか……」
「戦士に慈悲など必要ないでしょう」
かぐやが黒い刀を抜く。
「さあ修行再開よ。神力循環の最終段階……『血脈合一』」
「待て待て待て!」
時雄が必死に制止しようとする。
「ちょっと話し合おうぜ!」
「拒否権はない」
かぐやの刀身から紫電が走る。
「貴方の体内にある神力の暴走を止めるにはこれしかないの」
彼女の刀が時雄の胸を刺す――だが痛みはない。
代わりに温かい流れが全身を駆け巡る。
「な……何だこれ……?」
「感じなさい」
かぐやの指が刀を伝う。
「神の血脈を」
時雄の血管が淡く光り始めた。指先から爪先まで青白い紋様が浮かび上がる。
「これが……神力の流れ……?」
「そう」かぐやが満足げに頷く。「この感覚を覚えておきなさい。飛翔刃を使いこなす鍵となる」
「けどよ……」
時雄が恐る恐る尋ねる。
「結局ナースコスプレはどうなるんだよ……?」
「愚問ね」
「‥あの可愛くて純情ぽかったかぐやさんはどこに行ってしまったんだー。人間のかぐやさんに戻ってほしい」
かぐやは刀を引き抜きながら冷笑を浮かべる。「過去の弱かった私を理想視するのは止めなさい。今の私があなたに最も必要な指導者」
「けどよ……」
時雄が俯く。かぐやの人間だったころの温もりが恋しい。
「人間のかぐやさんが良かった……」
「甘えないで」かぐやの瞳が冷たく光る。「あなたが求めるのは弱さ?それとも強さ?」
その問いに時雄が言葉を失う。
「修行を続行するか……それとも終えるか。選択なさい」
「俺は……かぐやを守りたいから修行します……」
(しかしその漆黒の鎧て何?せめて戦闘服に着替えてくれないかな‥これだと色気がない)と思ってしまった
かぐやが黒い刀を鞘に収めた瞬間──
「**は?」**
その一言で室内の温度が氷点下まで急降下する。漆黒の鎧の隙間から覗く翡翠色の瞳が殺気に爛々と燃えた。
「今……またおかしな事を考えたでしょ?」
「いや!その……鎧じゃなくてさ!」時雄が慌てて両手を振る。「戦闘服の方が……こう……プロポーションとかわかるじゃん?」
かぐやが無言で懐から小型端末を取り出す。親指でスクロールすると空中にホログラムが浮かび上がった。訓練記録の項目がずらりと並び「*ペナルティ適用率: 98%*」と赤文字で表示されている。
「承知しました」
鎧の胸部装甲がカチリと解除された。ゆっくりと露わになるのは──鋼鉄の拘束具で締め上げられた戦闘服。皮膚に密着した特殊スーツがかぐやの華奢な腰と豊満な胸のラインをくっきりと浮き彫りにする。鎖骨から首筋へ続くラインが汗で光り、腹部の銀色のファスナーが微妙に下がっていた。
「これでご満足でしょうか?」
「ぎゃあああ!?」時雄が顔を手で覆いながら悶絶。「そういう意味じゃなかったのに!逆にエロすぎるっての!」
「黙りなさい」
かぐやがファスナーをきっちり閉め直す。指先が腹筋を撫でる感触に時雄がびくりと震えた。
「それでは基礎作りに戻ってマーシャルアーツに戻ります」
「はーい。元気出ました。修行に励みます!」




