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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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四つ目の灯

 四つ目の灯


 第三、第四の要所を連続で活性化した。


 鏡湖の岬は穏やかな場所だった。湖面に映る空が鏡のように静かで、水鳥が悠々と泳いでいる。岬の先端に結節点があり、ヴァルゼンが目を閉じると湖全体の魔力の流れが手に取るようにわかった。活性化作業は七分。終わった後、湖面が一瞬だけ金色に輝いた。ミラベルが「きれい」と呟き、またハンカチを取り出した。


 第四の要所、朽ちた砦の跡地では六分。砦は百年以上前に放棄された軍事施設で、石壁は苔に覆われ、塔は半壊していた。だが結節点は砦の地下深くに健在だった。ヴァルゼンが目を閉じると、地下の魔力構造が透視するように把握できた。


 回数を重ねるごとに、ヴァルゼンの感覚は研ぎ澄まされていった。結節点の構造を読み取る速度が上がり、魔力の通し方にも迷いがなくなっている。手順を考える必要がなくなった。糸のほどき方が、考えるまでもなく手に——いや、感覚に馴染んでいく。


 本人は「慣れた」程度の認識だったが、フェリクスの手帳には赤い下線付きでこう記されていた。


『作業時間の推移: 12分→8分→7分→6分。等比的に短縮。学習曲線が理論の限界を超えている。これは「慣れ」では説明できない。仮説:魔王殿の魔力感知は、使用するたびに精度が向上する適応型能力である可能性——要検証』


 第四の要所が光を宿した瞬間、ヴァルゼンは奇妙な感覚に襲われた。


 目を閉じていたのに、何かが——見えた。


 光の糸。


 第一の要所と第二の要所の間に、かすかな光の糸が伸びていた。目には見えない。だが魔力感知には、はっきりと。それは魔力の流れだった。活性化された要所同士が、魔力の道で繋がり始めている。風見の丘と聖泉の谷を結ぶ、目に見えない回路が開通しつつある。


 そしてその道が——自分たちが歩いてきた旅の経路と、重なっていた。


「……不思議だな」


 目を開けて呟いた。砦の跡地に立つヴァルゼンの足元で、石畳が淡く光っている。


「この道、どこかで通った気がする」


 フェリクスの肩が跳ねた。


「魔王殿、今のは——」


「あ、いえ、何でもないです。気のせいかと」


「気のせい、ですか」


 フェリクスは地図を広げた。四つの赤い印が光を宿している。そしてそれらを結ぶ線——フェリクスが引いた青い最適ルートではなく、実際に一行が歩いた経路を赤い点線で書き加えた。


 赤い点線は、四つの要所を結んでいた。


 だが単に結んでいるだけではない。その線が通っている場所は——旅の序盤で逃走した道、王都での日々で遊説した経路、試練の時で試練を受けた行路と、不気味なほど重なっていた。点と点を繋ぐ線が、過去の旅路をなぞるように走っている。


 フェリクスは眉をひそめた。モノクルを外し、裸眼で地図を見つめた。


「……偶然の限界値を超えている」


 小声で呟いた。ヴァルゼンには聞こえていない。エルヴィンは砦の跡地を探検中で、グリゼルダはその見張りをしている。ミラベルはザガンと薬草を摘んでいた。


 地図の上に四つの光点が灯っている。それを結ぶ線が、かつての旅の経路と重なっている。


 偶然か。意図か。


 フェリクスの知性は「偶然ではありえない」と告げている。だが意図だとすれば、ヴァルゼンが旅の序盤の時点で——いや、逃走していた時点で——魔力循環の要所を無意識に選んで歩いていたことになる。


 あり得ない。逃走中の人間が——いや魔族が——魔力循環の結節点を考慮して逃走経路を選ぶはずがない。生死の瀬戸際に、そんな余裕があるはずがない。


 だが——あの男には、魔力感知がある。戦闘力は最底辺でも、魔力の流れを「感じる」能力は規格外だ。もし、その感知が無意識レベルで作動し、「魔力の流れが穏やかな場所」を本能的に選んでいたとしたら——


「あり得ている」


 フェリクスはモノクルを戻し、手帳を閉じた。目頭を押さえた。


 夜営地では、エルヴィンが火の番をしながら上機嫌だった。


「四つ終わったぞ! 半分だな!」


「ああ。順調すぎるくらいだ」


 グリゼルダが頷いた。


「ヴァルゼン様の作業効率が回を追うごとに上がっている。やはり隠していた。これが本来の力だ」


(隠してないし、本来もなにも、ただ慣れただけなんだが……)


 ヴァルゼンは焚き火を見つめていた。


 四つの要所が光を宿した。あと四つ。


 だが気になるのは要所の数ではなく、あの光の糸だった。活性化された要所同士を繋ぐ、見えない魔力の道。


 あの道を、自分は知っている。


 いつ通ったのか、なぜ知っているのか、説明はできない。ただ体の奥深くで、あの道が自分の一部であるかのように感じる。


 ただ——知っている。


 それが何を意味するのか、ヴァルゼンにはまだわからなかった。


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