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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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答えが出たのは、翌日の午後だった。

 答えが出たのは、翌日の午後だった。


 フェリクスとザガンが再び広間に全員を集めた。今度の二人の顔には、前日とは違う色があった。疲労はさらに深まっていたが──それ以上に、確信の光が強かった。二人とも目が血走っている。だがその血走った目が、知的興奮で輝いている。恐ろしい組み合わせだった。


「再起動の条件が判明しました」


 フェリクスが一枚の羊皮紙を広げた。先代魔王の記録の最後のページ──断片的にしか読めなかった箇所を、ザガンの知識で補完した復元文書だった。虫食いの部分がザガンの筆跡で丁寧に埋められている。


「先代魔王は、自らの方法が持続可能でないことを理解していました。一人で世界を支え続ければ、いつか限界が来る。事実、限界は来た。だからこそ、別の方法を模索していた形跡があるのです」


「別の方法?」


 エルヴィンが首をかしげた。


「はい。先代は一人で、圧倒的な魔力で循環を回していた。しかし記録にはこう書かれています──」


 フェリクスが復元文書を読み上げた。声が変わった。他人の言葉を正確に伝えようとする、学者の声に。


「『真の循環は、一つの心臓では維持できない。世界の魔力は多様であり、多様な繋がりの中でのみ安定する。我が力は世界を支えるには十分だが、世界を生かすには不十分だ。必要なのは、繋ぐ者。種族の垣根を越え、信頼で魔力を集約し、世界と共鳴する者』」


 広間が静まり返った。

 先代魔王の言葉が、何百年の時を超えて響いている。


「先代はその『繋ぐ者』を見つけられなかった。最強であるがゆえに孤独だった先代には、『繋ぐ』という発想を実行する術がなかった。だから力業で補い続けた。限界を知りながら。しかし──」


 フェリクスがヴァルゼンを見た。


「再起動に必要な条件は三つです」


 指を一本立てた。


「第一。魔力感知。世界の魔力循環の流れを精密に感知し、どこが滞りどこが枯れているかを把握する能力。循環経路の全体図を、自らの感覚で描ける者」


 もう一本。


「第二。交渉力──いえ、正確には多種族の協力。魔力循環は世界全体に及ぶ。人間も魔族も精霊も、全ての種族の魔力を巻き込んで初めて循環が完成する。そのために種族間の信頼と協力を取りつける力。敵を説得し、味方を増やし、垣根を溶かす力」


 三本目。


「第三。人望。信頼による魔力の集約。再起動の瞬間、膨大な魔力が必要になる。だがそれは一人の魔力ではない。周囲の者たちの魔力を、信頼の繋がりを通じて集約する力。恐怖で従わせるのではなく──信頼で繋ぐ。先代にできなかったこと」


 フェリクスが羊皮紙を下ろした。


 広間の全員が、黙っていた。

 空気が変わったのがわかった。


 エルヴィンが最初に口を開いた。


「……全部、お前の得意なことじゃないか」


 ヴァルゼンはぎくりとした。


「得意って言うか……他に何もできないからそうなっただけで……」


「魔力感知は旅の初期から異常な精度だった。交渉は──お前が話すと、なぜか敵も味方も落ち着く。人望に至っては言うまでもない。お前の周りに人が集まるのは、俺が一番よく知ってる」


「いやいやいや。魔力感知は『嫌な感じがする』と言っただけです。交渉は命乞いです。人望はみんなが優しいだけで──」


「天が選んだ魔王だ」


 エルヴィンが断言した。目が輝いていた。完全に確信の目だった。昨日の映像など見なかったかのような輝きだった。


「天は選んでない! 偶然だよ! 血筋が残ってただけだよ!」


 ザガンが口を開いた。


「ヴァルゼン様。一つ、お伝えしたいことがあります」


 元参謀の声が、いつもより柔らかかった。ヴァルゼンは気づいた。ザガンの声が柔らかくなるのは、重要なことを伝えるときだけだ。


「先代魔王の古文書に、予言のような記述がありました。以前お見せしたものです」


 ヴァルゼンは記憶を辿った。あの古文書。確か──。


「『最弱にして最凶の王、世界を繋ぐ者』」


 ザガンが静かに引用した。


「当初、私はこの文言の意味を完全には理解していませんでした。最弱にして最凶──矛盾した言葉だと思っていた。しかし今ならわかります」


 ザガンの目がヴァルゼンを見た。


「最弱──戦闘力においては最底辺。最凶──しかし管理能力において並ぶ者なし。この古文書は比喩ではなかった。文字通りの意味だったのです。戦闘では最も弱く、しかし世界を繋ぐ力では最も恐るべき王」


 広間が、しんと静まった。


「先代魔王は──あるいは」


 ザガンの声が、微かに震えた。二十年の忠義を支えてきた男の声が。


「ヴァルゼン様を後継に指名されたのは、偶然ではなかったのかもしれません。世界の崩壊を予見し、力ではなく繋がりで循環を再起動できる者を──選んでいたのかもしれない。記録は失われていますが、陛下はそういう方でした。何手先も読む方でした」


 ヴァルゼンの頭が真っ白になった。


 先代が。あの最強の魔王が。自分を。選んだ?

 弱いから選んだ? 弱いことが、条件だった?


「……都合がよすぎないか」


 かすれた声で呟いた。


 条件が自分に合っている。先代が自分を選んだかもしれない。全ては必然だった──なんて。そんな話を鵜呑みにしていいのか。


「条件は揃っている」


 フェリクスが静かに言った。感情を排した、事実の報告として。


「あとは──ヴァルゼン殿。あなた自身の覚悟だけです」


 覚悟。


 その言葉が、鉛のようにヴァルゼンの胸に沈んだ。


 戦闘力は要らない。剣も魔法も要らない。ただ──感じて、繋いで、集める。それだけでいい。


 それだけ。

 それだけのはずなのに。


 ヴァルゼンの拳が、膝の上で震えていた。


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