表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
284/308

世界が見えた日

 世界が見えた日


 第六の要所は、大陸東端の断崖だんがいに面した古い灯台の跡地だった。


 崖の上に立つと、眼下に広がる海が銀色に光っている。水平線が世界の端のように一直線に伸び、空と海の境目が曖昧に溶け合っている。風が強い。ヴァルゼンの銀灰色の髪が乱れ、ローブの裾がばたばたと翻った。


「ここが第六の要所か。なかなかの絶景だな」


 エルヴィンが感嘆の声を上げた。金髪が風に煽られて獅子のたてがみのようになっている。


「景色を楽しむ余裕があるのは羨ましいです……」


 ヴァルゼンは高所が苦手だった。崖の縁から三歩以上は近づけない。下を見ると足がすくむ。百メートル以上の断崖だ。落ちたら命はない。


 灯台の跡地は、かつて船乗りたちの道標だったらしい。石造りの土台だけが残り、灯台本体は嵐で崩壊して久しい。だが土台の下に、結節点が眠っていた。


 ここまでの旅で、ヴァルゼンは五つの要所を活性化してきた。作業時間は回を追うごとに短くなり、最後の五つ目ではわずか四分三十秒だった。


 活性化作業に入る。


 目を閉じた。


 いつもの手順だ。魔力感知を全開にし、結節点の構造を読み取る。もう迷いはない。身体が——いや、感覚が覚えている。


 だが今回は——何かが違った。


 結節点の構造を読み取った瞬間、ヴァルゼンの感知が一気に広がった。


 要所一つ分の範囲を超えて。この断崖を超えて。海を超えて。大陸全体を包み込むように。


 世界全体の魔力の流れが——地図のように、浮かび上がった。


「——っ」


 息が止まった。


 見えた。


 世界中の魔力が、巨大な血管のように大地を巡っている。脈打つように流れ、結節点で交差し、分岐し、また合流する。山脈の下を潜り、海の底を這い、平原を横切り、森の中を通り抜ける。


 健全な流れもあれば、虚淵の侵食で途切れた場所もある。途切れた場所は黒く枯れていた。世界の血管が壊死しているようだった。


 そしてその流れの中に——自分たちの旅の軌跡が、光る線として刻まれているのが見えた。


 旅の序盤で逃げた道。王都での日々で人々と出会った道。試練の時で試練を越えた道。


 全ての道が——光っていた。


 かすかだが、確かに。自分たちが歩いた場所だけが、魔力の流れの中で光の線を形成していた。まるで大地に刺繍を施したように、光の糸が要所と要所を繋いでいる。


 それは偶然の軌跡ではなかった。


 少なくとも——偶然にしては、あまりにも美しかった。あまりにも正確だった。八つの結節点を、一本の道が繋いでいる。自分たちが歩いた道が。


 涙が出た。


 なぜ泣いているのか、自分でもわからなかった。悲しいのではない。嬉しいのとも違う。ただ——この道を歩いてきたのだ、という実感が、言葉にならない感情になって溢れていた。


 ヴァルゼンは目を開けた。


「……見えた」


 声が震えていた。自分でもわかるほど、声が震えていた。


 全員が身構えた。


「何が見えたのだ!?」


 エルヴィンが聖剣を構えた。グリゼルダが大剣を抜いた。フェリクスが防御魔法の術式を展開した。レナの護衛隊が臨戦態勢をとった。ガロンたちが周囲に散開した。


 ヴァルゼンの「見えた」という一言で、全員が戦闘態勢に入った。それだけ信頼されているということだ。信頼の理由が誤解であることはさておき。


「敵ですか、ヴァルゼン様?」


「……いいえ」


 敵ではない。


 だが何が見えたのか、まだ言葉にできなかった。あまりにも大きすぎて、あまりにも美しすぎて、言葉が追いつかない。世界全体の魔力の流れと、その中に刻まれた自分たちの軌跡。それを伝える言葉が見つからない。


「何が見えたのだ、ヴァルゼン?」


 エルヴィンが心配そうに近づいてきた。聖剣を鞘に戻し、大きな手でヴァルゼンの肩を支えた。


 ヴァルゼンの目に、涙が浮かんでいた。


「ヴァ、ヴァルゼン様? 泣いて——」


 ミラベルが手を伸ばした。だがヴァルゼンはその手に気づかなかった。


 涙が頬を伝っていた。


 怖いからではない。悲しいからでもない。


 あの光の道が——自分たちが歩いてきた全ての道が——一つの大きな意味を持っている。そう確信した瞬間の、言葉にならない感情が、涙になって溢れていた。


「ヴァルゼン。何を見たんだ」


 エルヴィンが静かに問いかけた。普段の大声ではなく、友に語りかけるような穏やかな声で。


「……明日、話す」


 今は無理だった。この感動を、この衝撃を、正確に伝える言葉がまだ見つからない。


「明日でいい。お前が話したい時に話せ」


 エルヴィンがヴァルゼンの肩に手を置いた。大きくて温かい手だった。


 ヴァルゼンは頷いた。


 崖の上の灯台跡が、淡い光を宿した。


 第六の要所、活性化完了。


 何が見えたのか、まだ誰にも言えない。


 だが——明日には、話さなければならない。


 この旅の全てが繋がる、その意味を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ