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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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全要所活性化、そして

 全要所活性化、そして


 第八の要所は、魔族領の最奥にある古い祭壇だった。


 ベリオスの精鋭部隊が周囲を固めている。黒い甲冑の魔族たちが整然と並ぶ姿は壮観で、ヴァルゼンは少し怯んだ。いや、かなり怯んだ。千人の武装した魔族に囲まれるのは、何回経験しても慣れない。


 部隊の中央に、一際大きな体躯の魔族が立っていた。三メートルに迫る巨体。真紅の角が頭部から天を突き、厳つい顔には無数の戦傷痕が刻まれている。腕を組んで仁王立ちしている姿は、それだけで一つの要塞のようだった。


 ベリオスだった。


「来たか、偽魔王」


 低い声が腹に響いた。地面が振動しているのではないかと思うほどの重低音だ。


「は、はい。来ました」


「遅い。三日も待った」


「す、すみません……」


「謝るな。弱い奴が謝ると余計に腹が立つ」


 相変わらずの剛毅さだった。だが——以前の殺意はない。王都での日々の時のベリオスは、ヴァルゼンを見るたびに「殺す」と言わんばかりの眼光を向けていた。今の目にはそれがない。口は悪いが、目は穏やかだった。少なくとも、殺意はゼロだった。たぶん。


 エルヴィンが耳打ちした。


「やはりツンデレだ」


「聞こえているぞ、勇者」


 ベリオスがじろりとエルヴィンを睨んだ。だが斬りかかってはこなかった。王都での日々なら間違いなく剣を抜いていただろう。これもまた変化だ。


「さっさとやれ。祭壇の準備はしてある」


 ベリオスが顎で祭壇を指した。古い石造りの台座に、魔族の紋様が刻まれている。かつては魔王が即位の儀を行った場所だという。紋様は数百年の風雨に耐えて今も鮮明で、淡い魔力を放っていた。


 ここが、最後の要所。


 ヴァルゼンは祭壇の前に立った。


 周囲を見渡した。パーティの仲間たちがいる。ガロンの部隊がいる。レナの護衛隊がいる。ベリオスの精鋭がいる。そして——見えない場所に、テオドリクスの教団がいる。冒険者ギルドの支部がある。恩返しの村がある。ラドミアの住民たちがいる。


 この旅で出会った全ての人が、今、ヴァルゼンの後ろにいた。


 深呼吸をした。一回。二回。三回。


 目を閉じた。


 魔力感知が広がる。結節点の構造を読み取る。


 だが今回は——それだけではなかった。


 八つ目の要所を感知した瞬間、残りの七つの要所が同時に感覚の中に浮かび上がった。風見の丘。聖泉の谷。鏡湖の岬。朽ちた砦。ラドミアの近郊。断崖の灯台跡。黒鉄の峡谷。


 七つの光が、世界中で脈動している。心臓の鼓動のように、一定のリズムで。


 ここに八つ目が加わった時——全てが繋がる。


 三分。


 結節点の詰まりが解けた。魔力が通った。


 第八の要所が、光を宿した。


 八つの光が——世界中で、同時に輝いた。ヴァルゼンの感知の中で、八つの光点が脈動し、互いを呼び合うように明滅していた。美しかった。世界の心臓が動き始めたかのようだった。


 ヴァルゼンは目を開けた。


「……終わりました」


 全要所活性化完了。


 ベリオスの部隊から、低いどよめきが上がった。祭壇の紋様が淡い光を放ち、周囲の大地が微かに温かくなっている。千人の魔族たちが、目の前の光景を呆然と見つめていた。


「ふん。やるじゃねえか、偽魔王」


 ベリオスの口元が——わずかに——歪んだ。笑みだ。伝令兵が言っていた通り、不器用で、ぶっきらぼうで、だが確かな笑みだった。


 エルヴィンが拳を突き上げた。


「全要所活性化完了! やったぞ、ヴァルゼン!」


 歓声が上がった。パーティの仲間たちが、ガロンの部隊が、レナの護衛隊が、ベリオスの精鋭たちまでもが、声を上げた。黒い甲冑の魔族たちが拳を振り上げる姿は、かつての魔王軍の凱旋を彷彿とさせた。


 だがフェリクスだけが、地図を見つめて眉をひそめていた。


「……魔王殿。一つ、問題があります」


 歓声が静まった。フェリクスの「問題がある」は、いつも本当に問題がある時に出る言葉だ。


「全要所は活性化されました。しかし——魔力循環の再起動には、全要所を同時に『繋ぐ』必要がある」


「繋ぐ?」


「八つの要所の魔力を、一斉に流す。要所間に敷かれた魔力の道を、同時に開通させるのです。川で例えるなら、八つの水門を同時に開けて、一気に水を流す。しかしその規模は——一人では不可能です」


 ヴァルゼンの血の気が引いた。


「不可能って……」


「各要所に魔力を送り込む者が必要です。八箇所同時に。しかもそれぞれの要所の魔力特性を理解した者でなければならない。僕の計算では、各要所に最低十名の魔力使いが必要です。合計八十名」


 フェリクスが地図を指した。八つの光点が大陸中に散らばっている。


「つまり——世界中に展開した各勢力の協力が必要です。人間も、魔族も、教団も、冒険者ギルドも。全種族が同時に動かなければ、再起動は成功しない」


 全種族。


 ヴァルゼンの顔が青ざめた。


「全種族に協力をお願いしなきゃ……」


 その青ざめた表情を見て、グリゼルダが感嘆した。


「世界の命運を一身に背負う魔王の覚悟の表情。胸が打たれます」


(覚悟じゃなくて恐怖です。全種族に頭下げて回るとか、社交不安障害が悪化する未来しか見えない)


 フェリクスが静かに告げた。


「全種族に協力を求めるには、全種族会議を招集する必要がある。人間の王国、魔族の勢力、教団、冒険者ギルド——全ての代表を一堂に集めて、協力を取り付ける」


「全種族会議……」


「そして議長は——」


 全員がヴァルゼンを見た。


 エルヴィン。グリゼルダ。フェリクス。ミラベル。ザガン。ガロン。レナ。ベリオス。


 全員の視線が、ヴァルゼンに集中した。千人の魔族の視線も加わった。合計千人以上の視線が、一人の小柄な魔王に突き刺さっている。


「…………嫌です」


 心の底からの拒否だった。声が裏返っていた。


「決まりだな!」


 エルヴィンが満面の笑みで宣言した。


 ヴァルゼンは天を仰いだ。


 八つの要所が世界中で光を放っている。旅の軌跡が魔力の道として輝いている。神も認め、人も魔族も集い、全てが一つの方向に向かっている。


 ——全種族会議の議長として。


(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。社交的に死ぬ。物理じゃなくて精神的に死ぬ。全種族の代表の前で挨拶とか、考えただけで胃が破裂する。誰か助けて)


 助けは来なかった。


 最後の旅は、まだ始まったばかりだった。


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