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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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魔王ランクの護衛

 魔王ランクの護衛


 第三の要所、鏡湖きょうこの岬へ向かう道中のことだった。


 二つの要所を活性化し、旅は順調に進んでいた。街道沿いの宿場町で補給を済ませ、南へ向かう山道に入った頃、異変が起きた。


 街道の分岐点で、冒険者の一団が待ち構えていた。


 十二人。全員が武装し、全員がおそろいの腕章をつけている。腕章には見覚えがあった。冒険者ギルドの紋章——だがその色が違う。通常の銀ではなく、黒地に金の刺繍だ。ギルドの紋章にこんな色のものがあっただろうか。


 先頭の女性冒険者が一歩前に出て、きびきびとした敬礼をした。短い赤髪に鋭い目つき、腰に二本の短剣を差した、いかにも歴戦の冒険者という風貌だ。


「冒険者ギルド特務隊、隊長のレナです。魔王ランクの任務により、魔王陛下の護衛を拝命いたしました!」


 全員が一斉に敬礼した。動きに一切の乱れがない。


「魔王ランクの任務です!」


 ヴァルゼンは固まった。


「ま、魔王ランク……」


 王都での日々で、冒険者ギルドのギルドマスター・ローグが新設した等級だ。通常のSSランクのさらに上、「魔王ランク」。「魔王に関わる任務を専門に遂行する」という、冗談のような制度。当時ヴァルゼンは「冗談ですよね」と聞き返したが、ローグは「半分は」と答えた。


 冗談ではなかったらしい。残りの半分が本気だったということだ。


「ギルドマスター・ローグの命により、魔王陛下の旅路を全行程にわたり護衛いたします。各地の冒険者支部にも通達済みです」


 レナが封書を差し出した。封蝋ふうろうにギルドマスターの紋章が押されている。封蝋は上質な赤蝋で、ローグの流儀だ。形式を重んじる男である。


 フェリクスが封書を受け取り、内容を確認した。


「なるほど。ギルドのネットワークを使って、各要所への安全な道を事前に調査・確保してくれるようです。魔物の出現情報、虚淵の侵食範囲、補給拠点の位置——全て網羅されている。これは助かる」


「至れり尽くせりだな!」


 エルヴィンが嬉しそうに言った。


「ギルドマスター・ローグからの手紙もあります」


 フェリクスが手紙を読み上げた。


「『全支部に通達済み。魔王様の旅路を全力で支援します。なお、魔王ランクの任務報酬はギルド本部が全額負担します。予算は——足りなくなったら国庫に請求します』」


「国庫に!?」


「『P.S. 魔王様、今度うちのギルドの宣伝に名前を使わせてもらっていいですか。冗談です。半分は』」


 ローグらしい手紙だった。あの食わせ者のギルドマスターは、冗談と本気の境界線が限りなく曖昧な男だ。「半分は」が口癖で、残りの半分が常に油断ならない。


 レナたち護衛隊は、さっそく先行偵察に散った。十二人が三人ずつ四班に分かれ、前方・左右・後方を同時にカバーする。街道の先の安全を確認し、魔物の巣を迂回するルートを見つけ、三時間後にはヴァルゼンたちの前に完璧な行軍路が提示された。


「この先五キロメートル、安全を確認。要所までの最短ルート上に魔物の出没報告が二件ありましたが、先行して排除済みです。なお、街道脇の泉で水の補給が可能です」


 レナが淡々と報告した。有能すぎる。


「す、すみません、そこまでしていただかなくても……」


「魔王ランクの任務ですので。手を抜くわけにはいきません」


 真顔だった。冒険者の矜持とは大したものだ。


 グリゼルダが感心した様子で腕を組んだ。


「なるほど。王都での日々で魔王ランクを設立したことが、こういう形で還ってくるわけか。制度が人を動かし、人が道を開く」


「ヴァルゼンは先を見ていたんだな」


 エルヴィンがまた壮大な誤解をしている。


(先を見てない。あの時は成り行きで了承しただけだ。ローグに押し切られただけだ)


 だが護衛隊の存在は確かにありがたかった。戦闘力が壊滅的なヴァルゼンにとって、道中の安全が確保されるのは何より心強い。自分で戦えないぶん、こうした支援がどれだけ助かるか。


 夕暮れの野営地で、レナが最新の情報を持ってきた。報告書の束は整然とまとめられ、地図には最新の情報が書き込まれている。


「第三の要所周辺に、虚淵の小規模な侵食痕が確認されています。ただし現在は活動していない模様です。侵食痕の範囲は半径約二百メートル。迂回路を確保済みです」


「了解しました。明日、慎重に接近しましょう」


 フェリクスが頷いた。


 ヴァルゼンは焚き火の傍で膝を抱えていた。


 村人たちの感謝。テオドリクスの教団。ガロンたちの恩返し。そして冒険者ギルドの護衛。


 自分が何かをしたわけではない。全部偶然の積み重ねだ。転んだだけ。命乞いしただけ。成り行きで了承しただけ。


 だがその偶然が、今、確かな力になって自分を支えている。


 不思議な気分だった。心細くて、でも——少しだけ、温かい。


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