表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/153

合同討伐の指揮を任された。泣いていいですか?

 合同討伐の指揮を任された。泣いていいですか?


 それは、ギルドの受付で依頼票を受け取った瞬間に始まった。


「複数パーティ合同討伐——大型魔獣グラナドール討伐作戦。参加パーティ数、五。動員冒険者数、二十八名。指揮役——」


 エルヴィンが依頼票を読み上げている。ヴァルゼンは嫌な予感がしていた。嫌な予感しかしなかった。なぜなら、エルヴィンの目がきらきら輝いているからだ。あの目はろくなことにならない目だ。


「指揮役は、参加パーティの中から最も実績のある者が務めること——」


 エルヴィンがにっと笑った。


「ヴァルゼン、お前だな」


(僕だった)


 ヴァルゼンの頭が真っ白になった。


「ちょっ——ま、待ってください。指揮って、あの、二十八人を率いるっていう——」


「おう。すごいじゃないか! ついに魔王の力が大規模作戦で発揮される時が来たんだ!」


(来てない。来ないでほしかった。帰りたい)


「さすがは陛下。この規模の作戦を任されるとは、ギルド上層部もようやく正しい判断をしたようですな」


 ザガンが涼しい顔で頷いている。彼の尾の先端が微かに揺れていた。上機嫌なのだろう。こっちは胃が捻れそうなのに。


「ヴァルゼン様……大規模な作戦、お体に障りませんか? きっとお心の負担も大きいかと……」


 ミラベルが心配そうに目を潤ませている。違う。心の負担ではなく、純粋に能力の問題だ。二十八人を指揮する能力が——ない。


「指揮官か。面白いな。この規模なら前線と後衛の連携が鍵だ。ヴァルゼン様の采配、楽しみにしております」


 グリゼルダが蒼灰色の瞳に好戦的な光を宿して言った。楽しみにされても困る。采配する頭がない。


「なるほど。二十八名の動員ということは、各パーティの練度にばらつきがあるはず。魔王殿がどう統率するか——実に興味深い」


 フェリクスがモノクルの奥で目を細めながら手帳を取り出した。観察しないでほしい。見るものがない。


(終わった。完全に終わった。二十八人の命を僕が預かる? 冗談じゃない。自分の命すら危ういのに)


 翌日、ギルドの大広間に五つのパーティが集結した。


 ヴァルゼンは広間の奥、指揮卓の前に立たされていた。立たされている、という表現が正確だ。エルヴィンとグリゼルダに両側を固められ、逃走を封じられている。


 他の四パーティのリーダーたちが、こちらを見ている。


 その視線が——重い。


「あれが噂の『最凶の魔王』か……」


 ひそひそ声が聞こえてくる。


「一言で百の魔物を退しりぞけたっていう——」


「殺気だけで上位魔獣が逃げ出すらしいぜ」


「しかも元魔王軍の参謀まで従えてるんだろ? 本物だ……」


(全部嘘です。全部。一つも合ってません)


 四人のリーダーが進み出て、それぞれ自己紹介と挨拶を述べた。


 一人目は赤毛の大男。冒険者歴十五年のベテランだ。

 二人目は双子の弓使い姉妹のうちの姉。精鋭の遊撃パーティを率いている。

 三人目は元傭兵の寡黙な剣士。

 四人目は白鬚しろひげの老魔術師。ギルド内でも古参の実力者だという。


 全員が、ヴァルゼンを真正面から見つめている。


 期待の目だ。


(やめてくれ。その目をやめてくれ。僕は期待に応えられる人間じゃない。人間ですらない。魔族だけど、魔族としても最底辺だ)


「……よろしく、お願い、します」


 絞り出した声は情けないほど小さかった。


 沈黙が広間を満たした。


 ヴァルゼンは死にたくなった。こんな小声で、こんな頼りない挨拶で、二十八人の前に立つ指揮官。笑われても仕方がない。


 しかし——


「……おい、見たか今の」


 赤毛のリーダーが、隣の双子姉に小声で囁いた。


「ああ。威圧も虚勢もない。あれだけの実力者が、この場であの態度を取れるのか」


「余裕ってレベルじゃねえ。二十八人程度じゃ緊張の材料にもならないってことだろ」


(違います。緊張しすぎて声が出なかっただけです)


 白鬚の老魔術師が、深く頷いた。


「ふむ。噂に違わぬ器量よ。真の指揮官とは、声を張り上げる者ではない。在るだけで場を支配する者じゃ」


(在るだけで場を支配? 在ることすら申し訳ないんですが?)


「ヴァルゼン殿」


 老魔術師がヴァルゼンに歩み寄り、深々と頭を下げた。


「この老骨、微力ながらお力添えいたしましょう。どうか存分にお使いくだされ」


 赤毛の大男も、双子姉も、寡黙な剣士も、それぞれ頭を下げた。


「ご指揮、お任せいたします」


 二十八人の視線が、期待と敬意を湛えてヴァルゼンに注がれた。


(終わった。本格的に終わった。これ、どうやって指揮するんだ。戦術も知らないし、地形も読めないし、魔獣の弱点すら——)


「陛下」


 ザガンが、背後からそっと耳打ちした。


「作戦の立案はお任せください。陛下はただ——」


 一拍の間。


「——沈黙していただければ結構です」


(沈黙。それなら得意だ。怖くて何も言えないだけだけど)


 ヴァルゼンは深く息を吸い、腕を組んだ。


 腕を組んだのは、震える手を隠すためだ。


 しかしその姿は——指揮官が思案に沈む姿に、見えた。


「おお……沈思する魔王殿の姿、絵になるな……」


 赤毛のリーダーが感嘆の吐息を漏らした。


(絵にしないでくれ。泣きたいだけなんだ)


 こうして——最弱の魔王は、二十八人の精鋭を率いる指揮官に就任した。


 泣いていいですかと聞く相手すら、いなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ