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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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兵力の集結は、想定を遥かに超えていた。

 兵力の集結は、想定を遥かに超えていた。


 ベリオスの軍団が加わった翌日から、各勢力の部隊が続々と到着し始めた。人間王国の正規軍。魔族領の精鋭部隊。精霊の森の守護者たち。神殿の治癒師団。集結地に設けられた仮設の陣営は、日ごとに規模を増していった。


 それだけなら、予定通りだった。


 問題は——予定にない者たちが、次から次へと現れたことだった。


「冒険者ギルドより、精鋭部隊三十名。魔王殿の作戦に参加いたします」


 ギルド長が直々に率いてきた一団だった。腕に覚えのある冒険者たちが、武器を担いで整列している。装備は統一されていないが、一人一人の目が鋭い。実戦を潜り抜けてきた者たちの目だ。


「……え。ギルドに依頼は出していないのですが」


「依頼ではございません。志願です」


 ギルド長がにやりと笑った。口髭をひねりながら、日焼けした顔に白い歯を見せた。


「魔王殿には、うちのギルド員が何度もお世話になりましたのでな。あの大森林の魔物騒ぎの時も、東の峠の遭難者救助の時も。『あの人が困ってるなら助けに行く』と言い出した者を止められませんでしてね」


(お世話? 僕がギルドに何かした記憶が——あ、あの時か。魔物退治の依頼で僕が逃げ回ってたら、偶然魔物の巣を発見して、ギルドの討伐作戦が成功した、あの時の。あと東の峠は、僕が道に迷って彷徨ってたら、偶然遭難者を見つけただけの……)


 続いて、宗教組織の治癒師団が到着した。神殿とは別系統の、独立した治癒魔法の使い手たちだった。白と青の衣をまとった一団が、整然と集結地に入ってきた。


「我々は教義の違いから神殿には属しておりませんが、魔王殿の呼びかけに賛同して参りました。世界の危機に、教義の違いなど小さなことです」


「呼びかけ……僕、呼びかけてないんですが……」


「あなたの行いそのものが、呼びかけです」


 治癒師団のリーダーが微笑んだ。穏やかな、しかし確信に満ちた笑みだった。


 さらに——辺境の村々から、民兵たちが集まってきた。


 農具を武器に変えた者。旧式の鎧を引っ張り出してきた老兵。まだ少年と呼ぶべき若者。装備はお世辞にも立派とは言えないが、目だけは燃えていた。


 彼らは口々に言った。


「魔王様が困ってるんだろ? 俺たちにできることは少ねえけど、黙って見てるわけにはいかねえよ。あの方には畑を助けてもらった恩がある」


「あの方にはうちの村を救っていただいた。あの時は何もお返しできなかった。だから——恩返しがしたくて」


「魔王様の戦いなら、命を賭ける価値がある。父ちゃんがそう言ってた」


 ヴァルゼンは、集結地の高台からその光景を見下ろしていた。


 次から次へと到着する人々。旗を掲げ、武器を携え、遠い道のりを歩いてきた者たち。平原を埋め尽くす人々の群れが、どこまでも続いている。


「こんなに……来てくれたんですか」


 声が震えた。


 視界がぼやけた。目の奥が熱くなった。


 隣に立つエルヴィンが、腕を組んだまま静かに言った。


「当然だ。お前が救った人たちだぞ」


 何気ない一言だった。


 だがその一言が、三百四十話に及ぶ旅の重みを——凝縮していた。


 ヴァルゼンが救った人たち。ヴァルゼン自身は「救った」とは思っていない。逃げ回っていたら偶然助かった。怯えていたら勝手に敵が引いた。お願いしていたら相手が折れてくれた。自分はいつも巻き込まれていただけで、誰かを救おうと思って行動したことなど——


 いや。それは嘘だ。


 怖かった。いつも怖かった。でも、目の前で誰かが傷つくのを見て見ぬふりはできなかった。それは勇気でも正義感でもない。ただ——心が痛かっただけだ。


 だが結果として——この世界には、ヴァルゼンに恩を感じている人々が無数にいた。


 フェリクスが静かにヴァルゼンの隣に立った。


「魔王殿。あなたは自分が何をしてきたか、理解していないのでしょうね」


「え?」


「この人数は、作戦計画の想定を四割も上回っています。組織の命令で動いた兵ではない。自発的に集まった人々です。これは——あなたの旅そのものが生んだ結果だ。分析しようがない」


 集結地の端に、一人の老人が辿り着いた。


 杖をつき、息を切らし、長旅で埃まみれになった老人だった。白い髪が汗で額に張りつき、足取りは覚束ない。辺境の村から何日もかけて歩いてきたのだろう。


 兵士が駆け寄った。


「おじいさん、ここは戦場になるかもしれません。危険ですよ」


「わかっとる。だが——魔王様に一目お会いしたくてな」


 老人の声はか細かったが、瞳には確かな光があった。


「あの方がうちの村に来てくださった時のことを、忘れられんのだ。あの優しい目をした方が、今度は世界を救うために戦うと聞いて……老いぼれの足でも、来ずにはおれんかった」


 ヴァルゼンはその声を聞いていた。


 気づけば、高台を降りて老人の前に立っていた。足が勝手に動いていた。


「遠くから、本当にありがとうございます」


 ヴァルゼンが老人の手を取った。皺だらけの、枯れ枝のような手。しかしその手に込められた力は——温かかった。


「魔王様……お元気そうで何よりです」


 老人が笑った。歯のない口で、くしゃりと。


 ヴァルゼンの目から、涙がこぼれた。


 エルヴィンが遠くからその光景を見つめ、静かに呟いた。


「……見ろよ。あれが、俺の信じた男だ」


 誰にも聞こえない声で、しかし確信に満ちた声で。


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