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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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セラフィオンが口を開いたのは、全員が集まった瞬間だった。

 セラフィオンが口を開いたのは、全員が集まった瞬間だった。


 場所は遺跡の最深部──先代魔王ゼルヴァスが最後に立っていたとされる大広間だ。天井は遥か高くに霞み、壁面には見たこともない紋様が刻まれていた。魔力を帯びた光源石が淡い青白い輝きを放ち、広間全体を冷たく照らしている。

 紋様の一つ一つが微かに脈動していた。まるで遺跡そのものが呼吸しているかのように。ヴァルゼンの魔力感知がざわりと反応し、鳥肌が立った。この場所は生きている。何百年も前に主を失ったはずの遺跡が、まだ──何かを待っている。


 ヴァルゼンは隅っこに立とうとしたのだが、なぜかパーティ全員が自分の周りに集まってくるので、結果的に中央に押し出された形になっていた。


 いつものことだった。いつものことだが、慣れない。

 エルヴィンが右隣に立ち、グリゼルダが左後方を固め、フェリクスが少し離れた位置で腕を組み、ミラベルがヴァルゼンの斜め後ろで祈るように手を組んでいる。ザガンは壁際で静かに控えていた。

 布陣としては完璧だ。何の布陣かは知らないが。


「三つの試練でお前の器を測った」


 セラフィオンの声が大広間に響いた。三対の翼が微かに明滅し、金色の瞳がまっすぐにヴァルゼンを射抜いている。その瞳の中の幾何学紋様がゆっくりと回転していた。


「知恵の試練では、汝の判断を見た。力の試練では、汝の在り方を見た。心の試練では、汝の絆を見た」


 どれも自分の力で突破した覚えはなかった。知恵の試練はフェリクスの分析で切り抜け、力の試練はエルヴィンとグリゼルダが文字通り力業で解決し、心の試練はミラベルとザガンの言葉に救われただけだ。

 自分がやったことと言えば、逃げ回り、怯え、パニックで叫んだくらいのものだ。


「だが最後に一つ、確かめねばならぬことがある」


 ヴァルゼンの背筋を冷たいものが走った。

 三つの試練。あの地獄のような試練を三つもくぐり抜けたのだ。正確には、仲間たちが「ヴァルゼンの戦略だ」と勝手に感動してくれたおかげでなんとか乗り切っただけなのだが、ともかくくぐり抜けた。

 それなのに、まだあるのか。


 胃がきゅっと縮んだ。ここ最近、胃が休まる暇がない。冒険者ギルドの保険に胃薬は含まれているだろうか。含まれていないだろうな。


「あの……それは、どのような……」


「お前は──本当に弱いのか?」


 大広間が静まり返った。

 光源石の明かりが揺れた気がした。いや、揺れたのはヴァルゼンの視界の方だった。


 弱いのか、と訊かれた。

 神使が、真正面から。


 心臓が跳ねた。鳩尾みぞおちのあたりが冷たくなった。

 この質問だけは──この質問だけは、されたくなかった。


 返答に詰まっている間に、エルヴィンが一歩前に出た。


「弱いわけないだろ!」


 即答だった。考える時間すら必要としていなかった。

 金髪の勇者は聖剣の柄に手をかけ、真っ直ぐにセラフィオンを見据えている。碧い瞳に迷いは一片もない。


「ヴァルゼンは史上最凶の魔王だ。三つの試練を見ただろう? あの知略、あの判断力、あの格の違い──お前が確かめるまでもないことだ!」


 格の違いは確かにある。ヴァルゼンと他の全員との間に。ただし方向は逆だ。


「勇者よ」


 セラフィオンが静かに遮った。


「我が問うているのは、お前ではない」


 金色の瞳がヴァルゼンに戻る。


「魔王ヴァルゼン。汝自身の口で答えよ」


 全員の視線が集まった。

 エルヴィンの信頼に満ちた目。グリゼルダの鋭い目。フェリクスの分析するような目。ミラベルの心配そうな目。ザガンの静かな目。


 そして、セラフィオンの──何かを確かめるような目。


 ヴァルゼンは唇を開きかけて、閉じた。

 弱い、と言えばいいのか。それが真実だ。だがここでそれを言えば、全てが終わる。仲間たちの信頼が、築き上げてきたものが、何もかも。


 いや、今さらそこを確かめるのか。ここまで来て。三つも試練を出しておいて。最後の最後にそれなのか。

 試練を設計した神使なら、最初から答えを知っているはずだ。観測眼とやらで初対面の時点でヴァルゼンの戦闘力を見抜いていたくせに。


「い、今さらそこ確かめるの……!?」


 思わず内心が口に出た。

 セラフィオンの瞳の紋様が一瞬だけ止まった。


「……答えになっていない」


「いえ、すみません、今のは独り言で……」


「独り言であろうとなかろうと、問いは変わらぬ」


 セラフィオンの表情は、これまでの試練のときとは違っていた。

 超然とした神使の仮面の下に、何かが──真剣さが、滲んでいた。ヴァルゼンの魔力感知が、セラフィオンの翼の明滅パターンの変化を捉えていた。不規則なリズム。焦りにも似た、切迫した光。

 ヴァルゼンは気づいた。これは、試すための問いではない。

 本当に知りたいのだ。この神使は。


 何百年も世界を観測してきた存在が、一人の最弱の魔王に──本気で問いかけている。


 ヴァルゼンの胃がきりきりと痛んだ。


「答えを聞かせてもらおう、魔王ヴァルゼン」


 セラフィオンの翼が大きく広がった。大広間全体が白い光に包まれる。


「──ただし、言葉ではなく」


 光が膨張した。ヴァルゼンは目を細め、腕で顔を庇った。


「真実で」


 光が弾けた。

 そして大広間の中央に、巨大な──鏡のようなものが、出現した。


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