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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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歴史的会議

 歴史的会議


 大聖堂の大広間に、長机が半円形に配置されていた。


 中央にヴァルゼンの席。左翼に人間の王国の使者たち。右翼に魔族の代表。端に精霊の若者。壁際にセラフィオンが超然と佇んでいる。


 パーティメンバーはヴァルゼンの後方に控えた。フェリクスが資料係、ザガンが補佐、エルヴィンとグリゼルダが護衛、ミラベルが——精神的支柱。


 全員が着席し、静まり返った。


 ヴァルゼンが立ち上がった。


「え、えー。本日はお忙しい中——」


 噛んだ。


 最初の一言で噛んだ。


(死にたい)


 会場が微妙な空気に包まれた。レステール王が眉を上げた。テレーヌの宰相が口元を隠した。魔族の長老が目を細めた。


 後方で、フェリクスが小声で呟いた。


「あえて完璧を避けて場の緊張をほぐす高等テクニック。さすがです」


(テクニックじゃないよ! 素で噛んだだけだよ!)


 だがフェリクスの言葉が予言のように機能した。場の緊張が——確かに、わずかに緩んだ。重装甲の将軍の口元に、かすかな笑みが浮かんでいる。


「あ、あらためまして。本日はお集まりいただきありがとうございます。この会議の目的は——虚淵ニヒラムへの対処です。皆さんも、ご承知の通り……」


 ヴァルゼンは必死に話した。噛みながら。時々声が裏返りながら。原稿もなく、ただ感じたことをそのまま言葉にした。


 虚淵が世界中で同時に拡大していること。個別の対処では追いつかないこと。全種族が連携しなければ、世界そのものが危ういこと。


 話し終えた時、額に汗が浮いていた。


「以上です。……何かご質問があれば」


 レステール王が最初に口を開いた。壮年の偉丈夫で、金の冠と深紅のマントが威厳を放っている。


「魔王殿。状況は理解した。だが連合の具体策に入る前に——一つ確認したい」


「は、はい」


「我がレステール軍を動かすには、補給路の確保が不可欠だ。最短経路は魔族の領土を通る。この通行許可を——」


「断る」


 魔族の長老が即座に返した。


「我らの領土に人間の軍を通すことは認めない。歴史的経緯を考えれば当然のことだ」


 一瞬で空気が凍った。


 最初の議題で、いきなり対立。


 ヴァルゼンの胃が悲鳴を上げた。


(始まった。始まっちゃった。開始五分で膠着状態。最悪だ)


 テレーヌの宰相が割り込んだ。


「ならば海路はいかが。テレーヌの港を使えば——」


「海路では遅すぎる。虚淵の拡大速度を考えれば、陸路でなければ間に合わん」


「しかし魔族の領土を——」


「だから断ると言っている」


 怒号とまでは行かないが、声が大きくなっていく。テーブルを叩く音がした。椅子が軋んだ。


 精霊の若者が隅で居心地悪そうに身を縮めている。


 ヴァルゼンは議長席に座ったまま、両陣営の顔を交互に見ていた。


(どちらの言い分もわかる。レステール王は軍を動かすのに最短経路が必要だ。当然だ。でも魔族からすれば、かつて侵攻してきた人間の軍を自分たちの領土に通すなんて論外だろう。どちらも正しい。どちらも正しいから、折り合えない)


 フェリクスが背後から小声で提案した。


「ここは補給路の問題を後回しにして、まず虚淵の情報共有から——」


「でも、後回しにしたら余計拗れない?」


「拗れますが、今このまま続けたら決裂します」


 ヴァルゼンは深呼吸した。


「あ、あの」


 声を上げた。震えた声だったが、議場が静まった。


「補給路の話は、とても大事です。でも——まず、虚淵の話を聞いてもらえますか。僕が感じていることを。それを聞いた上で、改めて補給路の話をしましょう」


 レステール王が目を細めた。


「感じている、とは」


「魔力感知で、虚淵の動きを追っているんです。それで——わかったことがいくつかあります」


 ヴァルゼンはフェリクスが用意した地図を広げた。虚淵の分布図だ。


「この赤い印が虚淵の発生地点です。全部で二十三箇所。でも——これは別々のものじゃないんです。地面の下で、全部繋がっている」


 会場がざわめいた。


「繋がっている?」


「はい。一つの大きな……世界の傷みたいなものが、各地に顔を出している。だから——一箇所を塞いでも、別の場所から出てくる」


 参加者たちの表情が変わった。各国の使者が、自国の被災地の位置を地図の上で確認している。


「つまり……どこか一国だけが対処しても無意味だと?」


 テレーヌの宰相が問うた。


「たぶん、そうです」


 沈黙が落ちた。


 それは——対立の沈黙ではなかった。


 全員が、同じ脅威の前に立たされていることを、初めて実感した沈黙だった。


「……続けてくれ、魔王殿」


 レステール王が言った。


 補給路の話は——後回しになった。


 ヴァルゼンは内心で、ほんの少しだけ安堵した。


(第一ラウンドは、なんとかしのいだ……かな)


 だが会議は、まだ始まったばかりだった。


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